【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました

Rohdea

文字の大きさ
30 / 34

30. 秘められた力

しおりを挟む


(───な、なに?)

 まるで何かを訴えるようなその光。
 だけど、そんな突然の光はすぐにおさまってしまう。

「な、何だったのかしら?」
「分からない……」

 夫にもよく分からない現象だったらしい。
 目が覚めた時にも身につけていたこのネックレス。
 こんな現象が起きるのは初めてだった。

(悪いことでなければよいのだけど……)

 そう思いながら、そっとネックレスに触れる。
 私が触っても何の反応も示さなかった。

「そういえば、マーゴット」
「はい」
「そのネックレスはどうしたんだ?」
「え?」

 ナイジェル様は不思議そうに私が着けているネックレスを指さした。

「えっと、これは……私の」

 そう答えようとして私の動きが止まる。
 あれ?
 私は記憶を失くして目が覚めた時にはもうこのネックレスを首にかけていたけれど、ナイジェル様はこのネックレスのことを知らない?
 ということは、以前から着けていたものではなかったのかしら?

「マーゴット?」
「あ、いえ。これは、お母様の形見らしいです」
「マーゴットの母君……の?」

 驚いている様子なので、やはり以前の私が着けていたものではないらしい。

「ええ、父……目が覚めた時にお父様にそう説明されました……だから、大事にしてくれ、と」
「そうか、形見……」

 私はもちろんお母様に関する記憶がない。
 記憶がなくてもそれなりに楽しく過ごせているけれど、ふと、こんな時に寂しくなる時がある。

 生きてさえいれば、今、夫としているように新しい関係を始めることだって出来る。
 それは、父親や他の人とも同じ。
 でも、もう居ない人とはそれが出来ない───……

 私の中にあったはずの思い出がない。
 それはすごくすごく悲しいことだった。

「残念ながら、私はお母様のことは覚えていませんけど」
「……っ!」

 その言葉にハッとした夫は「すまない」と小さく口にした。

「──使われている石は、マーゴットの瞳の色と同じなんだな」
「え……?  あ、そういえば!」
「きっと、母君も同じ色だったのだろうね」

 夫の何気ないその言葉を聞いて確信はないけれど、その通り……な気がした。
 記憶にはなくても、きっとお母様から私に受け継がれたものは色々あるはず……そう思えた。

(今度、手紙で父親にお母様のことを聞いてみようかしら)

「……しかし、なんで光ったのだろう?」
「以前のことは分かりません……が、私にとっては初めてです」
「そうなのか……考えられるのは何かの魔力?」

 夫はうーんと首を捻りながら考え始めた。
 私は石がよく見えるようにと思い、チェーンを首から外して、ネックレスごと夫に手渡した。

「あ、すまない。ありが───」

 夫が受け取ったその瞬間、またしてもネックレスの石が光を放つ。
 しかも、今度は先程とは違って、辺り一面が強い輝きに覆われた。

「なっ!?」
「ま、眩しっ」

(────あれ?)

 眩しい……とにかく眩しい!  目が開けられない!
 だけど。
 私、この光を知っている───気がする。
 そう思った瞬間、ドクンッと胸の奥が疼いた。

(確か、こんな風に光に包まれて、それで────……)

 やがて光は収まり、この場には今の現象に呆然とする私と夫が取り残された。

「……」 
「な、なんだったのでしょう?」
「……」
「ん?  ナイジェル様?  大丈夫ですか?」

 夫の反応がないので、心配になって顔を覗き込む。
 すると夫は私以上に放心状態だった。

「……ナイジェル様!」
「あ、ああ、ごめん。ちょっと意識が飛んでいた……ははっ、すまない」
「……?」

 夫はそう言って笑った後、もう一度ネックレスを見つめた。
 そして、すごく小さな声で「……どういうことなんだ」と呟いた。

「マーゴット、このネックレス……いや、石、宝石の方なんだけど」
「は、はい!」
「……魔力を感じる」
「え!?」

 魔力!?
 私はこれまで触れていてもそう感じたことはない。
 でも、夫が嘘をつく意味もないからきっとそうなのだろう。

「つまり、今の光はこの宝石に込められた魔力が何かに反応した……ということですか?」 
「おそらくだけど」
「父……お父様は何も言っていなかったですよ?」

 そう口にするも、よく考えたらそれはそれで仕方がないかなとは思う。
 目が覚めたばかりの私は色々と混乱していたから、父親が母親の形見だと言うことくらいしか出来なかったのも頷ける。
 でも、そうなると、これ何か危険な物だったりするのでは──……

