【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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30. 害虫退治とイチャイチャ

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  ロンディネ子爵家の借金問題に旦那様の手助けが無くなると、この色々と駄目そうなお父様にはもう後がない……そんな気がする。
  そして、お父様はここまでの事でもう旦那様からの助けは打ち切られるだろう。そう覚悟したような顔をしていた。

「ミルフィの事を思って今は手を切らない」
「え?」

  お父様が驚いた顔を旦那様に向ける。

「この意味を分かっているだろうか?  だ」
「ミルフィが……」
「つまり、最初に俺が言ったようにお前達が今後、俺の大事な可愛い可愛い妻であるミルフィに接触して、少しでも関わろうという素振りを見せたその時は問答無用で……」
「わ、わ、わ、わ、分かりました!!  こ、今後ミ、ミルフィには、か、関わりません……ほ、ほら、お前達もだ!」

  震える声でお父様はお母様とシルヴィにも誓わせようとする。
  だけど、旦那様は冷たい声で言い放つ。

「……あぁ、いや……そこの毒母と性悪妹だが」

  旦那様はお母様とシルヴィに対して氷の視線を向ける。
  二人は怯えて声が出ない様子で身体だけをブルブル震わせている。

「二人にはそれだけで済まそうとは思わない」
「「え……」」

  旦那様のその冷たい言葉にシルヴィとお母様がますます青い顔をして旦那様を見た。

「当然だろう?  何で俺が接触禁止だけで簡単に許すと思うんだ?  有り得ない」
「……と、言いますと……」

  お父様も青白い顔で旦那様へと聞き返す。

  旦那様はニッコリと笑い、それはそれは思わず見惚れたくなる美しい笑顔を浮かべて言った。

「もちろんこの二人は──……」




*****




  色々あった一日を終えて、ようやく私と旦那様は屋敷に帰ってくる事が出来た。

  カフェを出て旦那様が乗って来た馬車の中でルンナと再会した時は思わず涙が出てしまい、私はルンナに抱き着いた。

「ルンナ!」
「奥様!  ……無事で本当にご無事で良かったです……」
「ルンナのおかげよ。旦那様を呼んで来てくれてありがとう。おかげで……」
「……あのとんでもない害虫の妹を無事に退治出来ましたか?」

  (退治……害虫)

  人間に使う言葉じゃないせいで何ともおかしい。

「そうね、旦那様が……」
 
  私がチラッと馬車の外で話をしている旦那様の方を見ながらそう口にすると、ルンナは心得たように頷く。

「坊っちゃまは怒ると怖いですからね。害虫退治は得意なんですよ」
「カッコよかったわ……」

  私が頬を染めながらそう言うと、ルンナは
「それは坊っちゃまに直接言ってあげてください。大喜びする姿が見えます」
  と、言われ、
「私にもそんな旦那様の姿が見えるわ」
  と私達は笑い合った。
  





  屋敷に戻り、私が部屋で休んでいると、ドアがノックされた。
  扉を開けると旦那様が立っていた。

「旦那様!」
「……」

  旦那様の顔は既に赤い。何故?
  ふと、旦那様の手元を見ると私が日頃のお礼にと思ってあの時に買ったお菓子を手に持っている。

「それは!  ルンナから受け取っていたのですね?  あ、どうぞ!」
「……」

  コクリと頷きながら旦那様が部屋に入って来る。
  そして、ソファーに腰を降ろすと旦那様がチラチラと何かを窺うようにこちらを見てきた。

  (開けていい?  って聞いているのね)

「どうぞ、これは旦那様の為に買ったものですから」
「……」

  旦那様はいそいそとお菓子を開封して中身を見るなり目を輝かせた。

「わ!」

  (分かりやすーーーーい!)

  思わずそう叫びそうになった。

「えぇと、ルンナから旦那様は実は甘党だと聞きました。なので喜んでもらえるといいのですが」
「……」

  旦那様は嬉しそうに袋の中からお菓子を取り出しそれを一つつまんで口に入れる。
  そして、すぐに幸せそうな顔になった。

  (あ、これはとても喜んでくれている!)

