15 / 32
15. 旦那様(仮)の望んだ人
しおりを挟む(どういう事なの……)
お義父様とお義母様から質問の“答え”を聞いた後の私は、
“こうしてはいられない。これはまずはお父様に問いたださないといけない”
そう思った。
なので、私はお義父様にお願いして、急いでロンディネ子爵家に手紙を届けて貰う事にした。
内容は、
──確認したい事があるので至急、ロイター侯爵家まで来るように。と、お義父様の名前で。
お父様がロイター侯爵家にやって来るならシルヴィの件も直接話が出来るので、シルヴィに関する抗議の手紙作成は一旦見送る事にした。
(あぁ、もう! お父様はどういうつもりで……!)
旦那様(仮)が帰宅する前に、真実を知りたい。
(そうでないと私は旦那様(仮)にどんな顔を向けたらいいのか分からない!)
私は逸る気持ちをどうにか抑えながらお父様の到着を待った。
─────……
あの質問の後、不思議そうに顔を見合せたお義父様とお義母様が私に向かって答えた言葉は……
「それは……もちろんロンディネ子爵家の娘のミルフィさん、よ?」
(……え!)
「あの頃のアドルフォったら、毎日毎日ソワソワしていて面白かったわね」
「そうだったな」
「とっても楽しみにミルフィさんがやってくる日を待っていたわね」
「無口なくせにたまに“ミルフィ”って小さな声で呟いていたな」
二人は驚いている私に気付かず懐かしそうにその頃の事を語る。
(──! なんですって!?)
そして、お義父様とお義母様の会話のある部分で私は言葉を失った。
(だ、旦那様(仮)が声を発していたですってーー!?)
これは驚かずにはいられない。
なんなら、実は自分が花嫁にと求められていました……という事実よりも衝撃的だったと言えるかもしれない。
(しかも、ミルフィって呼んでた……?)
「あの時のアドルフォの姿をぜひ、ミルフィさんにも見せてあげた……」
「?」
お義母様が変な所で言葉を切ったので不思議に思ったら、お義母様は笑いながら言った。
「あぁ、ごめんなさい? あの頃のアドルフォをミルフィさんに見せてあげたかったわと思ったけれど、あなたを花嫁に迎えてからの、何かある度に顔を赤くしてオロオロしているアドルフォとそんなに変わらないわね、と思い直してしまって」
「今、私の前で顔を赤くしてオロオロする旦那様……」
「そうよ? だってアドルフォがあんな風に挙動不審になるのは、あなた……ミルフィさんの前だけだもの」
「!!」
ボンッと私の顔が赤くなる。
先程、散々言われた“私は特別”という言葉が甦ってくる。
(私は旦那様(仮)の特別……?)
そして、花嫁にと望まれていた……?
その答えが知りたくて。
そして、それなら何故お父様は“契約の花嫁”だの“私でもシルヴィでもいい”と言ったのか……
私はそれが早く知りたくて、お父様を呼び出す事をお義父様とお義母様にお願いした。
*****
「ミ、ミルフィ。こ、これはどういう事なんだ?」
「お久しぶりですわね、お父様」
今、私の目の前には、顔色を悪くしたお父様がビクビクと身体を震わせている。
そんなお父様を私はニッコリ笑いながら出迎えた。
「ロ、ロイター侯爵家から早馬が来て、今すぐ屋敷に来るように……と。これはいったい?」
「……」
「少し前にシルヴィが……何やら憤慨した様子で帰って来たが……まさか、その事で……? シルヴィは侯爵家で何か問題でも起こしたのか?」
「……」
(憤慨した様子……ねぇ。そのままお母様に泣きついている姿が想像出来るわ)
お父様から聞いた帰宅着後のシルヴィの様子に私はほとほと呆れる。
「そうですわね……シルヴィの件も話をしなくてはと思っていましたわ」
「シルヴィの件も? も? で、では他には何だ?」
お父様の顔には迷惑事は勘弁してくれ!
そう書いてあるけれど、この訳の分からない話のそもそもの始まりはお父様よ!
責任持って説明して貰わなくては!
「どうしてもお父様に聞きたい事がありまして」
「き、聞きたい事だと?」
怪訝そうな表情をするお父様に向かって私は言った。
「どうして嘘をついたの? お父様」
「う、嘘? いきなり何の話だ?」
「…………ロイター侯爵家のアドルフォ様との結婚に関する話ですわよ」
「なっ!?」
私のその言葉にお父様はカチンと固まった。
「う、う、う、嘘だと?」
「ええ、嘘です。お父様、私達に嘘をつきましたね?」
「……!」
お父様の顔が分かりやすく変わった。
私は不思議に思う。こんなにも分かりやすい人だったかしら、と。
(それとも、私が旦那様(仮)の表情を読むようになったおかげで、人の表情の変化というものに敏感になったのかもしれないわね)
凄いわ旦那様(仮)の無言の力……
「……借金返済の話から結婚の話の真実を話して下さいませ、お父様!」
「……っ!」
私の追求にお父様の瞳は大きく揺れる。
「借金返済の真実とは何の事だ……」
「そうですわね。ならば単刀直入に聞きますわ。今、ロンディネ子爵家の借金はどうなっていますか?」
「……っ!」
お父様は目を大きく見開くと、ヒュっと息を呑んで黙り込んだ。
(あの時のように旦那様(仮)による借金の肩代わりのおかげで完済した……とは言わないのね?)
「へ、返済中だ……」
少しの沈黙の後、お父様は震える声で答えた。
「返済中? そうでしたか」
どうやら返してはいるらしい。
「だが、完済までの目処は立っている……」
「……それはどうしてです?」
「…………ロイター侯爵家のアドルフォ殿が……返済や完済までの協力をしてくれた……いや、今もしてくれている、からだ」
(旦那様(仮)……!)
「では、その見返りは?」
「結婚……させて欲しい、と」
「……」
誰と? とは聞かない。
そして、やっぱり嘘をついていたのね?
「返済までの協力をする……つまり、借金の肩代わりではなかったのですよね?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取りますわよ、お父様。それなら、あの日、お父様が話したアドルフォ様との結婚話が本当はどういう事だったのか説明をして下さいませ?」
「……うぅ」
お父様はしばらく渋っていたけれど、ようやく観念したのか説明を始めた。
111
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
オッドアイの伯爵令嬢、姉の代わりに嫁ぐことになる~私の結婚相手は、青血閣下と言われている恐ろしい公爵様。でも実は、とっても優しいお方でした~
夏芽空
恋愛
両親から虐げられている伯爵令嬢のアリシア。
ある日、父から契約結婚をしろと言い渡される。
嫁ぎ先は、病死してしまった姉が嫁ぐ予定の公爵家だった。
早い話が、姉の代わりに嫁いでこい、とそういうことだ。
結婚相手のルシルは、人格に難があるともっぱらの噂。
他人に対してどこまでも厳しく、これまでに心を壊された人間が大勢いるとか。
赤い血が通っているとは思えない冷酷非道なその所業から、青血閣下、という悪名がついている。
そんな恐ろしい相手と契約結婚することになってしまったアリシア。
でも実際の彼は、聞いていた噂とは全然違う優しい人物だった。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる