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第2章 ドワーフの国〈イルーヴァタール〉

第27話:意志の旅

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目が覚めたのは俺の体に違和感を感じた時だった。

体にロビンとは思えない重さがかかっていた。

金縛りだろうか?

俺はゆっくりと瞼を開く。

そこに広がった景色は、彼女が俺の上に馬乗りをしていた。

「な、何してるんだ?」

俺は慌てて体を起こすと、勢いがありすぎたのか彼女の額と俺の額が音を立てて衝突した。

「いたた」

額を抑えながら、彼女の様子を窺う。

彼女は変わらず、俺に馬乗りしたまま、額を抑えて俯いていた。

「大丈夫か?」

俺は彼女が相当痛そうに見えたので心配になって声を掛ける。

「だ、大丈夫です。そ、そそ、それより、ご奉仕を・・・」

ご奉仕?なんだそれ?俺、何かしてもらえるのか?
ご奉仕ってことは、俺が何かしたという事か?何をしたっけ?服?いや、そんなの当たり前だし・・・・・・。

俺は脳内の自分を否定した。

しかし、俺はその瞬間、結論にたどり着いた。

奴隷に服を買ってあげること自体が珍しいこの世界にとって、ご奉仕をする理由に充分になる。

「ちょっと待て、何をするつもりだ?」

俺は四つん這いになって、徐々に距離を縮めてくる彼女を止める。

「えっと、その・・・・・・」

とても言いにくそうな表情を浮かべている。

という事は、あれだろう。

異世界で、奴隷少女が俺にするご奉仕とは俺にはすごいことを妄想してしまう。

「それは、君の意志か?」

彼女は戸惑いを見せる。

「これは、当たり前の事です。奴隷の私にあんな良い服を買ってくれたのです。ご、ご奉仕するのは当たり前なのです」

震える声ででもはっきりと聞こえるその声には、覚悟を決めた裏に、隠しきれない恐怖が滲み出ている。

「ならしなくていいよ」

「え⁉」

俺の言葉と共に震える声と恐怖は消え、驚きを声にも顔にも出す。

「俺は怖がっている女の子を傷つけるつもりはないし、故郷ではそれを法律で禁止されているからな。逆に普通なんだよそれは」

「で、でもここは故郷ではありません」

「そう言われても、3、コホンッ。20年も故郷に住んでいたから故郷の感覚が抜けないんだよ」

「でも!

「だから」

俺は彼女の声をさえぎる。

「だから、無理しなくていいよ」

俺の言葉に彼女は何かを自覚したような表情を浮かべる。そんな彼女に俺は続け言う。

「俺は君に奴隷になって欲しい訳じゃない、言いなりになって欲しい訳じゃない」

彼女はそっと俯いた。彼女が今どのような表情を浮かべているかは分からない。けど、布団の上に落ちる雫は涙なのは間違いがなかった。

「奴隷商会に時、君は怯えていたはずだ。怖かったはずだ。だから、君を救ってあげたかった」

自分で言っていて思ったが、全て綺麗事かもしれない。俺はただの偽善者かもしれない。それは俺には分からない。
彼女がそう思うなら、俺は彼女を手放すべきだな。

「まあ、建前上はね」

彼女は俯いたまま小さく呟いた。

「ほ、本音は何なんですか?」

俺は奴隷商会で彼女を見た時の事を思い出す。あれを口に出すには少しばかり勇気がいるが、彼女の意志を尊重してあげるなら、言うべきだろう。

「ほ、本音は、君と旅をしたかったんだ」

「旅・・・ですか?」

彼女はゆっくりと俯かせていた、顔を上げ、俺にそう尋ねてきた。

「そう。君を奴隷商会で始めてみた時、君の瞳は汚れがなく綺麗だった。けど恐怖に満たされていた」

俺はそっと彼女の頭に手を乗せて優しく撫でてやる。滑るようにその手で浮かぶ涙を親指で拭ってあげる。

変態じゃないかな。よからぬことは一切考えてない。大丈夫だ。

「だから、君が旅をする事で、世界を知ることで恐怖を掻き消せるんじゃないかなって思ったんだ」

これが俺の本音。変態と呼ばれても仕方ない。だって本音だから。どういわれても、俺の本音は変わらない。

その本音をどう受け止めるか彼女次第。否定しても俺は彼女を縛り上げたりしない。自由にする。それが奴隷の主としての役目だ。

俺はそっと彼女の返事を待った。返事が出そうになければ明日にでも聞こうかと思うが、違った。

「ご主人様、私をその旅に連れて行ってくれませんか?その世界と言うものを知りたいです」

これが彼女の一番最初の意志で、奴隷関係を終える最後の言葉だった。
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