黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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17章 十七日目 期末テスト

17-7 いつもよりも寄り道する放課後

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「ほう、これはなかなか……」
「ん? どうした緑青」

麗美とUFOキャッチャーをやったあと、トイレに向かった俺は何かをじっと見ている緑青と遭遇した。

「悦郎、あれ見て」
「なんだなんだ」

緑青が指差す先を見る。
するとそこには、一人の少女がいた。

「あれは……うちの制服か?」

制服の上に大きめのパーカーをまとっていて、その上にヘッドフォンを装着している。
フードをかぶっているために顔はあまり良く見えないが、パーカーの下にわずかに見える制服のデザインは確実にうちの学校のものだった。

「そこじゃない。注目すべきなのは、彼女の腕」
「腕?」

言われて俺は、パーカー女子の腕を見た。
緑青の言っている言葉の意味を、そのままとってしまったのだ。
だが、そうではなかった。
緑青の言いたかったことは、彼女のゲームの腕のことだった。

「おおっ」

パーカー女子が両腕を振り上げる。
その手には、2本の短めの棒が握られていた。
太鼓のバチだ。
彼女が立っているその場所は、音楽に合わせて太鼓を叩く、リズムゲーのプレイポジションだった。

「すげ……」

思わずその姿に見とれてしまう。
ここからでは譜面ををしっかりと確認することはできなかったが、俺の耳に届いてくるそのリズムは完璧無比に思えた。
流れている音楽とも、そのバチから繰り出される太鼓の音は完全に合っていた。
リズムの取りづらいシンコペーション。
腕がブレて見えるほどの高速連打。
右手と左手で別々に刻まれる左右非対称なリズム。
そして時折余裕を見せつけるかのように、リズムを刻まない方のバチがくるくると彼女の手の中で回転させられていた。

「なんだあれ。プロか?」
「わからない。わかるのは、彼女が凄腕だっていうこと」
「だな」

時間も忘れて、俺たちは彼女のプレイを眺めていた。
彼女は俺たちが見ていることも気づかず、淡々とプレイを続ける。
そしてそんな俺たちのところに、咲が合流した。

「なに見てるの?」
「あれだ。プロの太鼓の超人プレイヤー」
「プロかどうかは知らないけどすごい子」
「ふーん」

背後に立つ咲が、俺たちの間から覗き見るように彼女の姿を見る。
すると……。

「あれ? 誰かと思ったら斎藤さんだ」
「やっぱりうちの学校の子だったか」
「うん。四組の子」

なにげに咲の顔は広い。
俺なんて隣のクラスのヤツのことすらほとんど知らないが、咲は同じ学年の女子のことなら大体知っていたりする。
まあ、名前くらいしか知らない子もいるらしいが。

「あ」
「え?」

事態は意外な方向に進んだ。
見事なプレイを見せていたパーカー女子あらため斎藤さんの背後に、どこかで見覚えのある制服を来た女性が近づいてきたのだ。
制服と言っても、学生の制服ではない。
国に属する組織の制服。
端的に言ってしまえば、警察の制服だ。
今朝駅前で軽自動車の取り締まりをしていた女性警察官さんが、パーカー女子の背後に立っていた。
そして、なにやら声をかける。
パーカー女子はそれを無視して太鼓を叩き続けた。
そんな彼女の肩に、女性警察官さんが手を置く。
それを振り払うパーカー女子。
俺たちは、一体何が起きているのかとハラハラしながらそれを見守っていた。

「あ……」

幕切れは唐突に訪れる。
パーカー女子は曲の途中でゲームのプレイをやめ、その場から走り去ってしまった。
そして女性警察官さんは、そのあとを追っていく。

「なんだったんだろう」
「補導か?」
「そういう雰囲気じゃなかったけど……」
「咲の知り合いなんだろ? 何か知らないのか?」
「知り合いって言っても、名前を知ってるくらいだから……」
「ああ、そのくらいの知り合いだったか」
「うん」
「どうかしましたか?」

俺が取ってやった何体かのぬいぐるみを大きめの袋に入れた麗美が俺たちのところに合流する。
説明してやりたかったが、俺たち自身も何が起きたのかがよくわかっていなかった。

テスト初日の放課後は、そんな感じで過ぎていった。


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