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3章 三日目 特になにもない日
3-7 いつもどおりになりはじめた下校の風景
しおりを挟む「じゃあまたな」
麗美の歓迎会が終わり、そう言って洋子先輩はバイクのエンジンをふかしながら去っていった。
場所は駅前の駐輪場。
詳しいことは知らないが、洋子先輩のバイクはかなりの大きなものだった。
「かっこいい人ですね」
「おばけ怖いらしいけどな」
「え!」
洋子先輩は、本当は禁止されているバイク通学をしている。
そのヘルメットと鍵の隠し場所として、オカルト研究部に入部したらしい。
らしいというのは、俺も本当の経緯を知らないからだ。
ともかく俺が入ったときから、洋子先輩はそれらの隠し場所としてオカルト研究部の部室を使っていた。
よくわからない謎の民芸品なんかが、ものを隠すのにちょうどいいとか。
「おばけが怖いのにオカルト研究部とか……不思議な人ですね」
「そういうのはこれっぽっちも信じていないらしいんだよ。おばけは怖いらしいけど」
「信じてないのに怖いんですか?」
「ぐふふ。それはあれだよ悦郎、麗美。信じてないんじゃなくて、信じたくない」
「なにが違うんだ?」
俺たちは駅に向かって歩きながら、洋子先輩のことを話していた。
「なるほど。怖いから、信じたくない。いないことを証明したい。つまり、そういうことですね」
「正解。さすが麗美」
「ふふふ」
咲のやつはバイトの日で先に帰っていた。
夕食はあとで作りに行くとのことで、特に心配はしていない。
「あ……」
駅の改札を抜けたところで、麗美が暗い表情を浮かべた。
ホームには人の列が溢れている。
それは、朝のラッシュといい勝負の込み具合だった。
「そうか。いつもより遅いから、帰宅ラッシュの時間に引っかかっちまったか」
明らかに麗美の腰が引けている。
ちょっとだけ顔色が悪いのは、この間のことが完全にトラウマになっているのだろう。
「しゃーない。一本待つか。麗美、時間の方大丈夫か?」
「大丈夫ですけど……一本遅らせると何か変わるのですか?」
麗美の疑問ももっともだった。
退勤時間と重なるこの時間帯の人出は、電車を一本くらいずらしたところで大して変わるものではない。
しかしながら、この時間このタイミングにおいてだけは、そのことに明確な意味があったのだ。
「ぐふふ。なるほどね悦郎。確かに、一本遅らせればだいぶ楽になる」
「だろ?」
麗美より先に、この駅をもう二年ほど使っている緑青が俺の考えに気づいた。
俺は、麗美にそのことを説明する。
「次の電車は、ここのひと駅前が始発なんだ」
「ひと駅前が始発? つまり……ここの前が出発の駅ということですか?」
「そういうこと」
「出発の駅がここの前ということは、乗っているのは……ここの前の駅の人たちだけ?」
「正解」
そうして俺たちはラッシュの時間の電車を一本やり過ごし、次の電車で俺と緑青の自宅の最寄駅まで帰ってきた。
「じゃーな緑青」
「また明日」
「ぐふふ。悦郎、ちゃんと麗美を送っていくんだぞ」
「わかってるくせに。うちまでしっかり車が迎えに来るわ」
「知ってるー」
ニヤニヤ笑って俺たちをからかいながら、緑青が1人帰っていった。
そして俺たちは、家に帰る……の前に。
「コンビニだろ?」
「そのとおりです、悦郎さん。実は、今日は朝から楽しみにしてたことがあるんです」
「ほう」
ウキウキした足取りで、麗美がコンビニへと向かう。
そういえば、と俺はふとしたことを思い出した。
こんな風に麗美と2人で歩くのは、ほぼはじめてかもしれない。
かならず俺たちの周りには、他にも誰かいたからな。
そして、コンビニに行けば……。
「あ、転入生。ってことは……」
「よう若竹。今日もバイトか」
「らっしゃい。相変わらずだな悦郎」
特にこれといってコンビニに用のない俺は、レジの若竹のところへ直行する。
もちろん、他に客がいないことは確認済みだ。
そして麗美は、何かを楽しみにしていたらしく、その何かを探しに早足で店の奥へと歩いていった。
「珍しいな。今日は2人だけか」
「咲はバイトだ。そっからうちに直行らしい」
「ふーん。相変わらず奥さんしてんだな」
「うっせ。いまかーちゃんが地方だから仕方ないだろ」
「鉄子さんがいるときでも食事作らせてるくせに」
「あれは……咲が好きでやってるだけだから」
「ふーん。『好き』でねえ」
「あのなあ……お前まで緑青みたいなこと言うんじゃねえよ」
「あははっ! ま、そうだな。これは緑青の役目だったな」
「ったく……」
そんな感じで若竹と雑談をしていると、いつの間にか麗美が俺の後ろに戻ってきていた。
そして俺のシャツの裾を掴み、チョンチョンと引いている。
「どうした? 何か探してたんじゃないのか?」
「あ、あの……CMでずっと見てて、楽しみにしていたものがあるんですけど……」
「見つからないのか?」
「はい」
「わかった。じゃあ俺も一緒に探してやる」
「ありがとうございます」
軽く若竹に目で合図したあと、俺は麗美と連れ立って店の奥へとその『何か』を探しに来た。
「えーっと、それで何を探してたんだ?」
「これです」
そう言って麗美は、スマホの画面を差し出してきた。
その画面を見た瞬間、俺はそれが見つからない理由に気づいてしまった。
「あー、そういうことか」
「??? そういうこと?」
キョトンとする麗美。
まあ、まだ日本に来たばかりではそのことに気づけなくても仕方ないだろう。
俺は麗美に、そのことを説明してやった。
「これ、セバン限定の商品なんだよ」
「セバン限定……あっ!」
まだ日本には疎くてもさすがコンビニマニアの麗美。店の名前と限定の文字で、それの意味するところに気づいたらしい。
「じゃあここ……ラーソンにはこの新発売のスイーツは」
「売ってないな」
「そんな……」
レジから俺たちのやりとり見ていた若竹が、ニヤニヤしていた。
そして、俺の背中の方を指差す。
「なんだよ若竹。こっちに何かあるのか?」
「それ、うちの先週出たやつ。セバンには置いてないから」
なるほど……限定商品には限定商品で対抗しようってことか。
「なになに……冷やしドリアンたい焼き? いやいや、これ大丈夫なのかよ」
戸惑う俺。
それはそうだろう。なにしろドリアンのたい焼きだ。それも、冷やしたやつ。
字面からして、美味しそうには思えない。
そもそも、ドリアンを食べたことがないからそれが合うのかどうかすら判断できなかったが……。
「え! 冷やしドリアンたい焼きあるのですか!?」
しかしながら、麗美の方はそうではなかったらしい。
「全部ください! これ、食べてみたかったんです!」
先週といえばまだ麗美は日本にはいなかったころだ。
もしかすると商品名だけはチェックしていて、買えないものと諦めていたのかもしれない。
「まいどー」
どこかの悪徳商人のような笑顔を浮かべながら、若竹が俺の運んできた一ダース近くの冷やしドリアンたい焼きの会計をする。
っていうか、何がどれだけ売れようがバイトのお前には関係ないだろうが。
そんな当然すぎる突っ込みは、麗美のニコニコ笑顔によって永遠に封印されるのであった。
「うふふ。みんなで食べましょうね」
「あ、ああ……」
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