【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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15. 旦那様(仮)の望んだ人

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   (どういう事なの……)


  お義父様とお義母様から質問の“答え”を聞いた後の私は、
  “こうしてはいられない。これはまずはお父様に問いたださないといけない”
  そう思った。

  なので、私はお義父様にお願いして、急いでロンディネ子爵家に手紙を届けて貰う事にした。
  内容は、
  ──確認したい事があるので至急、ロイター侯爵家まで来るように。と、お義父様の名前で。
  お父様がロイター侯爵家にやって来るならシルヴィの件も直接話が出来るので、シルヴィに関する抗議の手紙作成は一旦見送る事にした。

  (あぁ、もう!  お父様はどういうつもりで……!)

  旦那様(仮)が帰宅する前に、真実ほんとうを知りたい。

  (そうでないと私は旦那様(仮)にどんな顔を向けたらいいのか分からない!)


  私は逸る気持ちをどうにか抑えながらお父様の到着を待った。

  

─────……


  
  あの質問の後、不思議そうに顔を見合せたお義父様とお義母様が私に向かって答えた言葉は……

「それは……もちろんロンディネ子爵家のさん、よ?」

  (……え!)

「あの頃のアドルフォったら、毎日毎日ソワソワしていて面白かったわね」
「そうだったな」
「とっても楽しみにさんがやってくる日を待っていたわね」
「無口なくせにたまに“ミルフィ”って小さな声で呟いていたな」

  二人は驚いている私に気付かず懐かしそうにその頃の事を語る。

  (──!  なんですって!?)

  そして、お義父様とお義母様の会話のある部分で私は言葉を失った。

  (だ、旦那様(仮)が声を発していたですってーー!?)

  これは驚かずにはいられない。
  なんなら、実は自分が花嫁にと求められていました……という事実よりも衝撃的だったと言えるかもしれない。

  (しかも、ミルフィって呼んでた……?)

「あの時のアドルフォの姿をぜひ、ミルフィさんにも見せてあげた……」
「?」

  お義母様が変な所で言葉を切ったので不思議に思ったら、お義母様は笑いながら言った。

「あぁ、ごめんなさい?  あの頃のアドルフォをミルフィさんに見せてあげたかったわと思ったけれど、あなたを花嫁に迎えてからの、何かある度に顔を赤くしてオロオロしているアドルフォとそんなに変わらないわね、と思い直してしまって」
「今、私の前で顔を赤くしてオロオロする旦那様……」
「そうよ?  だってアドルフォがあんな風に挙動不審になるのは、あなた……ミルフィさんの前だけだもの」
「!!」

  ボンッと私の顔が赤くなる。

  先程、散々言われた“私は特別”という言葉が甦ってくる。

  (私は旦那様(仮)の特別……?)

  そして、花嫁にと望まれていた……?

  その答えが知りたくて。
  そして、それなら何故お父様は“契約の花嫁”だの“私でもシルヴィでもいい”と言ったのか……
  私はそれが早く知りたくて、お父様を呼び出す事をお義父様とお義母様にお願いした。



*****



「ミ、ミルフィ。こ、これはどういう事なんだ?」
「お久しぶりですわね、お父様」

  今、私の目の前には、顔色を悪くしたお父様がビクビクと身体を震わせている。
  そんなお父様を私はニッコリ笑いながら出迎えた。

「ロ、ロイター侯爵家から早馬が来て、今すぐ屋敷に来るように……と。これはいったい?」
「……」
「少し前にシルヴィが……何やら憤慨した様子で帰って来たが……まさか、その事で……?  シルヴィは侯爵家で何か問題でも起こしたのか?」
「……」

  (憤慨した様子……ねぇ。そのままお母様に泣きついている姿が想像出来るわ)

  お父様から聞いた帰宅着後のシルヴィの様子に私はほとほと呆れる。
  
「そうですわね……シルヴィの件も話をしなくてはと思っていましたわ」
「シルヴィの件も?  も?  で、では他には何だ?」

  お父様の顔には迷惑事は勘弁してくれ!
  そう書いてあるけれど、この訳の分からない話のそもそもの始まりはお父様よ!
  責任持って説明して貰わなくては!
  
「どうしてもお父様に聞きたい事がありまして」
「き、聞きたい事だと?」

  怪訝そうな表情をするお父様に向かって私は言った。

「どうして?  お父様」
「う、嘘?  いきなり何の話だ?」
「…………ロイター侯爵家のアドルフォ様との結婚に関する話ですわよ」
「なっ!?」

  私のその言葉にお父様はカチンと固まった。

「う、う、う、嘘だと?」
「ええ、嘘です。お父様、私達に嘘をつきましたね?」
「……!」

  お父様の顔が分かりやすく変わった。
  私は不思議に思う。こんなにも分かりやすい人だったかしら、と。
  
  (それとも、私が旦那様(仮)の表情を読むようになったおかげで、人の表情の変化というものに敏感になったのかもしれないわね)

  凄いわ旦那様(仮)の無言の力……

「……借金返済の話から結婚の話の真実ほんとうを話して下さいませ、お父様!」
「……っ!」

  私の追求にお父様の瞳は大きく揺れる。

「借金返済の真実ほんとうとは何の事だ……」
「そうですわね。ならば単刀直入に聞きますわ。今、ロンディネ子爵家の借金はどうなっていますか?」
「……っ!」

  お父様は目を大きく見開くと、ヒュっと息を呑んで黙り込んだ。

  (あの時のように旦那様(仮)による借金の肩代わりのおかげで完済した……とは言わないのね?)

「へ、だ……」

  少しの沈黙の後、お父様は震える声で答えた。

「返済中?  そうでしたか」

  どうやら返してはいるらしい。

「だが、完済までの目処は立っている……」
「……それはどうしてです?」
「…………ロイター侯爵家のアドルフォ殿が……返済や完済までの協力をしてくれた……いや、今もしてくれている、からだ」

  (旦那様(仮)……!)

「では、その見返りは?」
「結婚……させて欲しい、と」
「……」

  誰と?  とは聞かない。
  そして、やっぱり嘘をついていたのね?

「返済までの協力をする……つまり、借金の肩代わりではなかったのですよね?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取りますわよ、お父様。それなら、あの日、お父様が話したアドルフォ様との結婚話が本当はどういう事だったのか説明をして下さいませ?」
「……うぅ」


  お父様はしばらく渋っていたけれど、ようやく観念したのか説明を始めた。

 
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