【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました

Rohdea

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11. 気持ち悪い人

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「……私と話を、ですか?」

 ロイド様に私が聞き返すと、彼はまたさらに甘く微笑んだ。

「そうです。我々は家名のせいで近付くことを許されませんでしたから」
「は、はあ……そう、ですね」
「私はずっとそれが寂しいと思っていたのです」

 私は、ロイド様にもマーゴ嬢にも特に積極的にお近付きになりたいとは思っていなかったのだけど……?
 ロイド様は違うということかしら。

「だから、まさか、こんなにも早くあなたが結婚してしまうとは夢にも思いませんでした」
「……さきほど妹のマーゴ様にも言いましたが、ご縁がありましたので」
「そのようですね」

 私のその言葉を聞いたロイド様が今度は悲しそうな表情を浮かべた。

(……何かしら?  先程からいちいち反応が大袈裟な気がする)

「ですが、ナイジェル殿はいったいいつあなたを見初めたのでしょう?」
「え?」
「こう言ってはあれですが……その、あなたは妹と違って……あまり目立たないと言いますか……コホンッ」
「……」
「中には、うちの妹と間違えたのでは?  なんて言う人もいたりして……全く、何を言っているのか」

 ロイド様の言葉にやっぱりそう思う人はいるのね、と思った。
 それだけ私とナイジェル様の突然の結婚は世間的にも疑問だったということ。

「こんなことなら貴女が目立たない壁の花でいるうちに……父を説得して私が申し出ていればよかったと後悔していますよ」
「…………まあ、プラウズ伯爵令息様は冗談がお上手なんですね」

 私はどうにか笑顔を作って言葉を返す。引き攣っていないといいのだけど。

「冗談?  まさか!  私は本当にずっと前から貴女のことを気にかけて……」
「プラウズ伯爵令息様?  お分かりですか?  私は、もうフィルポット公爵家、ナイジェルの妻なのですから、そういう言葉は慎んでくださいませ」

 ロイド様がなんでこんなことを口にするのかは分からない。
 けれど、私がすでに人妻の身だと分かっているのに、こういう何かを含んだような話をしてくることが気持ち悪いと思う。

(それにこの人の言い方はいちいち気に障る……!)

 妹のマーゴ嬢と比べる発言を平気でしたり、私を壁の花だと言ったり……
 なにか意図があって私を口説いているにせよ、全くときめくポイントが無い。
 しかも、いちいち甘く微笑んだり、大袈裟に悲しそうな表情を浮かべたり……これもなんだか気持ち悪い。
 まるで、自分の容姿がそれなりにいいことを分かっていて、わざとそう振舞っているみたいに見える。

(同じ美形の部類でもナイジェル様とは違う。ナイジェル様は自分の容姿には無頓着だもの)

 前に鏡を見てため息を吐いていたから、てっきりやつれたせいで美貌が衰えたことを嘆いているのかと思ったら、鍛えた身体が衰えていくのが悲しいと嘆くような人なのよ!
 思わず、顔……はいいのですか?  と聞いたら「顔?」と、不思議そうにしていたわ……

「しかし、ナイジェル殿は床に伏せっていると聞きました」
「……ええ」
「せっかくの新婚なのに貴女だってそれは退屈なのではありませんか?」
「退屈?」

 ロイド様はなぜかしつこかった。
 私がすでに人妻であることを念押ししたのに引き下がろうとしない。

「今のナイジェル殿では今夜のようなパーティーで貴女をエスコート一つ出来ないわけでしょう?  それは女性としてつまらないのでは?」
「……つまらない?」

 ロイド様はまたまた甘い微笑みを浮かべて私の耳元で囁くように言った。

「──私なら貴女に寂しい思いなどさせないのに」
「!」
「私は貴女の味方です。何かあれば───例えば夫に嫌気がさしたとか……ね。そういう時はいつでも私を頼ってください。連絡をお待ちしていますよ───フィルポット夫人」
「……」

