143 / 171
16章 十六日目 テスト勉強
16-8 いつもとは違う味のカレー
しおりを挟む「どうですか、砂川さん」
「うん、美味しいよ」
「ほっ。よかったです」
近藤の家で期末テストのための勉強会をしていた俺たち。
その日はそのまま近藤の家でカレーをごちそうになった。
作ったのは近藤の妹の藍子ちゃん。
もうひとりの妹である千歳ちゃんもじゃがいもの皮むきを手伝ったらしい。
「にゃー」
「ダメだビンゴ。これは猫には食べられないんだ」
なぜか妙に俺に懐いているビンゴが、俺の膝の上に乗ってカレーを狙っている。
当然のことながら、俺がそれを与えるはずはない。
「んもー、悦郎くんばっかり。なんでビンゴ、すぐに悦郎くんにくっつきたがるの?」
小学生の千歳ちゃんが、食事もそこそこに俺の周り(というか正確にはビンゴの周り)をウロウロと歩き回り、どうにかしてビンゴに自分の方を向かせようといろいろしていた。
「こら千歳。食事中は我慢しなさい」
「だってビンゴが」
「ビンゴはご飯食べてから」
「はーい」
まるで父親のような近藤。
いつもの学校での近藤を知っている俺たちは、思わずニヤニヤと笑ってしまった。
「なんだよお前ら。笑うことないだろ」
「だってよー」
「お前らだって家と学校じゃ少しは変わるだろ? 妹とかいるやつはわかると思うけど……」
そう言って近藤は俺たちの顔を見回す。
木村、佐郷、新城、俺、砂川。
「あ……すまん」
近藤の視線が砂川で止まり、気まずそうな表情で謝る。
「いや、気にしないでいいよ」
俺たちの中で妹がいるのは、近藤と砂川だけ。
ただし、砂川の妹は入院中だ。
事情を知らない藍子ちゃんは、不思議そうな表情で近藤と砂川の顔を交互に見ていた。
「まあその話はそれくらいにして、藍子ちゃんのカレーをちゃんと味わおうぜ」
「そうだな。いつも咲ちゃんのカレー食べてる悦郎には物足りないかもしれないが、藍子のもなかなか美味いからな」
「なによー、もう。おにいちゃんはおかわりなしだからね」
「なっ!」
「ははははっ」
一瞬気まずい雰囲気になりかけたが、それはすぐに払拭される。
藍子ちゃんのカレーを美味そうにパクつく佐郷と木村。
なぜか藍子ちゃんにマークされるようにマンツーマンで応対されている砂川。
千歳ちゃんに尻尾をつかまれ、嫌がるように俺の膝の上から逃げていったビンゴ。
そのビンゴを追いかけていった千歳ちゃん。
そして俺と近藤は、最後に残ったカレーをどちらがすくうかで、鍋前で睨み合っていた。
「お前はいつも咲ちゃんのカレー食べてるからいいだろうが」
「むしろそれはこっちのセリフだ。そっちこそいつも藍子ちゃんのカレー食べてるだろ」
「むむむ、なるほど。そう言えばそうだな。じゃあ今度は咲ちゃんがカレー作ったとき、俺も招待しろ」
「それは別にいいけど……っていうかカレーやると、なぜか緑青がいつの間にかいるんだよな」
「緑青さんか……あの子も謎だよな」
「ああ」
「いただきー」
「「ああっ!」」
少し話題が逸れた俺たちの間隙を縫って、新城が最後のカレーを自分の皿によそった。
「おまえー」
「いや、諦めろ悦郎」
「え? いいのか近藤。お前それで」
「俺たちの勉強会にとって、新城は欠かせない人材だ。このくらいは譲っておかないと」
「そう……だな」
クラスではギリギリ五本の指に入るくらいの成績の新城。
とはいえ、それでも俺たちの中ではぶっちぎりに頭がいい。
今日も、俺たちはやつにいろいろと教わりっぱなしだった。
理数系なら砂川でもどうにかなるが、それ以外はどうしようもない。
「仕方がない。諦めよう」
「っていうかあとで、ラーメンでも食べに行こうぜ」
「そうだなっ」
思春期男子の食欲は底なし。
このあと俺たちは、近藤の家からの帰り道で牛丼を食べるのであった。
ラーメン?
それは帰るころにはすっかり忘れていた。
まあ、そういうこともあるわな。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる