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第4話
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「カカカカカカカイル様!!???」
かなりドモりながら俺の名前を呼ぶファンティーヌ嬢。
その手には、俺もよく知っているタブレットが握りしめられている。
「こんなところで何をしているんですか?」
「ああああああああの、これはははははは……!!!!」
咄嗟に手にしていたタブレットを後ろに隠し、何事もないように振る舞おうとしているけど、そのドモり口調は動揺が隠せていない。
と、思ったら、彼女の背後で「ガシャン!!」という金属がぶつかる音が聞こえた。
……ん?
何か落ちた……?
ゆっくりと後ろを振り向いたファンティーヌ嬢は、急に青ざめた。
なんと、彼女が手にしていたタブレットが河原の石の上に落ち、画面は割れ、最悪な事に小川に浸かっていたのだ。
「ああああああああああ!!! わたしのタブレットがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
この世の終わりかと思うほど叫びまくるファンティーヌ嬢。
これは一体……?
俺は泣き叫ぶファンティーヌ嬢が小川の中に入ろうとしていたので、それを制し、代わりに水に浸かったタブレットを拾い上げた。
「これ、君の?」
「もももももも申し訳ございませんんんんんん!!」
すぐに奪い取ったファンティーヌ嬢は、タブレットを胸元に抱きしめるとそのまま俺に背を向けるようにしゃがみ込んでしまった。
「ああああの、これはですね……その、わたくしの鏡でして! そう、鏡なんですの!」
う~ん……これは彼女も俺と同じ境遇か?
だけど、今までどんなファンタジー漫画や小説を読んできたけど、同じ世界に2人の転生者がいるなんて設定、なかったような…? しかも王子とその婚約者候補が転生者って、どういうこと?
「ファンティーヌ嬢。こんな夜遅くに、こんな人気のない所に一人でいると危ないですよ」
「申し訳ございません!!! すぐに戻ります!! 失礼しました!!!」
俺に向かって深く頭を下げたかと思うと、あっという間に走り去っていってしまった。
う~…む……これは詳しく聞く必要があるようだね。
もし彼女が転生者で、あのタブレットを使って行動しているようなら、直してあげないといけないし。なによりも彼女が口にしていた【ゲーム】っていう単語が気になる。
俺は舞台版とアニメしか知らないけど、ゲームにもなっているのか?
よし! ちょっとカマかけてみるかな。
私室に戻った俺は、側近に頼んでファンティーヌ嬢に手紙を届けてもらった。数日以内に返事が来ればいい方なんだけど、側近は届けたついでに返事を貰ってきた。
「王子、一体どんな内容の手紙をお書きになったのですか?」
側近のセザスは、今まで面会を拒否してきたファンティーヌ嬢が、即答してきたことに驚いているようだ。
「しかも、手紙を侍女に渡したのですが、そのすぐ後に顔面蒼白のファンティーヌ嬢が『お受けします! 明日の朝、執務室にお伺いします!』と泣き叫んでおられたんですよ?」
あ~…目に浮かぶね、その顔。
「別に脅したわけじゃないよ。お話がしたいって書いただけだよ」
『日本語』を使ってねとは言えないかった。セザスに『日本語』と言っても通用しないし、なぜ外国の言葉を接点のない俺とファンティーヌ嬢が知っているのか、絶対に探りを入れてくると思う。
「お話がしたいだけで、あれだけ顔面蒼白になりますか?」
また疑いの目を向けてくるセザス。
わかった、今から君を顔面蒼白にしてあげよう。
「セザス、そんな呑気な事は言ってられないよ? 明日は朝にファンティーヌ嬢が、お昼過ぎにはアイリーン嬢が執務室に来るんだ。その前にやらなければいけない事があるよね?」
「え? …え!!?? 今からですか?」
「当たり前だろ。いつ掃除するんだよ」
「ですが!!」
「心配するな、朝までには終わるって。じゃ、後は頼んだよ」
俺は明日に備えて寝なくては。一日で神経使いそうなんだよね。
そう思って寝室に向かおうとしたら、急に肩をガシッと捕まれた。
「王子、執務室の掃除をするのでしたら、ついでに貯まっている書類の整理をしていただけると助かるのですが?」
「今日の分は終わってるじゃん!」
「いえ、今日の分ではありません。明日の分です。明日は一日、仕事もできないようですから、早めに片づけていただきたい」
「はぁ!? そんなの、明後日に回せばいいだろ!?」
「王子! 王子は常々仰っていますよね? 出来る仕事はその日のうちにって。まさか我々だけに押し付けて、王子は逃げようなんて考え、お持ちではないでしょうね?」
ひぃぃぃぃぃ!! 鬼のような形相とはこの事なのか!? セザスの頭に角が見えるぅぅぅぅ!!!
