【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea

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32. それぞれの思い



 初めて唇に触れたキスはすぐに離れてしまいました。
 私はなんだかそれが寂しくて寂しくて寂しくて……

「コホッ……えっと……リリー、嫌じゃなかった……?」

 ですから、照れた様子のイライアス様にそう聞かれて私はこう答えてしまったのです。

「もっと……してください……」

 しかし、それは想い合う男女(しかも互いの気持ちが通じたばかりの興奮状態)がベッドの上にいる時に口にしていい言葉ではない!
 ……と分かったのは、イライアス様の様子が明らかに変わった時でした。

「っっっ!  リリー!  君って子は……!」
「?」
「あと、二年は待たないといけないのに!」
「に……」

 私の言葉はイライアス様の唇に塞がれて声になりませんでした。


────


 チュッ……

「待っ……擽った……いです、わ」
「無理だ、リリー……」

 チュッ……

 どうしたことでしょう!
 さっきからイライアス様からのキス攻撃が止まりません。
 私たち……もう、ずっとチュッチュッしていますわ?
 それも、唇だけでなく額や頬にも……

「……リリー」

 デロンデロンな甘さに私の方が蕩けてしまいそうです。
 また、キスの合間に囁かれる愛の言葉が……甘くて甘くて。
 イライアス様のあの色気はなんなんですの!?

「……リリー、大好きだ」
「わ、私も……」
「……」
「……」

 目が合って、私たちはまた唇を重ねます。

(好きな人とこうして触れ合うことがこんなにも幸せな気持ちになれるなんて……知りませんでしたわ)

 そんなことを思ってイライアス様の腕の中でうっとりしていたら──

「このまま、リリーを僕の腕の中に閉じ込めてしまいたい……」
「え……?」

 イライアス様が突然不思議なことを言い出しました。
 私が目を丸くしているとイライアス様は切なそうに微笑みます。

「君は天性の美しさですぐに人を惹きつけてしまうから……僕はいつだって気が気じゃないんだよ」
「え?」
「アンディ王子は小者だったから大事には至らなかったけど、いつか、誰かに奪われそうで……」
「イライアス様?」
「だから、こうして───」

(イライアス様の瞳が不安そうですわ?)

 もしかしたら、まだまだ私の愛が伝え足りないのかしら?
 それはいけません!
 そう思った私は自分からギュッとイライアス様に抱きつきます。

「……!?  リリー!?  急にどうした……?」
「イ、イチャイチャですわ!」
「イ!?」

 イライアス様の顔がかなりびっくりしています。

「わ、私はイライアス様が大好きです!  これを全身で伝えようと思いましたの!」
「リリー……」
「他の男性なんていりません」

 私がドキドキするのもキュンキュンするのも……イライアス様だけですから。

「くっ!……柔らかくてフワフワ……何これ……鼻血出そうなんだけど……」
「は、鼻血!?  それは大変ですわ!  止血……止血しませんと!!」

 どうしましょう!
 私、攻撃型なので治癒魔法はあまり得意ではありませんの……
 なので、どうしたら良いのか分からずオロオロしてしまいます。

「リリー落ち着いてくれ!  鼻血は出ていない、まだ、出ていないから!」
「そ、そうでしたか」 

 私はホッと胸を撫で下ろします。
 そんな私を見てイライアス様はどこか懐かしそうに笑います。

「リリー覚えている?  血の話で思い出したんだけど──」
「?」
「昔、一緒に遊んでいる時に僕が転んでしまって……」
「あ!  イライアス様が膝から血をダラダラ流してしまった時のことですか?」
「そう!」

 あれは何歳の時だったかしら?
 まだ、力に目覚める前だったはず。

「リリー、パニックになりながらも、“大丈夫ですわ!  おにいさまにこういうときに血をとめるほうほうを教わりましたの!”って胸を張って言うからさ」
「……」

 私はそろっと目を逸らします。

「お任せしたら、逆に傷口がもっとパカッと開いて大惨事になったよね?」
「~~~!」
「そして、リリーは今みたいにオロオロしていたよね」
「わ!  …………忘れてくださいませ」

(なんでそんなしっかり覚えているんですのーー!)

