黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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3章  三日目 特になにもない日

3-4 いつもどおりの昼食

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そして午前の授業が終わり、お待ちかねのご飯タイムとなった。

「あれ? 悦郎、今日のお弁当なんか違くない?」

モグモグとツナサンドを頬張りながら砂川が俺の弁当箱をのぞき込む。

「ああ。今日のは藤田さんの作ってくれた弁当だからな」
「私の分まで作ってもらっちゃった」

そう言って咲も、お弁当を広げる。

「誰かに作ってもらうお弁当なんて久しぶり」
「ふふふ。藤田の料理は一流ですから。なんでしたら、時々作らせましょうか?」
「あっ、ううん。それは大丈夫」
「まあでも、ときどき頼むくらいならいいだろ。咲にだって楽したいときはあるだろうし」
「いいの。私は好きで作ってるんだから」
「ふーん」
「ぐふふ……にぶちんめ」
「ん? なんか言ったか?」
「言ってませーん」
「変な奴め」

咀嚼し終わったツナサンドを砂川がごくんと飲み込む。
そして2つ目のサンドイッチ……タマゴサンドに手を付けた。

「で、藤田さんって誰?」

ああ、そこの説明からだったか。
俺は促すように麗美を見て、その質問の解答権をパスした。

「藤田は私の付き人の1人です。主に料理関係を担当してます」
「って人」
「なるほどー」

モグモグとタマゴサンドを頬張る砂川。
俺は口端にマヨネーズがついているとジェスチャーで伝える。

「そういえば麗美さんのお弁当は?」

咲が藤田さん作の弁当……まるでどこかの料亭の仕出し弁当のようなソレを堪能しながら、麗美に尋ねる。
ふっふっふーと麗美がたまにする自慢げな笑みを浮かべた。
俺はあれを知っている。あれは、電車のことかコンビニのことを話すときに麗美がする表情だ。
となれば、麗美の弁当は……。

「じゃーん。私のお弁当はこれでーす」

そう言って麗美は、コンビニ袋から一つのお弁当を取り出した。
それはごく普通の幕の内弁当。
なるほど、今日はごく普通なものに驚くコースで来たか、とか思ったがそうではなかった。

「そしてこちらも……じゃーん。続いてこちらも……じゃーん」

次々に並べられていく幕の内弁当。
しかしながらそれらは、ちょっとずつ違っていた。
そして、それらが入っていたコンビニ袋に記されているロゴデザインも。

「なるほど。今日はいろいろなコンビニの幕の内弁当の食べくらべですか」

感心したかのように緑青が瞳をキラリと輝かせた。

「ひと口に幕の内弁当と言っても、いろいろありますからね」
「おー。言われてみればそうかも。おかずの選択に、コンビニ各社の性格が出てるみたい」

そんなに違ってるか? と思いながらも、俺は水を刺さないでおく。
とりあえず麗美が楽しそうにしているのが、それはそれで喜ばしいことだと思ったからだ。

「っていうか、この量食べきれる? カレーのときと違って、あんまりみんな興味はなさそうだけど」

モグモグと3つ目のサンドイッチ……ハムサンドを頬張りながら、砂川がクラスを見渡した。
弁当自体の内容もあったけれども、今日の幕の内スペシャルには明確に昨日のカレーとは違うものがあった。
それは、ニオイだ。

「ぐふふ。まあでもこれくらいなら、悦郎がどうにかするでしょ。なにしろ、婚約者の頼みだからね」

悪巧みするときの顔で、緑青がそう言ってくる。
っていうか、その婚約者云々は久しぶりに聞いた気がした。
まだ出会ってから3日しか経っていないけれども、すっかり麗美は俺たちの中に溶け込んでいた。
そして例の婚約者がどうのこうのというのは、すっかり忘れ去られている気がしていた。
まあ……忘れていいようなことではないんだろうけどな。

「まあできる限りは俺も片付けるよ。砂川も食べろよな」
「うん。白米以外なら任せて」

そして昨日に比べて若干地味な感じがする、麗美の幕の内パーティーがはじまった。

「いただきまーす」
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