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第一章
なんで、僕がこんな目に
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その後、僕は王女様が宣言したとおりの目にあった。
完全回復薬は使ってもらったけど、もう汚れた床から起き上がる気力もない。
「ねえ、もっと、あなたのこゆうすきるをみせてよ」
頭上から、不服そうな王女様の声が響く。もっとだなんて、冗談じゃない。
「も、申し訳、ござ、いません。こ、れ以、上は……」
「ええ? もうげんかいなの? べるむなら、もっといっぱい、あそんでくれたのに」
そんなことを比べられたって、対抗する気にはならない。あきれられてもいい。早く、こんなところを出ていきたい。
「あなた、おもしろいけどつまらないわね。やっぱり、べるむじゃなきゃ……ああ、そうだわ」
そうだわ、ってなんだ?
かろうじて動く首を捻って王女様に目を向けると、鏡台の引き出しの中を探す姿が見えた。今度は、何をするつもりなんだ?
「ええと、たしかこのあたりに……ああ、あったあった」
王女様が取り出したのは、黒い革紐のようなものだった。なんだろう? ものすごく嫌な魔力を感じる。
「うん、とってもあなたににあいそうだわ」
似合いそう?
「いま、つけてあげるからね」
王女様はそう言いながら、笑顔でこちらにやってきた。
そして、僕の首に革紐を巻き付け――
「これね、いっしゅうかんごに、うちがわからはりがでて、さっきのくすりをちゅうしゃしてくれるくびわなの」
――恐ろしいことを平然と言い放った。
さっきの薬って、あの腐食剤だろ? それを注射するって、冗談だろ?
「のろいがかかってるから、かんたんにははずせないけど、おねがいをきいてくれたらはずしてあげる」
でも、王女様は笑顔だけど、冗談を言ってるようには見えない。
「何を、すれば、い、いのですか?」
「ええとね、やっぱりあそびあいてはべるむがいいの。だから、また、ここにつれてきてほしいの」
ベルムさんをまたここに連れてくる?
そんなことしたら、ベルムさんが酷い目に……。
「いやなら、いまここでちゅうしゃをしてあげるわ」
「わ、分かりました!」
……うん、今は他の人を心配してる余裕なんて、ない。
「そう、ありがとう! じゃあ、きょうはここまでね。べるむのこと、おねがいね」
「は、はい! 必ず連れてまいります!」
僕の返事を聞いて、王女様は笑みをさらに深めた。
それから、ようやく王女様の部屋から解放され、当面はこれからも直接の依頼を続けるという話を聞かされ、王宮から返された。このまま帰って眠ってしまいたいけど、今日中にソベリさんに結果を報告しないといけないから、パーティーの事務所に戻らないと。ついでに、ぼろぼろになったローブの修理代、請求してやろうかな。
疲れた体を引きずって事務所へたどり着くと、ソベリさんが待っていた。
ソベリさんは僕の格好をジロジロみると、苦笑を浮かべた。
「お疲れ様。その様子だと、交渉は上手くいったみたいですね」
この格好を見て、上手くいった?
まさか、この人……。
「ソベリさん、全部知ってたんですか!?」
詰め寄ると、ソベリさんは苦笑したまま目を反らした。
「あ、いやあ、まあ、ベルムさんから少しだけ、話をきいていましたから」
「なら、なんで僕を行かせたんですか!?」
「ほ、ほら、君の固有スキルがあれば、魔術の詠唱中は痛みを感じないんですよね? なら、なんとかなったんじゃないですか?」
「なんともなりませんでしたよ! 詠唱中に身体をボロボロにされて、スキルの効果が切れてもしばらくそのままにされてを繰り返されて……」
思い出すだけで、体中がぞわぞわとする。
「そうでしたか……、それは申し訳ないことをしてしまいましたね……」
「本当ですよ! しかも、こんな首輪までつけられたんですから!」
「首輪? ああ……、何か嫌な魔力を感じると思ったら、その首輪が原因でしたか」
「ええ、この首輪のおかげで、一週間以内にベルムさんを王宮へ連れて行かないと、僕の命が危ないんですよ!」
「一週間以内にベルムさんをつれてくる……」
「そうですよ! でも、ベルムさんの居場所は、把握してないんですよね!? 一体、どうしてくれるんですか!?」
「お、落ちつて下さい、フォルテ君! ベルムさんの居場所はわかりませんが、首輪を外せる人間のあてならありますから」
首輪を外せる人間のあて?