「……マーゴット」
「!」

 夫の声でハッと我に返る。
 私にネックレスを返すとそのまま、優しく私の手を握った。

「そんな顔をしなくても大丈夫だ。俺の方でも調べてみるから」
「ナイジェル様……」
「少なくとも、これはマーゴットには危害を加えるものではないだろうし」
「え?」

 なぜ?  と首を傾げる私に夫は言う。

「だってマーゴットの父親が、そんな危ない物を大事な娘に持たせるはずがないだろう?」
「……」

 夫は私の不安を取り除く天才だな、と思った。




「込められている魔力が分かったよ」
「早っ……」

 そして次の日、再び訪ねて来た夫は開口一番にそう言った。

「多分だけど、記憶を失くす前のマーゴットも調べてすぐに分かったんだと思う」
「分かった?  何をです?」 
「プラウス伯爵の奥方……マーゴットの母君が“封印”の力を持っているって」
「封印の力……!」

 夫の目線が、今日も私が首からかけているネックレスに向かった。

「マーゴットの母君は、おそらくそのネックレスに自分の力を込めていた。君はその込められていた力を解放して自分にかけられていた封印を解いたんだろうなって思ったんだ」

 そうして私は夫を助けてその代償に記憶を失くした、と。

「ずっと誰がマーゴットの封印を解いたんだろうかと思っていたからこれで謎が解けた」

 なるほど……と納得しながらも思う。
 では、未だに魔力を感じるというのは?

「その込められた力がこのネックレスにはまだ残っているということですか?」
「うん。そういうことになる。マーゴットの母君はかなり魔力が強かったんじゃないかな?」
「なるほど……」

 このネックレスを使った時のことは覚えていないけれど、何となくその通りのような気がした。

「では、昨日光った理由はなんでしょう?」
「……」
「最初の光はともかく、二度目の眩しい光は……」

 この宝石に“封印”の力が宿っているのなら……
 あの時の眩しい光ってもしかして、時の光だったりするのでは──?

 ……ドクンッ
 心臓が嫌な音を立てた。
 だってもし、そうなら……
 あの時、この石に触れたのは私ではなく────……

(夫……ナイジェル様だ!)
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

【完結】想い人がいるはずの王太子殿下に求婚されまして ~不憫な王子と勘違い令嬢が幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
──私は、私ではない“想い人”がいるはずの王太子殿下に求婚されました。 昔からどうにもこうにも男運の悪い侯爵令嬢のアンジェリカ。 縁談が流れた事は一度や二度では無い。 そんなアンジェリカ、実はずっとこの国の王太子殿下に片想いをしていた。 しかし、殿下の婚約の噂が流れ始めた事であっけなく失恋し、他国への留学を決意する。 しかし、留学期間を終えて帰国してみれば、当の王子様は未だに婚約者がいないという。 帰国後の再会により再び溢れそうになる恋心。 けれど、殿下にはとても大事に思っている“天使”がいるらしい。 更に追い打ちをかけるように、殿下と他国の王女との政略結婚の噂まで世間に流れ始める。 今度こそ諦めよう……そう決めたのに…… 「私の天使は君だったらしい」 想い人の“天使”がいるくせに。婚約予定の王女様がいるくせに。 王太子殿下は何故かアンジェリカに求婚して来て─── ★★★ 『美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~』 に、出て来た不憫な王太子殿下の話になります! (リクエストくれた方、ありがとうございました) 未読の方は一読された方が、殿下の不憫さがより伝わるような気がしています……

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

処理中です...