 あれは──あの後、私の悲鳴をどこかで聞きつけたお兄様が文字通り飛んで来て、私が悪化させたイライアス様の傷を癒してくれましたわ。

「嫌だ。リリーのことはどんな些細なことでも覚えておきたい」
「なっ!」
「可愛いくて美しくて泣き虫で、ちょっと怖いところもあって、でもかっこいいリリー……全部を」
「な、何を言っているのですか……もう!」
「リリーが照れている……」

 私があまりの恥ずかしさに両手で顔を覆っていると、イライアス様がその手を剥がしてしまいます。
 そして、顔を出した私に軽くチュッとキスをしました。

「───ドゥーム侯爵令嬢に啖呵を切るリリー……かっこよかったよ」
「……」
「ありがとう。僕の隣にいたい支えたいと言ってくれて……嬉しかった」
「と、当然ですわ!!  イライアス様の隣……そこは私の場所ですもの!」
「うん。ずっとリリーの……リリーだけの場所だ」

 そう言ってまた甘い甘いキスが降ってくる気配がしたので、私はそっと目を瞑りました。



❋❋❋❋❋


 一方その頃のトラヴィスは───……


(はぁぁぁ───今頃、リリーと殿下はイチャイチャ真っ最中なのだろうか?)

 俺は、どこか疲れ切った様子の王子と王女。
 そして、青ざめたままガックリ項垂れた様子の侯爵令嬢を前にして頭を抱えていた。

(なぜだ!  なぜこの状態で殿下は全部投げてくる!?)

 昔からあの王子はたまにこうして無茶ぶりをしてくるんだ。
 たいていそれなりに理由はあるのだが──……
 今回丸投げしてきた理由はリリーとイチャイチャしたいからだそ!?

(リリーベルの兄としては複雑気持ちだ)


 だが……


 ───私はイライアス様のことが大好きなのです!  ですから、私はこれからも彼の隣に立って一番の支えになってみせますわ!
 ですが、それでももし私に不満があるというのなら、今回のようにコソコソと愚かな画策などしないで正々堂々と真正面から立ち向かって来なさい!
 全てコテンパンに打ちのめして、捻り潰して差し上げますわ───


 野次馬にまぎれてこっそりリリーの啖呵を聞いていたが……

(逞しくなったな、リリー)

 リリーは十歳の誕生日を境にガラリと変わってしまった。
 無邪気に笑うことはなくなり、目にも光がなくなった。
 両親あいつらの愚かな感情を受け止めるには十歳のリリーには重すぎた。

 その後、人間不信に陥ったリリーは荒れた。
 心配して手を差し伸べようとしてくれていた殿下のことも信じ切れず手を振り払ってしまい、俺以外は誰も要らないといって、俺に近付く人間には手当り次第噛み付いていた。
 マルヴィナと出会ってからは、かなり落ち着きを取り戻し穏やかになってきて安心している。

 そして今……ようやく殿下の手を取ってくれた……

(で、今頃、二人でイチャイチャか)

 いいなぁ、俺も早く終わらせて、愛しの妻となったマルヴィナのところへ帰りたい……
 今頃、屋敷で俺の帰りを待ってくれている。
 マルヴィナもリリーと殿下の気持ちが通じ合ったと知ったら喜ぶだろう。
 なかなか進展しない二人にヤキモキさせられていたからな……

 二人の結婚は二年後だ。
 イチャイチャと言ってもあの殿下のことだから節度は守るだろう。
 心配なのはあの激ニブな妹、リリーが無自覚に煽ってしまうことだが……そこは仕方がない。

(頑張って耐えてくれ、イライアス殿下!)

 俺は心の中でエールを送る。
 そして、自分のやるべきことに取りかかった。


───


 すっかりこの国?  イライアス殿下?  に怯え切った様子の王子と王女は抵抗することなく、馬車へと乗り込んでいった。
 この二人が企んだことや、我が国に来てからやらかしたことの内容はもう既にイライアス殿下が封書でフィルムレド国に送ってある。
 王子と王女は帰国したと同時に聴取が待っていることだろう。

 続けて、両親だった二人。
 父親だった人はまだ呪いが解けておらず顔が腫れたままで痛そうだ。
 この顔でフィルムレド国に行くのかと思うと……ざまぁみろという言葉が頭に浮かぶ。
 そして、母親だった人は……

(不満そうな顔をしているな)

 母親は荷物の持ち出しが最低限な物のみと知って憤慨していた。
 だが、これからあちらの国に行って地獄を見るであろう二人に持たせる荷物などない。
 あれもこれもそれも……リリーを苦しめ続けた罰だ。
 向こうで後悔すればいい!

(到着後の一報が楽しみだな)  

 そんなことを思いながら、俺は彼らの出発を見送った。
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