黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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17章 十七日目 期末テスト

17-8 だいたいいつもどおりなコンビニ

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「いらっしゃいま……あ、悦郎か」

帰り際、俺たちはいつものようにコンビニに寄った。
元同級生の若竹が働いている行きつけのコンビニだ。

「こんにちわー」
「美晴ちゃんこんにちわ」
「いらっしゃい。今日は久々にお揃いだな」

咲と麗美にはにこやかに挨拶を返す若竹。
俺との扱いの差は一体何なのだろう。
まあ、別にいいんだけどな。

「ってか今日はちょっと早くないか? 外まだ明るいぞ?」

途中だいぶ寄り道したけれども、若竹の言う通りまだまだいつもよりはだいぶ早い時間だった。

「テスト期間だからな。午前だけで学校は終わりだ」
「あー」

同い年だがすでに学生ではなくなっている若竹は、いかにも嫌そうに顔をしかめた。

「でも若竹、成績はよかったよな」
「別に勉強が好きだったわけじゃないよ」

カゴを持って買い物をしにいった咲と麗美をよそに、俺は若竹と無駄話を続ける。
お客さんがいればさすがの俺もそんなことはしないが、そういう時間帯だったのか店内には俺たち以外に誰もいなかった。

「じゃあなんでだ? クラスでも上から数えたほうが早かっただろ」
「あれは音楽やる交換条件だったからな。赤点一つでも取ったら、すぐにギター捨てるって言われてたんだ」
「あー」

今度は俺が顔をしかめる番だった。

「それだけじゃないんだ」
「まだあるのか?」
「俺が資格試験とか検定試験とかよく受けてたの覚えてるか?」
「ああ。そういう趣味なのかと思ってたが、違うのか?」
「違うよ。あれも交換条件だったんだ」
「マジか」
「ライブを一回やるときは、何か資格を一個取れたとき。そういう風に言われてたんだ」
「うへぇ……」

とはいえそのための受験費用やなんかは、親が出してくれていたらしい。
まあ、それもこれも全部娘のためを思ってのことだったのだろう。
結局、若竹は学校を辞めてしまったが。

そんな話をしているタイミングだった。
コンビニの自動ドアが開き、お客さんが入ってきた。

「いらっしゃいませー」

若竹が定型文でお客さんを出迎える。
俺はレジ前から離れて咲たちのところへ行こうとした。
しかし……。

「あれ、あかか。今日は知り合いばっかりだな」
「え?」

若竹の言葉にそのお客さんの方へ視線を戻す。
さっきは気配を感じて立ち去ろうとしてただけだからそんなに見てはいなかったが、よく見ればそれはさっきのパーカー女子だった。

「……」

朱と呼ばれたパーカー女子は、若竹を見て俺を見て、そして無言でフードとヘッドフォンを外した。

「知り合い?」

言葉少なに若竹に尋ねる。

「ああ。学校行ってた時の同級生」
「ふーん」

それだけ答えると、パーカー女子はそのまま雑誌コーナーへと立ち去っていく。
特に大して興味はなかったのか、俺に対する反応は何もなかった。

「知り合いか?」

パーカー女子と似たような質問を俺も若竹に投げかける。

「中学が一緒だった斎藤。っていうか、いま悦郎同じ学校じゃん。知らないの?」
「さすがに他のクラスの女子は知らない子のが多いって。咲は名前だけは知ってたみたいだけど」
「ふーん」

俺は若竹にゲーセンで見たことを話した。

「あー、それ朱のお姉さんだわ。あの子のお姉さん、警察官だから」
「そういうことか」

補導とかとはなんか違う感じがしていたのは、そこに原因があったのかもしれない。
テストの日にゲームセンターで遊んでいる妹を注意する姉。
言われてみれば、あそこにはある種の近さのようなものがあったような気もした。

そして俺たちは若竹おすすめの新作チーズケーキを購入し、コンビニをあとにした。
斎藤さんはまだ雑誌売場で雑誌を読んでいた。
っていうかゲーム雑誌って、まだあったんだな。
もう絶滅しちゃったのかと思ってた。

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