  言葉もナデナデも無いけれど、顔の表情だけで旦那様が何を考えているのかが分かる。
  私も成長したわ……と自分で自分を褒めていたら、旦那様と目が合った。
  旦那様は優しく微笑んでくれた。
  そして、そんな旦那様の手が私の頭へと伸びて……

  ポンポン……
  ナデナデナデナデ!!

  頭ポンポンからのナデナデ!  美しい笑顔付き!

  (そうよ、私、これが欲しかったの……)

  ──ナデナデナデナデ!

「喜んでもらえて嬉しいです。ところで、それ、そんなに美味しいですか?  実は私、食べた事が無くて……」
「……」

  と、言いかけたら旦那様が私の前にお菓子を差し出す。

「え?」
「……」
「旦那様?」
「……」

  (こ、これはまさか!)

「わ、私にも、どうぞと言っている……のですか?」
「……」

  旦那様が照れ照れしながら頷いたので、有難く受け取ろうと思ったら、旦那様は何故かお菓子を離そうとしない。そこで私はまたしてもまさか……と思った。

「!  く、口を開けろ……と?」
「……」
  
  旦那様が頷く。
 
  (こ、これは俗に言うあーん……というやつではないの!?)

  こ、恋人同士がすると聞いた、あの噂の、あーん、よ!
  私が……されるの?
  私をじっと見つめる旦那様の瞳にはとても強い意思が宿っていて逆らえそうにない。

「で、で、では……お、お言葉に甘えて……!」

  私はあーんと口を開けた。
  旦那様はそこに嬉しそうにお菓子を入れてくれた。

「……っ!  甘っ!  美味しい!!」

  私が笑顔でそう伝えると旦那様もとても嬉しそうに頷いた。
  お菓子が甘くて美味しいのは勿論だけど、これは旦那様の手ずから食べた……というのもあるに違いないわ!
  そう思った私は旦那様に提案する事にした。

「だ、だ、旦那様!  旦那様も口を開けて下さいませ……」
「!?」
「わ、私も旦那様にあーん……したいです」
「!?!?」

  旦那様の顔がボンッと音を立てたように真っ赤っかになった。
  その隙に私はお菓子を一つつまむと旦那様に向ける。

「さぁ、旦那様!  あーんですわ!」
「……っっっ!」
「旦那様?」

  ようやく腹を括ったらしい旦那様がそっと口を開ける。
  私は麗しい旦那様のお口にそっとお菓子を入れた。

「…………」
「旦那様?」
「…………」

  プルプル震える旦那様。大丈夫かしら?  と思いながら顔を覗き込むとパチッと目が合う。

  (……あ!)

  そのまま旦那様に引き寄せられ、私達はチュッとキスをする。

  (甘い……何もかもが甘い……)

  甘いお菓子と甘いキス……
  幸せな味しかしなかった。

  (とっても幸せだわ……色々あったけれど、こんな風に旦那様と過ごせる事が本当に本当に幸せなの)

  だから、お母様やシルヴィに同情は一切しない。
  当たり前だけど、旦那様は二人が子爵家に残ることを許さず、二人はそれぞれ修道院に行く事になった。お父様もそれを黙って受け入れていた。

  (そう言えば、カフェから出る時の店員さん達の視線も凄かったわね)

  あれは絶対に、聞き耳を立てていた人達の目。
  私と旦那様に向けられた生あたたかいあの視線は間違いない。
  なんて恥ずかしいの。

  (一方のあの人達は……)

  お母様やシルヴィに向けられた視線はまた違っていて。
  本当に、追放される貴族っているのね、そんな目だった。

  シルヴィのした事はすぐに社交界に広がるだろうとは思っていたけれど、こうして街の中にも広がっていくのかもしれない。

  (もう、シルヴィの我儘に煩わされる事も、お母様に“お姉さんだから”と言われる事も無くなったんだわ)

  私は改めてそう思った。

  
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