さすが元騎士団の魔王と呼ばれていただけのことはある。
セザスは、俺が冒険者レベルを上げる目的で騎士団の訓練に参加していた時に出会った。武術も完璧で知識も豊富だったが、どうも暴走してしまう事が多く、騎士団の幹部たちが手を焼いていた。
俺が彼を鑑定したところ、どうやら魔力が人一倍多く、それ故に一度暴走すると感情をコントロールできなくなるらしい。この世界には魔法とか魔力とか存在しないと思っていたのに、極稀に特殊な能力を備えた人間が誕生するんだとか。
で、錬金術レベル上げのついでに、前世で遊んでいたRPGを参考に冒険者向けの装飾品を作っていた時に、魔力の暴走を抑え込める指輪の制作を完成させてしまい、それを試しにセザスに着けてもらった(要は実験台)所、暴走は無くなった。
自分でも抑えきれない感情の爆発をコントロールできるようにしてくれた恩で、一生お仕えします!なんて宣言するもんだから、その時までいなかった俺の側近に任命した。側近になってからは色々とサポートしてくれて、今では最高のボディーガードとなっている。
翌朝、俺はほぼ徹夜の状態で朝を迎えた。
「なんで……なんで騎士団の近状報告とか、農産物の輸出状況とかの調査結果も目を通さないといけないわけ?」
今まで一度も目を通したことのない書類まで報告書として上がっている事に疑問を感じる。
「それは王子の妃候補に関係していると思います。正式に婚約者となれば必要になりますので」
妃候補? ああ、騎士団に所属する父と兄を持つシンディ嬢と、領地の特産物を売り込みたいマーガレット嬢関連ってことか。
そうだよな~。妃に選んだらそういう関係も関わってくるんだよね~。何も考えていなかったわ。だって、俺の本当の目的は自分の命を救う事と、裏切ったファンティーヌ嬢に復讐する事なんだもん。他の事なんかに興味ないんだよね。
「お茶の用意をしてきます。そろそろファンティーヌ嬢がいらっしゃると思いますから」
もうそんな時間!? 俺、寝たいよ~。
セザスが執務室の扉を開けた途端、彼の動きが止まった。
「あの…王子…」
ああ? 俺、寝てないから機嫌悪いんだよ!
「ファンティーヌ嬢がいらっしゃっています」
「……はぁ!?」
セザスが体をどけると、確かにそこには侍女を連れたファンティーヌ嬢がいた。
「あ…あの……朝早くからごめんなさい」
いくらなんでも早すぎだろ!? まさか本気で脅されていると思ってる!?
「セザス、お茶の準備を」
「かしこまりました」
「セザス、アレを用意してくれるか?」
「は…はい。アレですね」
一礼をして去っていくセザスと入れ違いに、ファンティーヌ嬢が部屋の中に入ってきた。
彼女の顔は青色を通り越して白くなっており、昨夜は眠れなかったのか目が充血していた。
俺、マジで脅してた?
「どうぞ、お掛けになってください。すぐに目覚めのいいお茶をご用意しますね」
俺が優しい声(自己判断)で話しかけると、ファンティーヌ嬢はビクっと一瞬肩を震わせて、ソファに腰を下ろした。その後ろには侍女が控えている。願わくば侍女も席を外してほしかった。これから大切な話をするんだから。
「あの、彼女は側においてもいいでしょうか? 彼女はわたくしのすべてを知っている者です」
「あなたの全て…ですか? やはり何か隠している事が?」
「全部話さないといけないのでしょうか?」
「わたしが『日本語』を使えることに違和感を感じるのであれば、すべて話した方がいいと思いますよ」
にっこりと微笑んで(自己判断)語り掛けると、ファンティーヌ嬢は「ひゃ!」と小さな悲鳴を上げて俯いてしまった。よく見ると侍女が鋭い目で俺の事を睨み付けている。
あれ??
