黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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16章 十六日目 テスト勉強

16-9 いつもどおりだけど話題が違う夜

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「今日どうだった?」
「まあいつもどおりだな。そっちはどうだ」
「それがね、麗美ちゃんの家っていうのがね」

いつものように俺と咲は、眠る前のしばらくの時間、通話アプリで他愛もないことをあれこれと報告しあっていた。

「は? タワーマンションの最上階から3階分が麗美の家? 意味わからん」
「だよねー。私も行ってみるまでどういうことなのか全然わからなかった」

近藤の家に集まって勉強をした俺たち男子。
対する女子たちは、麗美の家を集合場所にしていた。
わかりやすかった近藤の家と違って、麗美の家は俺の想像の枠をかなり超えていた。

「それはつまり3階分まとめて借りてるってことか?」
「ううん。3階分まとめて1つの物件なの。あと賃貸じゃなくて持ち家だって」

咲の説明を聞いても意味がわからなかった。
3階分まとめて1つの物件? いったいどういうことだ?

「階段とかどうなってるんだ? わざわざ一回廊下に出る感じか?」

おそらく違うだろうとは思いつつ、俺の頭の中に思い浮かんでいるのは普通のマンションの階移動だった。
部屋のドアを出て廊下を移動し、階段ないしはエレベータで別の階に移動する。
もし本当にそんな感じであれば、面倒くさいことこの上ない。
そして当然ながら、咲の答えはそれを否定するものだった。

「違うよ。中にちゃんと階段があるの」
「中ってのは部屋の中にってことか?」
「たぶんね、部屋っていって思い浮かべてるのが、実際のとちょっと違うんだと思う」
「ああ、それは俺もそう思う」

できるだけ豪華なマンションの部屋を思い浮かべてみる。
マンションでなければ、ホテルでもいい。
ホテル……ん? そうか。
行ったことはないけど、外国のホテルとかのスイートルームみたいのを想像すればいいのか。

「ちょっとわかったぞ咲」
「え?」
「あれだろ? 海外の映画とかで出てくるスイートルーム。ああいう感じを想像してみればいいんだ?」
「あー、まあちょっと近いかも。私が最初に思ったのは、マンションの中に別荘がまるごとあるみたいな感じ」
「要するに玄関があってリビングがあってキッチンがあって、廊下にはいくつもの部屋の扉が並んでて、みたいな」
「うんうん。それで、リビングの奥あたりに螺旋階段を思い浮かべて。あ、リビングは吹き抜けね。3階分」
「はあ!?」

そこでまた俺の理解が限界突破してしまった。
3階分吹き抜けのリビングって、なんだそりゃ。
高級ホテルの入り口ロビーかよ。
まあ、高級ホテルなんて行ったことないけど。

「なんだかわからんが、とにかくすごいな」
「うん。いまだに私も頭が追いついてない」
「それじゃあ麗美の部屋もよっぽどすごいんだろうな。もしかして、美術館みたいな部屋だったりするのか?」
「あ、それは普通だった」
「え?」
「広さは8畳くらいで、本棚と机があって。あ、ベッドには天蓋がついてたよ。そこは想像通りだった」

麗美の家に関する話題は尽きなかった。
そのままいつもお開きにする時間くらいまで、ずっとその話をしていた。

ちなみに、筋トレは咲のその話を聞きながらした。


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