黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
13 / 171
2章  二日目 カレーは別腹

2-4 いつもになったらヤバい昼食

しおりを挟む

そしてお昼。

「ふふふ、今日はとっても楽しみです」

ニコニコと笑顔を浮かべながら、麗美が机を移動している。
いつものメンツに麗美を加え、机ひとつ分だけ島が大きくなる。

「そういえばコンビニでお昼買ってきたとか言ってたよな」
「はいっ」

席に付きながら、麗美の持っているコンビニ袋を見る。
よく目にする緑のロゴの入ったコンビニの白いビニール袋。
物自体は変わらないはずなのに、なぜか麗美が持っていると高級なところで買い物でもしてきたかのように見えてきてしまう。
その中身も、たぶんいつもどおりのコンビニ飯なのに。

「で、何を買ってきたんだ?」
「選ぶのに一時間もかかったって言ってたもんね。私も、すごく興味ある」
「ぐふふ。意外と普通のお弁当だったりして」
「私の買ってきたのは、白くて綺麗なこれですっ」

ガサガサとコンビニ袋から、麗美が長方形のパックを一つ取り出した。
俺たちは身を乗り出してそれを見る。

「え……」
「これ?」
「ぐふふ……なんとこれは予想外」

麗美が自信満々に取り出したのは、真ん中に赤い梅干しだけが埋め込まれた、おかずも何もないただのご飯のパックだった。

「いやまさか。他におかずも買ってきてるんでしょ?」

モグモグと焼きうどんパンを頬張りながら砂川が残りのコンビニ袋の方を覗き込む。

「って、なにも入ってない」
「はい。私が買ってきたのはこれだけです」

何が楽しいのか、ニコニコと笑顔のままの麗美。
俺たちは狐につままれたかのようにキョトンとし続けている。

「あ、そうか。ダイエットだよね」

ポンと咲が手を打った。
たぶん自分でも思い当たる部分があるのだろう。

「でもそれなら、糖質が多いからご飯は避けたほうが……」

言いながら、俺の視線に気づいたのかキッと睨みつけてきた。
別にお腹なんか見てませんよーだ。

「ふふふ、違うんです。そういうので選んだんじゃなくて、これがとても綺麗だったから」
「綺麗?」
「はい。日本の国旗みたいで」
「あー」

納得しつつも、それでいてどこか納得しきれない俺たち。

「それじゃあいただきましょうか」

そんな俺たちをよそに、麗美は食事を促してくる。
約一名はとっくに食べ始めていたが、とりあえず俺たちは手を合わせていただきますを言った。

「いただきます」

いつもの習慣というのは恐ろしい。
麗美のご飯が気になっていても、促されるとそのとおりに行動してしまう。
そして俺たちはそのタイミングで、麗美がご飯しか買わなかった理由を知ることとなった。

「失礼します」
「え?」

不意に現れた麗美の黒服たち……昨日は是枝と呼ばれていた年齢不詳のおじさんが、俺たちの机に綺麗なテーブルクロスをかけていく。
止める間もないほどの流れるような動きで、俺たちの弁当もまた配置し直される。
そして、麗美のご飯以外のメニューが出揃った。

「いろいろなカレーを集めてみました。昨夜の咲さんのカレーがとても美味しかったので、その御礼も兼ねてです。さ、みなさん召し上がってください」

唐突にはじまるカレーパーティー。
その量は俺たちだけで食べ切れるものではなく、まわりのクラスメイトたちにも存分に振る舞われた。

「っていうかからあげにカレーつけても美味いのな」
「まあ、カレーは万能だしな」

俺と砂川は咲の揚げてくれたからあげに麗美のカレーをつけてモグモグと頬張る。

「グリーンカレー美味しい」

いかにも緑青が好みそうな独特の風味。
自分のお弁当もそこそこに、緑青はスパイシーなその味に舌鼓を打っていた。

「これ、午後の授業にも匂い残りそうだね」

ちょっともう食べきれないなと諦めたのか、ナンをモグモグしながら自分の分と俺の弁当を片付けていた咲が、軽く鼻をスンスンと鳴らした。
確かに、俺たちの教室の中はまるでインド料理店のような匂いが充満していた。
それは食欲をそそるとてもいい匂いではあったけれども、授業をするのに相応しいとは言い難いものだった。
だが……。

「大丈夫だろ、みどり先生のLHRだし」
「あ、そういえばそっか」

午後イチの授業は体育だから教室は使わない。
そしてそのあとの本日最後の授業は、みどり先生のLHRだ。
となれば、いくらでも言い訳が聞く。
まあでも、麗美本人はともかく、あの黒服連中がそのあたりのことを何も考えていないとは思えない。
自分の仕えている麗美に恥をかかせることなんて、決してしなさそうだからな。

ともかく、こうして唐突に開かれた教室でのカレーパーティは無事に幕を閉じた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...