少し時間が掛かったが、ファンティーヌ嬢はすべてを話した。
ファンティーヌ嬢は日本生まれの恋愛シミュレーションゲームをこよなく愛する少女らしい。バイト帰りに嵌っているゲームをやりながら公園を歩いていた所(歩きゲームはやめようよ)、大きな地震が起き、運悪く階段上にいた彼女はそこから落ちて死んでしまったと。
で、目が覚めたらこの世界のファンティーヌ・オルベリザス伯爵令嬢として生まれ変わっており、気づいたら王子の妃候補になっていたとのこと。
ゲーム通りの進行かと思ったら、第2王子の母親は生きているわ、初顔合わせのお茶会に第1王子は出席しないわでかなり混乱したらしい。
さらに、昨日の夜はゲーム通りに進んでいるのなら、あの場所で【精霊】に出会い、この国の現状を知り、近い将来起こるであろう国の反乱について考えさせられるイベントだったとか。その【精霊】から話を聞き、そこで特別な力を授かるはずだったとか?
「混乱されているのは承知です。でも、わたくしは女神さまに、この国に本当の平和をもたらしてほしいとお願いされました。でも、ゲームではどの恋愛対象者を選んでも、どのヒロインを選んでも、必ず国で大きな事件が起きてしまうんです。だから、対象者にも、他のヒロインにも出会わなれば事件は起きないと思い、お部屋に閉じこもっていました」
うん? なんか、俺が知っているアニメとは全く違う様に見えるんですけど?
そのゲームはファンティーヌ嬢が主人公ってこと? ってことは、よくある恋愛シミュレーションゲームの【攻略対象者】と恋仲になってエンディングを迎えるってこと?
だけど彼女の話にちょっとだけ疑問を感じる。
恋愛対象者っていうのは【攻略対象者】だということが分かる。
それよりも【ヒロインたち】ってどういう事? ヒロインは一人じゃないの?
「あ~……だいたいのことは分かったんだけど……国で起きる大きな事件って何?」
「そそそそれは!!!!」
「言えない事?」
「………はい」
一瞬、彼女の表情が悲しげになり、そして俯いてしまった。
第2王子が処刑されるってことね。
「それで、女神さまに『本当の平和をもたらしてほしい』ってお願いされたって言っていたけど、その本当の平和って何? ゲームとかいう物語では起きなかった未来を作れってこと?」
「……わたしにも分からないんです!! だって、わたしはカイル様が好きだったから!! カイル様を救う事が出来ると思ってゲームに嵌ったのに、どのヒロインでプレイしても、どのルートを選んでもカイル様が処刑されてしまうんですもの!」
「……ん?」
「わたしが本当に救いたいのは国じゃなくてカイル様なんですぅぅぅぅ!!!」
いや、そんなに力一杯叫ばなくても…。それ、告白に捕らえられるから。
ほら、後ろにいる侍女も困った顔して頭を抱えているじゃないか。
よく見たら扉の前でセザスも固まっちゃっているよ。この男は何処から聞いていたんだろうね?
「えっと……とりあえずお茶にしませんか? 少し落ち着きましょうか」
セザスに目を配ると、すぐに用意してくれたモノをテーブルに並べてくれた。
一応、口を割らなかった時の為に用意した食べ物だけど、彼女はどう反応するんだろう?
「お口に合うかわかりませんが、どうぞお召し上がれ」
俺がそう言うと、顔を上げたファンティーヌ嬢は、目の前に広げられている食べ物を見てまさに「驚愕!!」という顔を見せた。
そう、彼女の前に用意させたのは、日本で大人気のファストフード三点盛り。
「こ…これは、スマイル0円で有名な某ファストフードの、低価格で学生さんも安心して買えるハンバーガー、フライドポテト、ドリンクの3点セット!」
はい、ご丁寧なご説明、ありがとうございます。これであなたが日本から来た転生者だと確信が持てました。
「こちらもご用意していますのでどうぞ」
そう言って差し出したのは、季節限定で売り出しているチョコレートを使った三角の形をしたパイだ。
「季節限定のパイ!!??」
「朝からこってりし過ぎで、胸やけや胃もたれをすると思いますが、これでファンティーヌ嬢が日本からの転生者だという事が分かりました。わたしと同じなんですね」
「……え?」
「わたしもこの世界を舞台としたアニメをこよなく愛する日本の高校生の転生者なんですよ。まさか同じ世界で同じ転生者にお会いできるとは思いませんでした」
そう話すと、ファンティーヌ嬢だけでなく、後ろに控えている侍女も一緒に「ええぇぇぇぇえええぇぇぇ!!!???」と大きな声で叫んだ。
まず、俺が日本語で手紙を出したことに疑問を感じようよ、お2人さん。
その前になんで侍女まで驚く?
