黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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19章 十九日目

19-5 いつもと同じっぽい帰りのHR

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午後。
テストの返却は残り2教科。
午前中はかなり調子がよかったが、午後の戦績は1勝1敗だった。

(まさか英語が赤点だとは。みどり先生に顔向けできないぜ)

まあ、そのみどり先生本人が採点してるんだから、もう知ってるだろうけどな。
っていうかテスト返してくれたのもみどり先生だし。

「えつろー」
「どうした新城」
「英語ミスったー」
「めずらしいな」

男子の中では一番成績のいいはずの新城が、めずらしく成績のことで俺のところに泣きついてきた。

「まあ俺も赤点だったしな。補習のことならなんでも聞いてくれ。俺はレギュラーだからな」
「え?」
「ん?」

劣等生の先輩として新城にいろいろ教えてやろうと思ったのだが、なぜかその反応が芳しくない。
こいつは何を言っているんだろうという顔で、やつは俺のことを見ていた。

「ダメだったんだろ? 英語」
「ああ」
「だから補習……」

そこで俺はようやくこのなんとも言えない違和感の正体に気づいた。
目の前にいる新城。俺や近藤とよくツルむ仲間ではあるが、成績の面においてはそうではない。
どちらかといえば、緑青や藤黄、もしくは麗美なんかと同じ部類だ。
つまり、優等生なのだ。

「新城……英語、何点だったんだ?」

俺は聞き忘れていたその部分をやつに尋ねる。
ミスったと聞いて、俺はてっきり新城も赤点をとったのだろうと思ってしまったのだ。
俺と同じように。

「68点。やばいよなー、これ」
「全然やばくねえ!」

確かに、クラスの上位陣にとっては70点未満というのはかなりやばい点数なのかもしれない。
だが、俺たちにとってはそうではない。
いつも赤点ギリギリをさまよっている俺や近藤にとっては、それは夢のような点数だ。

「あのなあ新城。ミスった答案ってのは、こういうのを言うんだぞ?」

俺は本当のダメな答案を、やつに見せつける。

「え゛……」

見るなり固まる新城。
どうやら、やつにとってそれは想像の埒外にある答案用紙だったらしい。

(って、これ。俺が悲しいだけじゃないのか?)

    *    *    *

そして全教科の答案用紙の返却が終わり、帰りのHR。
みどり先生が、一枚の紙を配った。
赤点をとった生徒たちだけに。

「はい。補習のみんな行き渡った? それが、夏休み前の補習の時間割になります。自分が出席する補習に印をつけて、名前を書いて来週の月曜日までに先生のところに持ってきてね。じゃあ今日はここまで」
「きりーつ、きをつけー、れいー」

クラスメイトたちが立ち上がり、ガタガタと椅子や机が音を立てる。
そんな中俺は、ボーッとその一枚の紙を眺めていた。

(はー……思ったよりできてたとはいえ、3教科補習かー。物理と英語と美術……っていうか美術の補習ってなにやるんだ?)

俺に夏休みが訪れるまでには、まだまだ乗り越えなければいけないものがありそうだった。
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