黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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16章 十六日目 テスト勉強

16-6 いつもどおりの男だらけの勉強会

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放課後。部活動停止期間中の俺たちは、今日は部室に寄ることなくまっすぐに自宅へと帰った。
そして咲は麗美の家へ。俺は近藤の家へ。
勉強道具を持ち、それぞれの場所へと向かった。

「あ、悦郎くんいらっしゃい。もうみんな来てるよ」

近藤の家に着くと、近藤の下の妹……千歳ちゃんが出迎えてくれた。
そしてもう一匹。

「にゃーん」

スリスリと俺の足元に身体を擦り付けている猫の姿。
近藤家の飼い猫である、ビンゴもまた俺を歓迎してくれた。

「こらビング。ダメだよ。お客様の足に毛がついちゃうでしょ?」

強引にビンゴの胴を掴み、引き剥がそうとする千歳ちゃん。
対するビンゴは、俺のズボンに爪を立てて離れまいとしている。

「んーっ! 離れない!」
「しゃーっ!」

ビンゴの爪は、ズボンを突き破り俺の足まで届き始めた。
痛いがなんとも言えない。
俺は苦笑いをしながら、ビンゴをそっと抱き上げた。

「にゃっ」
「またあとでな」

そして千歳ちゃんに手渡す。
千歳ちゃんはビンゴを大事そうに抱えながらニッコリと笑うと、奥の部屋へとトテトテと走り去っていった。

「おう悦郎。来たか」

玄関口でバタバタしていた音を聞きつけたのか、近藤が階段を降りてくる。
偶然というかなんというか、近藤の部屋も俺の部屋と同じく二階にある。
っていうか、確か砂川の部屋も二階だったな。
あれ? 他の男友達の部屋も二階にあること多くないか?
俺は妙なことに気づき、思わず考え込んでしまう。

「どうした悦郎。忘れ物でもしたか?」
「いや……なんで俺たちの部屋は二階にあるんだろうって思ってな」
「は?」

わけがわからないといった表情を浮かべる近藤。
俺もどうして自分が急にこんなことを思いついてしまったのかがわからない。
と思ったが、その理由について思い当たることがあった。
それは……。

「逃避行動か……」

この手の心理分析的思考をすると、あいつの顔が思い浮かぶ。
咲ではない、もうひとりの幼馴染の顔が。

「わけわかんないこと言ってないでとっとと来いよ。飲み物用意したら俺も行くから」
「おーう」

靴を脱ぎ、近藤の家に上がる。
勝手知ったる他人の家。
俺は案内も必要とせず、近藤の部屋へとまっすぐに向かった。

「遅いぞ悦郎」
「えつろー」

近藤の部屋には、すでに男連中が集まっていた。
木村、砂川、新城、佐郷。
席が近くて、いつもなんとなく一緒にいる連中だ。

「頼りにしてるからな、新城。今日はよろしく頼むぞ」
「まあ、できる範囲でな」

この中では新城が一番頭がいい。
ついで砂川。
俺と木村は、後ろから数えた方が早いくらいだ。

「あははー、筆記用具忘れちゃった。木村くん、貸してね」
「しょうがねえなあ佐郷は」

佐郷と木村は幼馴染。
俺と咲みたいに家が隣同士で、幼稚園のころからつるんでいるらしい。

「開けてくれー。両手がふさがっててドアが開けられーん」

ゴスゴスと近藤がドアを蹴る音がする。
一番近くにいた砂川がドアを開け、近藤を呼び入れる。

「適当に飲み物持ってきた。好きなの飲んでくれ」

それぞれの前に、適当にコップを並べていく。
今日から一週間、こんな感じで俺たちは放課後集まって勉強することになる。

……はずだ。

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