<つづく>
かなりドモりながら俺の名前を呼ぶファンティーヌ嬢。
その手には、俺もよく知っているタブレットが握りしめられている。
「こんなところで何をしているんですか?」
「ああああああああの、これはははははは……!!!!」
咄嗟に手にしていたタブレットを後ろに隠し、何事もないように振る舞おうとしているけど、そのドモり口調は動揺が隠せていない。
と、思ったら、彼女の背後で「ガシャン!!」という金属がぶつかる音が聞こえた。
……ん?
何か落ちた……?
ゆっくりと後ろを振り向いたファンティーヌ嬢は、急に青ざめた。
なんと、彼女が手にしていたタブレットが河原の石の上に落ち、画面は割れ、最悪な事に小川に浸かっていたのだ。
「ああああああああああ!!! わたしのタブレットがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
この世の終わりかと思うほど叫びまくるファンティーヌ嬢。
これは一体……?
俺は泣き叫ぶファンティーヌ嬢が小川の中に入ろうとしていたので、それを制し、代わりに水に浸かったタブレットを拾い上げた。
「これ、君の?」
「もももももも申し訳ございませんんんんんん!!」
すぐに奪い取ったファンティーヌ嬢は、タブレットを胸元に抱きしめるとそのまま俺に背を向けるようにしゃがみ込んでしまった。
「ああああの、これはですね……その、わたくしの鏡でして! そう、鏡なんですの!」
う~ん……これは彼女も俺と同じ境遇か?
だけど、今までどんなファンタジー漫画や小説を読んできたけど、同じ世界に2人の転生者がいるなんて設定、なかったような…? しかも王子とその婚約者候補が転生者って、どういうこと?
「ファンティーヌ嬢。こんな夜遅くに、こんな人気のない所に一人でいると危ないですよ」
「申し訳ございません!!! すぐに戻ります!! 失礼しました!!!」
俺に向かって深く頭を下げたかと思うと、あっという間に走り去っていってしまった。
う~…む……これは詳しく聞く必要があるようだね。
もし彼女が転生者で、あのタブレットを使って行動しているようなら、直してあげないといけないし。なによりも彼女が口にしていた【ゲーム】っていう単語が気になる。
俺は舞台版とアニメしか知らないけど、ゲームにもなっているのか?
よし! ちょっとカマかけてみるかな。
私室に戻った俺は、側近に頼んでファンティーヌ嬢に手紙を届けてもらった。数日以内に返事が来ればいい方なんだけど、側近は届けたついでに返事を貰ってきた。
「王子、一体どんな内容の手紙をお書きになったのですか?」
側近のセザスは、今まで面会を拒否してきたファンティーヌ嬢が、即答してきたことに驚いているようだ。
「しかも、手紙を侍女に渡したのですが、そのすぐ後に顔面蒼白のファンティーヌ嬢が『お受けします! 明日の朝、執務室にお伺いします!』と泣き叫んでおられたんですよ?」
あ~…目に浮かぶね、その顔。
「別に脅したわけじゃないよ。お話がしたいって書いただけだよ」
『日本語』を使ってねとは言えないかった。セザスに『日本語』と言っても通用しないし、なぜ外国の言葉を接点のない俺とファンティーヌ嬢が知っているのか、絶対に探りを入れてくると思う。
「お話がしたいだけで、あれだけ顔面蒼白になりますか?」
また疑いの目を向けてくるセザス。
わかった、今から君を顔面蒼白にしてあげよう。
「セザス、そんな呑気な事は言ってられないよ? 明日は朝にファンティーヌ嬢が、お昼過ぎにはアイリーン嬢が執務室に来るんだ。その前にやらなければいけない事があるよね?」
「え? …え!!?? 今からですか?」
「当たり前だろ。いつ掃除するんだよ」
「ですが!!」
「心配するな、朝までには終わるって。じゃ、後は頼んだよ」
俺は明日に備えて寝なくては。一日で神経使いそうなんだよね。
そう思って寝室に向かおうとしたら、急に肩をガシッと捕まれた。
「王子、執務室の掃除をするのでしたら、ついでに貯まっている書類の整理をしていただけると助かるのですが?」
「今日の分は終わってるじゃん!」
「いえ、今日の分ではありません。明日の分です。明日は一日、仕事もできないようですから、早めに片づけていただきたい」
「はぁ!? そんなの、明後日に回せばいいだろ!?」
「王子! 王子は常々仰っていますよね? 出来る仕事はその日のうちにって。まさか我々だけに押し付けて、王子は逃げようなんて考え、お持ちではないでしょうね?」
ひぃぃぃぃぃ!! 鬼のような形相とはこの事なのか!? セザスの頭に角が見えるぅぅぅぅ!!!
さすが元騎士団の魔王と呼ばれていただけのことはある。
セザスは、俺が冒険者レベルを上げる目的で騎士団の訓練に参加していた時に出会った。武術も完璧で知識も豊富だったが、どうも暴走してしまう事が多く、騎士団の幹部たちが手を焼いていた。
俺が彼を鑑定したところ、どうやら魔力が人一倍多く、それ故に一度暴走すると感情をコントロールできなくなるらしい。この世界には魔法とか魔力とか存在しないと思っていたのに、極稀に特殊な能力を備えた人間が誕生するんだとか。
で、錬金術レベル上げのついでに、前世で遊んでいたRPGを参考に冒険者向けの装飾品を作っていた時に、魔力の暴走を抑え込める指輪の制作を完成させてしまい、それを試しにセザスに着けてもらった(要は実験台)所、暴走は無くなった。
自分でも抑えきれない感情の爆発をコントロールできるようにしてくれた恩で、一生お仕えします!なんて宣言するもんだから、その時までいなかった俺の側近に任命した。側近になってからは色々とサポートしてくれて、今では最高のボディーガードとなっている。
翌朝、俺はほぼ徹夜の状態で朝を迎えた。
「なんで……なんで騎士団の近状報告とか、農産物の輸出状況とかの調査結果も目を通さないといけないわけ?」
今まで一度も目を通したことのない書類まで報告書として上がっている事に疑問を感じる。
「それは王子の妃候補に関係していると思います。正式に婚約者となれば必要になりますので」
妃候補? ああ、騎士団に所属する父と兄を持つシンディ嬢と、領地の特産物を売り込みたいマーガレット嬢関連ってことか。
そうだよな~。妃に選んだらそういう関係も関わってくるんだよね~。何も考えていなかったわ。だって、俺の本当の目的は自分の命を救う事と、裏切ったファンティーヌ嬢に復讐する事なんだもん。他の事なんかに興味ないんだよね。
「お茶の用意をしてきます。そろそろファンティーヌ嬢がいらっしゃると思いますから」
もうそんな時間!? 俺、寝たいよ~。
セザスが執務室の扉を開けた途端、彼の動きが止まった。
「あの…王子…」
ああ? 俺、寝てないから機嫌悪いんだよ!
「ファンティーヌ嬢がいらっしゃっています」
「……はぁ!?」
セザスが体をどけると、確かにそこには侍女を連れたファンティーヌ嬢がいた。
「あ…あの……朝早くからごめんなさい」
いくらなんでも早すぎだろ!? まさか本気で脅されていると思ってる!?
「セザス、お茶の準備を」
「かしこまりました」
「セザス、アレを用意してくれるか?」
「は…はい。アレですね」
一礼をして去っていくセザスと入れ違いに、ファンティーヌ嬢が部屋の中に入ってきた。
彼女の顔は青色を通り越して白くなっており、昨夜は眠れなかったのか目が充血していた。
俺、マジで脅してた?
「どうぞ、お掛けになってください。すぐに目覚めのいいお茶をご用意しますね」
俺が優しい声(自己判断)で話しかけると、ファンティーヌ嬢はビクっと一瞬肩を震わせて、ソファに腰を下ろした。その後ろには侍女が控えている。願わくば侍女も席を外してほしかった。これから大切な話をするんだから。
「あの、彼女は側においてもいいでしょうか? 彼女はわたくしのすべてを知っている者です」
「あなたの全て…ですか? やはり何か隠している事が?」
「全部話さないといけないのでしょうか?」
「わたしが『日本語』を使えることに違和感を感じるのであれば、すべて話した方がいいと思いますよ」
にっこりと微笑んで(自己判断)語り掛けると、ファンティーヌ嬢は「ひゃ!」と小さな悲鳴を上げて俯いてしまった。よく見ると侍女が鋭い目で俺の事を睨み付けている。
あれ??
