黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
14 / 171
2章  二日目 カレーは別腹

2ー5 いつもどおりじゃない体育のあとのニオイ

しおりを挟む
体育の授業が終わり、俺たちは教室へと戻った。

「くんかくんかくんか。うーん、まだちょっぴりカレーの匂いがする」

鼻をヒクヒクさせながら着替え始めた俺に、砂川がコロッケパンをモグモグしながら近づいてきた。

「この組み合わせ、なかなかオツだよ。まるでコロッケカレーを食べてるみたい」
「体育のあとはやめろ。見てるだけで胸焼けする」
「動いたんだからエネルギー補給しないと」
「お前ホント燃費悪いよな。いや、いいのか? 食べたのがすぐエネルギーになるんだから」
「どっちでもいいよ。僕は美味しいから食べてるだけだし」
「さいですか」

カレーの匂いがうっすら充満していた教室の匂いに、体育の授業のあとの男子の汗とホコリの匂いが混じっていく。

「しまった、これがあったか」

男女別の体育の授業。
着替えの方も、男子と女子では別だった。
男子は教室で。
女子は更衣室で。
気を遣わなきゃいけないものがいろいろあるから、その区別は当然のことだとは思うけど、今日のところはそこが問題だった。
あのカレーの匂いのする教室で、体育のあとの男子が着替える。
そうなれば当然、その匂いが混じってしまうわけで……。

「違うぞ悦郎。それだけじゃない」
「え?」

ツナサンドをモグモグと頬張りながら、砂川が指さした。
すると、その先では……。

「ちょ、おまっ! 今日はそれダメっ!」

プシューッと制汗スプレーを盛大に使う一人の男子生徒。
いつもならそれほど気にならないフレグランスな香りが、今日は微妙に癪に障る謎の合成臭となって鼻に突き刺さってきた。

「うううっ。さらに臭いが混じっていく」

カレーと汗とホコリと制汗スプレーの香り。
それらが絶妙なケミストリーを生み出すはずもなく、俺たち男子生徒は鼻を摘みながら窓を全開に開けた。

「悪い悦郎」

制汗スプレーを使ったバスケ部の近藤が謝ってくる。

「いや、お前は悪くない。俺たちも気づかなかったからな」
「グラウンドに出る前に窓を開けて行けばよかったな」
「ああ」

砂川と二人、窓から身を乗り出しながら深く呼吸をする。
周りを見ると、俺たち以外のクラスの男子も、窓から身を乗り出すほどのことはしていなかったが、それにほぼ近いことをみんなしていた。

そして、しばらくして女子が着替えを終えて戻ってくる。

「うっ……なんか……いろいろ混じったニオイ……」

咲が眉をしかめ、匂いと表現するか臭いと表現するかで迷っているような顔で俺たちのことを見てきた。

「まあ、そう言うな。こっちもいろいろあったんだ」

教室に女子が増えてくるにつれ、さらにニオイは複雑になっていった。
ほぼ制汗スプレー一択の俺たちに比べて、女子はさらにいろいろな種類のニオイ対策をしている。
それらがまだ少し残っていたカレーの匂いや、俺たちの汗やホコリの臭いを駆逐していく。
そして、少しずつだがマイナス方面のバッドスメルの要素が減っていった。

休み時間が終わり、みどり先生が教室に来るころにはほぼニオイの問題は解消されていた。
俺の机の周りは、まだほのかにカレーの匂いが漂っていたけれども。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...