黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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19章 十九日目

19-3 いつもと違うテストの順位

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今日はテスト返却日。
自由登校中とはいえ、今日だけは全員出席が義務付けられている。
いつもは午前50分×4、午後50分×2(もしくは3)の時間割だったが、そこも特別編成になっていた。
一コマ25分×10教科。それを午前6教科、午後4教科で消化する。
とはいえ、返却はまだしも答え合わせや採点ミスの受付なんかに少しずつかかる時間が変わるため、厳密にかっちりとこのタイムスケジュールどおりに進むというわけでもない。
そのおかげで、唐突に20分オーバーの休み時間が生まれたりすることもある。
今は、そんな長い休み時間だ。

「悦郎、どうだ?」
「おう近藤。思ったよりいい感じだぞ」
「マジか」

午前中の残りはあと一コマ。
古典の島崎先生が来るのを待つまでの間、教室にはまったりとした空気が漂っていた。
そんな中、近藤が俺の前の席のイスに逆向きに座り、今回のテストの成果を聞いてきた。

「いまのところ4勝1敗だ。なんと赤点がまだ1教科しかない」
「すげーな。悦郎にしちゃやるじゃねえか」
「そっちはどうなんだ?」
「赤2だ。世界史と物理がダメだった」
「あー。物理は俺と一緒だな」
「わっかんねーよな。なんとかの法則とかありすぎて」
「緑青に言わせれば、法則と公式を覚えておけばいいだけだから、簡単らしいぞ」
「うわー。できるヤツの意見だ」
「まあ実際できてるんだから仕方ないよな」
「確かに」

このクラスの成績上位者である緑青。
どうやら今回はかなり調子がいいらしく、トップの成績を連発している。
それを気に入らないのは、普段から緑青をライバル視している藤黄だった。
もっとも、藤黄が一方的に絡んでいっているだけであって、緑青の方ではまったく気にしてはいないらしい。
逆の意味――からかったら面白い的な意味では気にはしているっぽいが。

そんな藤黄が、当然の如く今の時間も緑青にちょっかいを掛けていた。
今のところ唯一、藤黄が緑青を上回った保健体育の答案用紙を緑青に突きつけているようだ。

「はっはーん。どうだ緑青。素直に敗けを認めろ」
「うん。私の敗け。2点」
「くっくっく。そうそう。それでいいんだよ。私は89点。そっちは87点。2点も私が勝ってる。はーっはっはっはっは」
「……」

どう考えても不毛にしか思えない藤黄と緑青のやりとり。
というか本当に藤黄は、あれで満足なのだろうか。

「なあ近藤」
「なんだ?」
「保健体育で勝っただけで、藤黄の勝ちになるのか?」
「いや、ならないだろ」
「だよな?」
「ってかそもそも、成績で勝負するなら保健体育はカウントしないだろ。一応期末の科目には入ってたけどよ」
「普通は英語とか数学とか、そういうのだよな。受験科目に入ってるような」
「そうそう」

「はーっはっはっはっは。これからは私の天下だな。うんうん。ようやく緑青も私が上だっていうことを認めた。これからは私が勉強見てやるからな。わからないことがあったら、すぐに聞いてこいよ」
「別にいい」
「はははははっ。遠慮するな遠慮するな」
「……」

俺の記憶が確かならば、藤黄が緑青の成績を上回ったのは、これがはじめてのはずだ。
だからなのだろう。
藤黄があんなにもハイテンションになっているのは。
だが……。

「それによ、近藤」
「なんだ?」
「保健体育のトップ、藤黄じゃないよな?」
「ああ。佐郷が満点取りやがった。アイツ、ああいうのはマジで得意なんだよな」

「あーっはっはっはっはっはっは」

あと1教科で午前の授業が終わる。
そんな弛緩した空気の教室に、藤黄の笑い声が響いていた。
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