黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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3章  三日目 特になにもない日

3-6 いつもどおりじゃない放課後

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放課後が訪れた。

「咲また明日ねー」
「うん、ばいばーい」

咲の友達の陽ちゃんが廊下で待っていた高崎と合流し、仲睦まじいリア充オーラを漂わせながら帰っていった。

「高崎、二組の女子に告られたんだってよ」

モグモグと両手に持ったオールドファッションを交互に口に運びながら、砂川がとんでもないことを言ってくる。

「ああ? あの2人のことはまあまあ有名だろ。その女子、知らなかったのか?」
「知ってての突撃だってさ。ダメ元でも自分の気持ちを聞いてほしかったんだと」
「うーん、それはまたなんとも……」

知らずに告ってしまったのか、もしくは横から奪うつもりでの告白かと思ったが、どうやらそうでもなかったらしい。
気持ちはわからないでもなかったが、正直やめておいたほうがよかった選択だと俺は思う。
ちょっと間違えただけで、三人全部が不幸になる可能性が高いからな。

「って、そういえばお前、部活は?」
「これから行くところ。今日は校外でライブだから少し遅いんだ」

ライブの話で、俺は若竹のことを思い出す。
元は同じ軽音部に所属していたヤツのことを、俺は砂川にどのくらい話していいのか迷った。
あの路線変更は、若竹の本意ではなさそうだったから。

「おいクロ。ちょっと来い」

そんな話をしていた俺を、唐突に呼ぶ声がした。
俺をクロと呼ぶ人は、それほど多くない。
視線をやらずとも誰が声を掛けてきたのかほぼ確定させながら、俺は廊下へと移動した。

「どうしました先輩」
「部室の鍵貸してくれ、私のどっか行っちまってよ」
「どっかって……それ大問題じゃないですか」
「そっちはお前の方でちょいちょいっと処理しといてくれ。それよりも私は、部室の中の物が取れないことの方が問題なんだ」
「あー」

俺よりも頭一つ大きい長身の女性。
それは俺たちオカルト研究部の唯一の上級生、藍白洋子先輩だった。

「仕方ありませんね。あとでみどり先生に行っておきます。あ、念のために貴重品を部室に置きっぱなしにしないでくださいね」
「おう」

先輩は俺から部室の鍵を受け取ると、くるりと踵を返して歩き始めた。
ちなみにここでみどり先生が出てくるのは、先生がオカルト研究部の顧問だからだ。
まあ、ほとんど名義だけの存在みたいなもんだけど。

「さてと、それじゃあ俺も……」

教室に戻ろうとする俺を、意外な人物が呼び止めた。

「クロ、ついでに部室に付き合ってくれ」
「は?」

それは腰まである長い髪をなびかせながら部室へと向かったはずの、洋子先輩だった。

「じゃあ悦郎、僕もう行くから」

若干洋子先輩を苦手にしている砂川が、ミニたい焼きをパクパクとつまみながら教室を出ていった。

「えーっと……部室に俺も?」
「そうだ。別に問題ないだろ」
「いやまあ、そうなんですけど……」

教室の方へと視線を戻すと、帰り支度をしていた咲と麗美が準備を終えて俺の方を見ていた。
緑青はニヤニヤと面白そうに、俺たちのことを見ている。

(いやお前らもオカルト研究部員だろ。こっち来いよ)

俺は三人を手招きし、廊下へと呼び寄せる。

「ご無沙汰してます藍白先輩」
「こんちゃっす、洋子パイセン」
「よう」

咲と緑青が、洋子先輩と挨拶を交わす。
一方で麗美は、相手が誰かわからず少し戸惑っていた。

「麗美、この人は藍白洋子さん。オカルト研究部の一個上の先輩だ」
「あ、はい。はじめまして。麗美・マジェンタ・ソルフェリーノです」
「おう。あんたが噂の新入部員か。みどりちゃんから聞いてるぜ」

麗美の綺麗なお辞儀に、軽く手をあげて答える洋子先輩。
2人の仕草に、明確なキャラクターの差が出ているような気がして思わず少し笑ってしまった。

「ぐふふ。なんと悦郎、パイセンにも見惚れてる。気が多すぎ」
「あのなあ……」

いつものようにからかってきた緑青に、水平チョップで軽い突っ込みを入れる。
当然のようにダッキングでそれを交わし、そのままの勢いで左フックを俺の腹部に入れる……寸前で寸止めする緑青。

「さてはお前、昨日ボクシング漫画でも読んだな?」
「来月最新刊が出る。そのために1巻から読み直し中」
「すげえな……もうあれ200巻近いだろ」

見た目に似合わず、緑青はスポーツ漫画が好きだ。
基本的にジャンルは問わないが、その中でも特にボクシング漫画が好きだ。
いじめられっ子が一念発起するようなやつや、いじめっ子側だったのがボクシングに目覚める的なヤツや、謎のギリシャ人たちが出てきてすごい技を使うようなやつとか。

「そうだクロ。せっかくだから歓迎会しようぜ」
「え?」

唐突に洋子先輩がわけのわからないことを言う。

「なんだその顔。わけわからんとか失礼なこと考えてるだろ」
「いや、まあ」
「わからなくないだろうが。お前の婚約者が新しく部に入ったんだから、その歓迎会をするのは当然だろ?」
「え、先輩どこまで知ってるんです?」
「そりゃみどりちゃんが知ってるようなことなら全部だよ」
「そ、そうっすか……」

意外とおしゃべりだな、みどり先生。

「ほれ、行くぞ。こういうときにあの部室便利だからな。咲は買い出し頼むぞ」
「はーい。じゃあ購買いってきま~す」

どうやら、なにもない日だと思っていたが勘違いになるようだ。
ほとんど休眠状態のオカルト研究部。
それがかなり久しぶりに、活動をすることになるらしい。
新入部員の歓迎会という、これっぽっちも活動内容とは無関係なことで。
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