「……それ、本当ですか?」
「ええ、本当です。数年前までこのパーティーに、マリアンさんという回復術士の方が所属していまして」
回復術士のマリアンさん……、ベルムさんが最難関ダンジョンの攻略に成功したときに、一緒に行動していたメンバーだ。このパーティーの設立メンバーで、たしか傷や体力の回復だけじゃなくて、呪いの解除の腕もすごかったって話だったな。
「もう引退されていますが、所在は分かりますので、呪いの解除をお願いするといいですよ」
「でも、もう回復術士を引退されてるんですよね? いきなり訪ねて、相手にしてもらえるんですか?」
「その点はご安心下さい、紹介状を書きますから。私からの紹介であれば、彼女もとりあってくれるはずです」
「そう、ですか……」
紹介状っていうのもあんまり信用はできないけど、ソベリさんも古株だったことは確かだし、ないよりはマシか。
「あ、そうだ、フォルテ君。首輪を外したあとのことなんですが、このまま王宮との交渉担当を任せてもいいですか?」
「いいわけないですよ! 何を考えてるんですか!?」
この人は、本当にどこまでずうずうしいんだ。
「ああ、やっぱりダメですよね。それなら、ベルムさんを探して、ここに連れてきていただけますか?」
「ベルムさんを?」
「ええ。期限は特に設けませんし、成功したときの報酬も弾みます」
……そりゃあ、現パーティーリーダーのソベリさんとしては、王宮との交渉担当者に戻ってきて欲しいんだろう。でも、そんなことしたら、ベルムさんは……。
「それに、もしも連れ戻すことができたら、彼を君の部下にすると約束いたしますよ。人事の決定権は私にあるので」
「僕の、部下に?」
「はい。そもそも、彼が逃げ出さなければ、君が酷い目に遭うこともなかったですよね?」
……たしかに。
今日酷い目に遭ったのも……、それどころか、この間のマルスたちとの一件だって、元々はベルムさんが僕を理不尽にクビにしたのが原因だ。
「だから、彼を呼び戻して、雑用係にしたり……、上長命令で王宮との交渉担当者に戻せば、気分も晴れるのではないでしょうか?」
すごく魅力的な話だけど、さすが王宮との交渉は気が引けるな……あれ? でも、待てよ。
王様と王女様の話だと、ベルムさんは何度も遊び相手になっていたはずだ。
それなら、きっと、痛みを感じない固有スキルとかを持ってるんじゃないか?
うん、きっとそうだ。そうじゃなきゃ、何度もあんな役はできないはず。
王女様は、ベルムさんが苦しんでいた、なんて話をしてたけど、演技をしていただけなんだろうな。なんだ、少しでも心配したのが、馬鹿みたいだ。
「分かりました。では、首輪の解除が終わったら、探してみようと思います」
返事をすると、ソベリさんは目を輝かせた。
「ありがとうございます! 助かります!」
何だかソベリさんに上手く乗せられたような気もするけど、気分を晴らせる絶好のチャンスだし、利用させてもらおう。
完全回復薬は使ってもらったけど、もう汚れた床から起き上がる気力もない。
「ねえ、もっと、あなたのこゆうすきるをみせてよ」
頭上から、不服そうな王女様の声が響く。もっとだなんて、冗談じゃない。
「も、申し訳、ござ、いません。こ、れ以、上は……」
「ええ? もうげんかいなの? べるむなら、もっといっぱい、あそんでくれたのに」
そんなことを比べられたって、対抗する気にはならない。あきれられてもいい。早く、こんなところを出ていきたい。
「あなた、おもしろいけどつまらないわね。やっぱり、べるむじゃなきゃ……ああ、そうだわ」
そうだわ、ってなんだ?
かろうじて動く首を捻って王女様に目を向けると、鏡台の引き出しの中を探す姿が見えた。今度は、何をするつもりなんだ?
「ええと、たしかこのあたりに……ああ、あったあった」
王女様が取り出したのは、黒い革紐のようなものだった。なんだろう? ものすごく嫌な魔力を感じる。
「うん、とってもあなたににあいそうだわ」
似合いそう?
「いま、つけてあげるからね」
王女様はそう言いながら、笑顔でこちらにやってきた。
そして、僕の首に革紐を巻き付け――
「これね、いっしゅうかんごに、うちがわからはりがでて、さっきのくすりをちゅうしゃしてくれるくびわなの」
――恐ろしいことを平然と言い放った。
さっきの薬って、あの腐食剤だろ? それを注射するって、冗談だろ?
「のろいがかかってるから、かんたんにははずせないけど、おねがいをきいてくれたらはずしてあげる」
でも、王女様は笑顔だけど、冗談を言ってるようには見えない。
「何を、すれば、い、いのですか?」
「ええとね、やっぱりあそびあいてはべるむがいいの。だから、また、ここにつれてきてほしいの」
ベルムさんをまたここに連れてくる?
そんなことしたら、ベルムさんが酷い目に……。
「いやなら、いまここでちゅうしゃをしてあげるわ」
「わ、分かりました!」
……うん、今は他の人を心配してる余裕なんて、ない。
「そう、ありがとう! じゃあ、きょうはここまでね。べるむのこと、おねがいね」
「は、はい! 必ず連れてまいります!」
僕の返事を聞いて、王女様は笑みをさらに深めた。
それから、ようやく王女様の部屋から解放され、当面はこれからも直接の依頼を続けるという話を聞かされ、王宮から返された。このまま帰って眠ってしまいたいけど、今日中にソベリさんに結果を報告しないといけないから、パーティーの事務所に戻らないと。ついでに、ぼろぼろになったローブの修理代、請求してやろうかな。
疲れた体を引きずって事務所へたどり着くと、ソベリさんが待っていた。
ソベリさんは僕の格好をジロジロみると、苦笑を浮かべた。
「お疲れ様。その様子だと、交渉は上手くいったみたいですね」
この格好を見て、上手くいった?
まさか、この人……。
「ソベリさん、全部知ってたんですか!?」
詰め寄ると、ソベリさんは苦笑したまま目を反らした。
「あ、いやあ、まあ、ベルムさんから少しだけ、話をきいていましたから」
「なら、なんで僕を行かせたんですか!?」
「ほ、ほら、君の固有スキルがあれば、魔術の詠唱中は痛みを感じないんですよね? なら、なんとかなったんじゃないですか?」
「なんともなりませんでしたよ! 詠唱中に身体をボロボロにされて、スキルの効果が切れてもしばらくそのままにされてを繰り返されて……」
思い出すだけで、体中がぞわぞわとする。
「そうでしたか……、それは申し訳ないことをしてしまいましたね……」
「本当ですよ! しかも、こんな首輪までつけられたんですから!」
「首輪? ああ……、何か嫌な魔力を感じると思ったら、その首輪が原因でしたか」
「ええ、この首輪のおかげで、一週間以内にベルムさんを王宮へ連れて行かないと、僕の命が危ないんですよ!」
「一週間以内にベルムさんをつれてくる……」
「そうですよ! でも、ベルムさんの居場所は、把握してないんですよね!? 一体、どうしてくれるんですか!?」
「お、落ちつて下さい、フォルテ君! ベルムさんの居場所はわかりませんが、首輪を外せる人間のあてならありますから」
首輪を外せる人間のあて?
「……それ、本当ですか?」
「ええ、本当です。数年前までこのパーティーに、マリアンさんという回復術士の方が所属していまして」
回復術士のマリアンさん……、ベルムさんが最難関ダンジョンの攻略に成功したときに、一緒に行動していたメンバーだ。このパーティーの設立メンバーで、たしか傷や体力の回復だけじゃなくて、呪いの解除の腕もすごかったって話だったな。
「もう引退されていますが、所在は分かりますので、呪いの解除をお願いするといいですよ」
「でも、もう回復術士を引退されてるんですよね? いきなり訪ねて、相手にしてもらえるんですか?」
「その点はご安心下さい、紹介状を書きますから。私からの紹介であれば、彼女もとりあってくれるはずです」
「そう、ですか……」
紹介状っていうのもあんまり信用はできないけど、ソベリさんも古株だったことは確かだし、ないよりはマシか。
「あ、そうだ、フォルテ君。首輪を外したあとのことなんですが、このまま王宮との交渉担当を任せてもいいですか?」
「いいわけないですよ! 何を考えてるんですか!?」
この人は、本当にどこまでずうずうしいんだ。
「ああ、やっぱりダメですよね。それなら、ベルムさんを探して、ここに連れてきていただけますか?」
「ベルムさんを?」
「ええ。期限は特に設けませんし、成功したときの報酬も弾みます」
……そりゃあ、現パーティーリーダーのソベリさんとしては、王宮との交渉担当者に戻ってきて欲しいんだろう。でも、そんなことしたら、ベルムさんは……。
「それに、もしも連れ戻すことができたら、彼を君の部下にすると約束いたしますよ。人事の決定権は私にあるので」
「僕の、部下に?」
「はい。そもそも、彼が逃げ出さなければ、君が酷い目に遭うこともなかったですよね?」
……たしかに。
今日酷い目に遭ったのも……、それどころか、この間のマルスたちとの一件だって、元々はベルムさんが僕を理不尽にクビにしたのが原因だ。
「だから、彼を呼び戻して、雑用係にしたり……、上長命令で王宮との交渉担当者に戻せば、気分も晴れるのではないでしょうか?」
すごく魅力的な話だけど、さすが王宮との交渉は気が引けるな……あれ? でも、待てよ。
王様と王女様の話だと、ベルムさんは何度も遊び相手になっていたはずだ。
それなら、きっと、痛みを感じない固有スキルとかを持ってるんじゃないか?
うん、きっとそうだ。そうじゃなきゃ、何度もあんな役はできないはず。
王女様は、ベルムさんが苦しんでいた、なんて話をしてたけど、演技をしていただけなんだろうな。なんだ、少しでも心配したのが、馬鹿みたいだ。
「分かりました。では、首輪の解除が終わったら、探してみようと思います」
返事をすると、ソベリさんは目を輝かせた。
「ありがとうございます! 助かります!」
何だかソベリさんに上手く乗せられたような気もするけど、気分を晴らせる絶好のチャンスだし、利用させてもらおう。
応援ありがとうございます!
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