 ───退屈?  女性としてつまらない?  寂しいだろう?   だから何かあれば頼って?
 そして、私がナイジェル様に嫌気がさす───?
 何を言っているの?  と思って顔を上げた私にロイド様はまたしても甘く蕩けるような笑顔を見せる。

「ではまた……ああ、そうだ。次に会う時はぜひ、私のことはロイドと呼んでくれたら嬉しいな」
「はい?」

(何それ……)

 私は、言いたいことだけ口にして去っていく彼の背中を唖然とした気持ちで見つめていた。





(なんだか無性にナイジェル様の顔が見たい……)

 パーティーから帰宅した私は、すぐにナイジェル様の元に向かった。
 使用人の話だと特に大きな発作も起こらず無事に過ごしていたという。
 良かった……と安堵した。

「ナイジェル様、戻りました!」
「───マーゴット嬢!」

 私が部屋に顔を出すと、ナイジェル様は読んでいた本から勢いよく顔を上げた。

「おかえり!  ……あー……その……えっと……」
「?」

 何をそんなに口ごもっているのかしら?  と思った。
 まさか、この何か言いづらそうな口ごもり方は、パーティーにマーゴ嬢がいたかどうかを聞きたがっ……

「──い、嫌な思いはしなかったか!?」
「え?」

 違った!

「俺との結婚のこと……根掘り葉掘り聞かれただろう?」
「そ、それは……まぁ、はい」
「変なことや嫌なことは言われなかったか!?」

 私にそう聞いてくるナイジェル様の顔は真剣だった。
 ……もしかして、ずっと心配してくれていた?
 マーゴ嬢のことは関係なく?
 そう思ったら胸がトクンッと高鳴った。

「大丈夫でしたよ、色々と聞かれはしましたけれど」

 私は安心して欲しくて微笑んで答える。
 まぁ、ちょっと若干一名変な人がいたけれど……あれは何だったのかいまいちよく分からない。

「そ、そうか……良かった」 
「はい!  ナイジェル様は本を読んで過ごし…………ん?」

 私は、ホッと胸を撫で下ろしているナイジェル様の手元の本に目を向けた。

「ナイジェル様……」
「な、なんだ?  はっ!  やっぱり何か不快な思いをしたのか!?」
「あ……いえ、そうではなくて……」
「?」

 私はそっとナイジェル様が手に持っている本を指さす。

「その本……面白かったですか?」
「え?  あ、ま、まあ……そうだな。マーゴット嬢が戻って来るまでの暇つぶしと思って読んでいただけ……だが」
「…………逆さまですよ?」
「ん?」

 ナイジェル様が不思議そうに首を傾げた。

「その手に持っている本……上下逆さまだな、と」
「さか……さま?」
「はい」

 私の指摘にナイジェル様の目線がそっと手元に向かう。
 そして、自分が本を逆に持っていることに気付くと、ブワァァァと顔が赤くなった。

「こ、こ、これはっ!  別に、君が……心配で落ち着かなかったから、とか……そういうことでは……なく!」
「…………コホッ。ナイジェル様、本当にその本、読んでいました?」
「っ!  よ、読んでいたとも!」
「……」
「……」

 ぷっ……
 この状態でまだ、読んでいたと言い張るナイジェル様が可笑しくて吹き出してしまう。

「な、なぜ、笑う!?」
「ふふ、だ、だって……ふ、ふふ、ナイジェル様、そんなに私のことを心配してくれていたのかと思ったら……ふふ、笑いが」
「~~~マーゴット!!  き、君は、わ、笑いすぎだ!」
「ふ、ふふ……」
「くっ!  マーゴット!」


 この時、あまりにもナイジェル様の部屋が騒がしいので、心配して覗きに来た使用人たちは、笑い転げる私と顔を真っ赤にして恥ずかしがるナイジェル様の姿を見て、逆に何が起きた!?  と思ったという。

 また、真っ赤になって否定するナイジェル様があまりにも可愛かったので、私は、パーティーで会ったマーゴ嬢のこともその兄、ロイド様のこともすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

 もう少し、ここでこんな日々を過ごしたい……と願ってしまったから。

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