少し時間が掛かったが、ファンティーヌ嬢はすべてを話した。
ファンティーヌ嬢は日本生まれの恋愛シミュレーションゲームをこよなく愛する少女らしい。バイト帰りに嵌っているゲームをやりながら公園を歩いていた所(歩きゲームはやめようよ)、大きな地震が起き、運悪く階段上にいた彼女はそこから落ちて死んでしまったと。
で、目が覚めたらこの世界のファンティーヌ・オルベリザス伯爵令嬢として生まれ変わっており、気づいたら王子の妃候補になっていたとのこと。
ゲーム通りの進行かと思ったら、第2王子の母親は生きているわ、初顔合わせのお茶会に第1王子は出席しないわでかなり混乱したらしい。
さらに、昨日の夜はゲーム通りに進んでいるのなら、あの場所で【精霊】に出会い、この国の現状を知り、近い将来起こるであろう国の反乱について考えさせられるイベントだったとか。その【精霊】から話を聞き、そこで特別な力を授かるはずだったとか?
「混乱されているのは承知です。でも、わたくしは女神さまに、この国に本当の平和をもたらしてほしいとお願いされました。でも、ゲームではどの恋愛対象者を選んでも、どのヒロインを選んでも、必ず国で大きな事件が起きてしまうんです。だから、対象者にも、他のヒロインにも出会わなれば事件は起きないと思い、お部屋に閉じこもっていました」
うん? なんか、俺が知っているアニメとは全く違う様に見えるんですけど?
そのゲームはファンティーヌ嬢が主人公ってこと? ってことは、よくある恋愛シミュレーションゲームの【攻略対象者】と恋仲になってエンディングを迎えるってこと?
だけど彼女の話にちょっとだけ疑問を感じる。
恋愛対象者っていうのは【攻略対象者】だということが分かる。
それよりも【ヒロインたち】ってどういう事? ヒロインは一人じゃないの?
「あ~……だいたいのことは分かったんだけど……国で起きる大きな事件って何?」
「そそそそれは!!!!」
「言えない事?」
「………はい」
一瞬、彼女の表情が悲しげになり、そして俯いてしまった。
第2王子が処刑されるってことね。
「それで、女神さまに『本当の平和をもたらしてほしい』ってお願いされたって言っていたけど、その本当の平和って何? ゲームとかいう物語では起きなかった未来を作れってこと?」
「……わたしにも分からないんです!! だって、わたしはカイル様が好きだったから!! カイル様を救う事が出来ると思ってゲームに嵌ったのに、どのヒロインでプレイしても、どのルートを選んでもカイル様が処刑されてしまうんですもの!」
「……ん?」
「わたしが本当に救いたいのは国じゃなくてカイル様なんですぅぅぅぅ!!!」
いや、そんなに力一杯叫ばなくても…。それ、告白に捕らえられるから。
ほら、後ろにいる侍女も困った顔して頭を抱えているじゃないか。
よく見たら扉の前でセザスも固まっちゃっているよ。この男は何処から聞いていたんだろうね?
「えっと……とりあえずお茶にしませんか? 少し落ち着きましょうか」
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一応、口を割らなかった時の為に用意した食べ物だけど、彼女はどう反応するんだろう?
「お口に合うかわかりませんが、どうぞお召し上がれ」
俺がそう言うと、顔を上げたファンティーヌ嬢は、目の前に広げられている食べ物を見てまさに「驚愕!!」という顔を見せた。
そう、彼女の前に用意させたのは、日本で大人気のファストフード三点盛り。
「こ…これは、スマイル0円で有名な某ファストフードの、低価格で学生さんも安心して買えるハンバーガー、フライドポテト、ドリンクの3点セット!」
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「朝からこってりし過ぎで、胸やけや胃もたれをすると思いますが、これでファンティーヌ嬢が日本からの転生者だという事が分かりました。わたしと同じなんですね」
「……え?」
「わたしもこの世界を舞台としたアニメをこよなく愛する日本の高校生の転生者なんですよ。まさか同じ世界で同じ転生者にお会いできるとは思いませんでした」
そう話すと、ファンティーヌ嬢だけでなく、後ろに控えている侍女も一緒に「ええぇぇぇぇえええぇぇぇ!!!???」と大きな声で叫んだ。
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