黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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17章 十七日目 期末テスト

17-9 いつも勘違いしてたことを知った夜

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就寝前、俺たちはいつものように通話アプリでつながったまま、明日のテストに向けて勉強をしていた。

「っていうか美沙さんって高学歴だったんだね」
「ああ。俺も今日知った」

手を動かしながらも、口も動く。
俺は割りと手が止まりがちだが、たぶん咲はそうではないだろう。
スマホの向こうからは、止むことなくペンが走る音が聞こえてくるからだ。

ゲームセンターやコンビニに寄ったあと、いつもより早い時間に帰ってきた俺たちは、いつものようにみんなで夕食の食卓を囲んだ。
当然のことながら、そのときには今日のテストの話が出た。
その中で知った新たな事実。
それは、美沙さんについての新しい情報だ。

「てっきり高校中退とかしてすぐにかーちゃんのとこに入ったのかと思ってた」
「まさかあの有名な進学校の生徒だったなんてね」
「それも、今も練習生しながら通ってるだなんて。完全に負けた気分だ」
「あ、あともう1つびっくりしたことあったね」
「たぶんなんのことかわかるぞ」
「じゃあ一緒に言ってみようか」
「うむ」
「せーの」
「「美沙さん同い年だったんだ!」」

完全にハモる俺と咲。
咲がどう思っていたのかはわからないが、俺の方は美沙さんのことを年上だと思っていた。
少なくとも2~3歳。もしかしたら5つくらい上かとも思っていた。
それなのに……。

「でもさ、納得のいかないとこもあるんだよね」
「珍しいな。咲がそういう言い方するなんて」
「だって、ほんとに不思議だから」
「どういう部分が不思議なんだ?」
「そっちは感じなかった、ジェネレーションギャップみたいなの」
「あー」

言われてみればわかる気もする。
確かに美沙さんと話していると、同い年……というか同年代という印象を覚えたことはこれっぽっちもない。
なにしろ、出てくる話題が俺たちよりも一世代くらい上の印象なのだ。

「趣味とかそういうののせいかもしれないな」
「どういうこと?」
「ほら、俺たちかーちゃんたちの業界のこととか全然知らないじゃん」
「うん」
「知ってたとしても、伝説とかになってるくらいの古い人のことだろ?」
「あー、そういうことね。それに合わせて向こうが話題出したりしてくれるから、結果的に昔の人っぽく感じちゃってた」
「そういうこと」

もちろんそれ以外にも理由はあるだろう。
そもそも美沙さんが、懐古趣味的なところがあるとか。

「まあいいや。それよりも勉強勉強」
「おっ、珍しいこと言ってる」
「まあな。テスト期間くらいはやっとかないと」
「でも、筋トレもサボらないようにね。1日休むと取り戻すのに3日かかるらしいよ」
「マジか。だからかーちゃんたち、よっぽどのことがないかぎり毎日あんなきつそうなトレーニングしてるのか」
「キツくても休んだほうが後々めんどうだから、なのかもね」
「くー」

結局その日、咲は日付が変わるくらいまで勉強をしていた。
俺?
俺は腕立てと腹筋をやったら猛烈に眠くなってしまって、いつの間にか寝落ちしてた。
まあ、昨日とおんなじような感じだな。
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