111 / 171
13章 十三日目 いろんな趣味
13-3 いつもより綺麗な麗美の歌声
しおりを挟む今日の二時間目は、音楽の授業だった。
「ボエ~♪」
合唱の時間。クラスメイトの木村の美声が音楽室に響いている。
低音から高音まで見事に歌い上げる木村。
あまり自分の歌に自信のない俺は、ほぼ口パクでこれっぽっちも声は出していなかった。
周りにもそういう連中が多かったっぽく、男子全員のパートだというのに聞こえてくるのは木村の声ばかりだった。
もうあいつだけでいいんじゃないかな。
そんな気分になりながら、ヤツの歌声を聞いている。
当然のごとくそれはカンカン(音楽講師:本名は神田巻)に見つかり、木村を除いた男子全員でやり直しとなった。
「ちょっと男子、ちゃんと歌って~」
カンカンが自慢のサスペンダーをパチンと響かせながら、俺たちに注意をする。
そして最近テレビでよく見る巨体のコメンテーターによく似た丸っこい身体を揺らしながら、伴奏のピアノを再開した。
「「「「ボエ~♪(一部調子っぱずれな男子たちの歌声)」」」
可もなく不可もなく。
木村を除いた俺たち男子一同は、下手でも上手でもない特に面白みもない歌声をカンカンの伴奏に合わせて披露した。
そして、女子たちが義務のような感情のこもっていないパチパチという拍手でそれに応えてくれる。
「うん。まあ……こんなもんよね。別にいいのよ、上手くなくても。合唱っていう体験をさせることだけが目的なんだもの」
もしかすると自身もそんなに授業としての音楽は好きではないのか、カンカンがぶっちゃけたコメントを口にする。
「じゃあ次は女子のパートねー」
音楽室前方の一段高くなった場所(教壇とは微妙に違うっぽい)から、男子が降りる。
入れ替わるように女子たちがそこに上がり、俺たちは席に着く。
(ってそういえば、音楽室って微妙に普通の教室とは構造が違うよな。壁もなんかポコポコ穴が開いてるし、天井も段々がついてるし)
たぶん防音とか音の反響とか、そういうののためなんだろうとは思うが、細かいことはわからなかった。
そんな不意に気づいた部屋の構造の違いをボケーッと眺めていると、カンカンの伴奏が再びはじまった。
そして女子の歌声が耳に届いてくる。
「「「ルララ~♪」」」
「ッ!」
思わずそちらに目をやってしまう。
そしてそれは俺だけではなかったようで、俺の周りの男子たちも壇上で歌う女子に目が釘付けになっていた。
一人砂川だけが、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「あれ? 悦郎知らなかったの? 麗美さん、めちゃくちゃ歌上手いんだぜ」
「そうか……これ、麗美の歌声か」
以前にも音楽の授業で合唱はあった。
そのときには、そんなに女子の歌声に惹きつけられたことはなかったはずだ。
だが、今日は違った。
どちらかと言えば低めな麗美の歌声。
この声の高さは、麗美が母国語を使っているときの声の高さに似ている。
ソプラノよりもちょっと低め。
アルトよりは少し高い。
メゾソプラノとか言うんだっけか。
うろ覚えの音楽用語を頭の中に思い浮かべながら、俺は麗美の歌声に聞き惚れていた。
「もしかして香染って……」
俺がふと思ったことを、即座に砂川が否定する。
「ないない。あれはそんな後先考えてない。単に、麗美さんのビジュアルに目をつけただけだって」
一瞬だけ上がってまたもとに戻る香染のプロデューサー能力。
それもまたヤツらしいなどと思いながら、俺は麗美の歌声に耳を傾けていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる