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36. 聖女の真実
しおりを挟む「───そもそも、にゃんで儀式で神の声を聞くにゃんて話になってるにゃ? 儀式とはそういうものでは無いにゃ、単なる挨拶にゃ……だと!? おい、ティティ! 一から十まで説明しろ!」
「にゃー……」
「面倒にゃー……じゃない! 見てみろ! お前の大好きな大事な大事な可愛いリディエンヌが困っているんだぞ!」
「にゃ!」
面倒くさそうにしていたティティだけれど、ダグラス様のその言葉でハッとしたように私の顔を見る。
「にゃ?」
「ええ、お願い、ティティさん。私はどうしても真実が知りたいの」
私はティティの目を見て訴える。
頼りになるのはティティしかいない!
「にゃ~……」
そうして、ティティはダグラス様に向かって語る。
傍目には「にゃーにゃー」しか言っているようにしか見えないし、そうとしか聞こえないけれど、間違いなく何かを語っている。
「……は? 待て、それはもう根本が……」
「にゃーん」
「何? だから歪んだのか……?」
「にゃん」
ダグラス様がティティの話を真剣に聞き取ってくれている。
陛下と私はそれを静かに黙って見守る事しか出来ない。
「…………リディエンヌ王女」
「はい、どうなさいましたか?」
ダグラス様とティティの会話を見守っていたら、陛下がおかしな顔をしながら私の事を呼んだ。
「……ダグラス……あやつは何をしているのだ?」
「え?」
「まさか、ダグラスはあのモフ猫と会話が出来るのか!?」
(───あ!)
私の中では、すっかりダグラス様とティティが会話する事に慣れてしまっていて、何の違和感も無くなっていたけれど、何も知らない人が傍から見るとこれは異様な光景になるのだと思わされた。
(慣れって怖い……!)
「えっと、そうなのです。ダグラス様は何故かティティさんと会話が出来るのです」
「聖女の守護者と会話? これはまた何という巡り合わせなんだ……」
陛下はそれだけ言ってティティとダグラス様に視線を戻した。
「───つまり、グォンドラ王国に伝わっている話には嘘が多かった、という事ですか?」
「ああ」
ティティとの話を終えたダグラス様が聞き取った内容を語ってくれる。
「ティティ曰く、神は確かに遥か昔は聖女と会話をしていた事もあるらしい。だが最近は……」
「最近は……?」
「声をかける事は無くなっていたそうだ」
「!」
その言葉に衝撃を受ける。
では、聖女とは? グォンドラ王国で引き継がれて来た話はどうなるの?
「よほどの事にならないと神は声をかけないとある時を境に決めたそうだ」
ある時を境に? 何かあったのかしら……?
「何やら揉め事があったらしいが……」
「では、聖女の認定は……?」
「いや、声は届けなくても聖女は選ばれる。儀式という名目で神殿の奥にやって来た王女からちゃんと聖女は選んでいる。身体に現れる印がその証拠だ。だが、“儀式で神の声を聞けたら聖女”というのは違うにゃ、とティティは言っている」
「……文献には神の声を聞く事で認定されるのだと書かれているのに……」
私の声が震える。
「───ある時を境に声を届けなくなったとの事だから、おそらくは丁度その時の……初めて神の声を聞けなかった聖女が嘘をついたのだろうな」
「え?」
陛下が神妙な表情でそう口にする。
「聖女としての証の印は出たものの、神の声は聞けなかった。そんな事を口にしたら偽聖女と言われてしまうかもしれないだろう? だから、その聖女は聞こえるフリをする事にしたのではないか?」
「……まさか」
私が陛下の言葉に驚いているとダグラス様も同じような事を言う。
「陛下の言う通りだ。それからずっと歴代の聖女は、偽聖女と言われるのが嫌で“聞こえるフリ”をしていたようだ……もう誰も神の声は聞けていなかったというのに」
(───そんな!)
「どの聖女も“神の声は聞こえない”と口にしないのだから、伝わる伝承も文献もこれまで変更される事は無かったという事か」
陛下は軽くため息を吐きながら言った。
「にゃーん……」
「ティティが言うには、神の声を聞かせなくなってから、“神の声は聞こえない”と、正直に口にしたのはリディエンヌだけなんだそうだ」
「にゃん!」
「わたし……だけ?」
ティティに訊ねると、ティティは「にゃ!」と鳴いて私をじっとを見つめた。
「神はこれまでの聖女が嘘をつく気持ちも理解出来たから、その事を咎める事はせず、守護者を送り込む事でただひたすら国と聖女を見守っていたらしい。神との細かな意思疎通が必要な時は間に守護者が入っていたみたいだな」
「にゃ~!」
「神の声が聞こえなくなっていた歴代の聖女達は守護者に導かれて行動をし、その行動は神の言葉によるものだと口にしていたにゃ、か。なるほど」
(つまり、グォンドラ王国で守護者に関する記述が無かったのは“神の声”について言及されたくなかった聖女達が意図的に隠して来た……?)
守護者は動物だから、常に側にいてもただのペットよ、などと言い訳をしていたのかも。
「そして、王家には王女の生まれない時代が続き、聖女不在の時期が続く」
「……」
それでも神様は聖女が居なくても国の事は見守り続けてくれていたのよね……?
「そのどさくさで、更に伝承は曖昧になった、という感じらしいぞ。ティティが言うには、だが」
「にゃーーん」
ティティがダグラス様に元気よく返事を返す。
「にゃーー」
「ん? だから久しぶりの王女の誕生に神は興味を抱いたにゃ? ……あぁ、リディエンヌの事だな」
「にゃ!」
「そんなリディエンヌが皆の前で“神の声は聞こえない”そうはっきり口にしたから、神様はとても驚いたそうにゃ? 同時に素直で正直なリディエンヌをとても気に入ったにゃ……なるほどな。つまり、それが今回グォンドラ王国を神がとことん追い込んだ理由か……」
ダグラス様はティティの言葉を通訳しながら、うんうんと頷く。
「ダグラス様、どういう意味ですか?」
「神は素直で正直なリディエンヌの事を気に入ったんだよ。だが、そんなリディエンヌをグォンドラ王国の者達は聖女でないからという理由で冷遇したからな、よほど許せなかったんだろう」
「にゃんにゃー……」
「……神はリディエンヌの為に久しぶりに声を届けたかったが、リディエンヌは自分が聖女だと自覚していない上に、儀式の日以降は神殿の奥に来る事は一度も無かったから声は届けられなかったらしい」
「あ……」
(神様はちゃんと私を選び、そして久しぶりに声も届けようとしてくれていた……)
「そんな神は、国よりも必死に生きてきたリディエンヌ個人を選んだ……そういう事だろう、ティティ?」
「にゃーーーーん!」
神様はもう完全にグォンドラ王国を見限っているのだわ……
そこまで理解した所で、残る疑問はティティの存在。
「……ねぇ、ティティさん」
「にゃ?」
「つまり、二年前の儀式で私は間違いなく聖女に認定されていたのよね?」
「にゃん!」
ティティは大きく頷く。
「では、守護者であるティティさん……あなたはずっとどうしていたの?」
「……にゃっ!」
(あれ?)
ティティが初めて動揺したような動きを見せた。
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