黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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19章 十九日目

19-4 いつもと違うお昼のメニュー

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そして昼。
お昼の時間が騒がしいのはいつもどおりだったが、今日の盛り上がりはいつも以上だった。
なぜなら、そのお昼のメニューがいつもどおりではなかったからだ。

「そっちもうちょっと下げてくれ」
「こうか?」
「あと5センチ」

お昼だというのに、ご飯も食べずにクラスの男子連中は教室の中に何やら設置していた。
それは、半分に割った無数の竹筒。
それが教室の中を周回するように、U字型に設置されている。
カーブになるあたりの指揮をとっているのは、砂川だった。

「ここちょっと勢いつきすぎるな。もうちょい下側を上げてくれ」
「了解」

俺はその様をボーッと眺めている。
どういうわけか、この企みには俺は含まれていなかった。

「はっはっは。どうだ悦郎。驚いたか?」
「驚いたっていうか驚いてる最中っていうか、誰が考えたんだ、これ」
「誰だっけっかな。忘れちまった」
「あのなあ」
「昨日の帰りに盛り上がってな、連絡つく連中に速攻で広めて、そんでまあ、こんな感じになったってわけだ」
「なんで俺が入ってないんだよ」
「それも忘れた」
「あのなあ……」
「まあいいじゃねえか。たまにはお前もモブ扱いされろよ」
「なに言ってんだよ。俺はいつもモブだよ」
「かーっ。あんだけメインっぽい女の子たち侍らせといて、よく言うよ」
「あいつらが主役級で、俺は単なるサブキャラポジかもしれないだろ?」
「なるほど。一理あるな。二学期に、主役っぽい男子が転校してきたりしてな」
「やーめーろー」

そんなことを話していると、女子たちが調理実習室から戻ってくる。

「おまたせー。準備できてるー?」
「来た! 待ってました!」

鍋に入った、大量のそうめん。
運んでいるのは佐郷や新城。
と思ったら、1組の藤原も混じっている。
もしかすると、他のクラスの連中も便乗しているのかもしれない。

そう。すでにおわかりだろうが、今日の昼のメニューは、流しそうめん。
それも、教室全体を使った大規模なやつ。
一番下流にいたら、まったく食べられないような気しかしない。

(っていうか、自由登校中だからって自由すぎるだろ)

「あははー。やってるやってる。先生もまぜてねー」
「って、みどり先生!」
「はい?」

どうやら、流しそうめん計画はみどり先生公認のプロジェクトだったようだ。
たぶんあとで、学年主任に怒られるんだろうなあ。

などと思っていると、その学年主任までもが教室に入ってきた。

「私もお相伴に与ろうかな」

どうやら、学年主任も巻き込んでいたらしい。
となれば、どこからも文句は出てこない……のかなあ?
いや、バレたらたぶん誰かが怒られるんだろうけど、そのとばっちりを一番受けそうなのは……。

「よし、じゃあ準備もできたところで。この流しそうめん会の主催者である黒柳悦郎にそうめんスタートの音頭を取ってもらおうかな」
「俺!?」
「ほらほら黒柳くん、こっちこっち」
「最初の一本は、ピンクのそうめんにしてね」
「え、えー?」

近藤たちが、ニヤニヤと俺の方を見ている。
みどり先生や学年主任は、当たり前のように俺を教壇へと立たせた。
どうやら、バレたときにとばっちりを受けるのは俺になっていたようだ。
近藤のヤツめ。
そのために俺に連絡をしなかったな。
アイツには一本も食わせてやらんぞ。

……まあ、すべては水の流れ次第だけれども。
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