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23. 時戻りに隠された秘密と真相②

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  結局俺はまた間違えた────

  その言葉の意味する所は2度目の人生でも私が処刑されたからだろう。

「何故かは分からねぇが、俺が時を戻した後、お前は前の記憶を維持したままだった。本来は有り得ないんだ……記憶の維持が出来るのは、力を受け継いでいる俺とかつて力を宿していた陛下だけのはずだったから」
「……気付いていたのですか?」
「明らかにフィオーラの態度が違ったからな……2度目の人生でお前が俺に向ける感情は日記に書かれていたような隠れた愛情ではなく、怯えと憎しみだった」
「…………」
「加えて、あの女を徹底的に避けていただろ。フィオーラもフィオーラで人生を変えようとしているんだと分かった」
「ならば何故です?  私の冤罪をそのままにした挙句、婚約破棄までして。それに結局私は……」

  自分からそれ以上の言葉は言いたくなくて噤んでしまったけど、言いたい事は伝わっていたようだ。

「…………まず冤罪の元となった噂についてだが…………これはもう完全に言い訳にしか聞こえないと思うんだが……」

  と、そこでレインヴァルト様は言葉を一旦切って、苦しそうな顔をした。

「最初は俺だって噂を食い止めようとした。だけど、んだ……」
「え?」
「俺がどんなに抵抗しようとしても、何故かは分からねぇが、収まるどころかもっと酷く拡大した。そして今回もそうだが……フィオーラが犯人だっていう証拠がたんまり出てきて最終的に取り返しのつかない所までいっちまったんだよ……」
「……」
「真犯人探しどころか、噂の出処や広めているヤツを調べようとする事すら何かに阻まれた」
「!?」

  その言葉には驚いた。
  レインヴァルト様の顔は真剣で、保身の為に嘘を付いているようには見えない。

「そうしてフィオーラの冤罪が決まり、陛下……父上からは婚約破棄の命令がくだされた……」

  それもこれも全部俺が無力だったからとレインヴァルト様は辛そうな顔と声で言う。
  ──知らなかった。
  2度目の人生は混乱の方が大きくて、レインヴァルト様を避けていたから、彼が噂を……冤罪をどうにかしようとしていたなんて気付きもしなかった。

  ……だけど、噂の食い止めが出来なかったとはどういう事なんだろう?
  調べる事すら阻まれたって……
  そんな抗えない何かがこの世界にはあるのかもしれないという事に言い知れぬ恐怖を感じる。
  ブルリと身体が震えた気がした。

  そんな疑問と不安が頭をよぎったけれど、今はそれよりも最も気になっている事を聞かなければいけない。
  だって、2度目の人生の私の最期は……

「…………2度目の私は何故、処刑されたのです?」

  そこだけはレインヴァルト様にどうしても確認したかった。
  確かに言い訳のようにしか聞こえないけれど、“噂の食い止めが出来なかった”せいで、冤罪を着せられ、陛下からの命令で婚約破棄となった事までは分かる。

  だけど、私は2度目の人生でも処刑されている。その理由が知りたかった。

「あの女……メイリンは2度目の人生でもどこまでも狡猾な女だった。入学式の件は仕方なかったが、その後俺は一切あの女とは関わろうとしなかった。実際あの女も2度目の人生で懇意にしていたのは、ラルゴだったはずだ」
「……」

  そう言われて必死に記憶を辿ると、2度目の彼女の側にはよくラルゴ先生がいた気がする。どの人生でも懇意にしていた2人だけど確かにあの時の人生が1番距離が近かったような……。

「だがな、あの女はロイやハリクス達もちゃっかり裏で手玉に取っていたんだ。あの女は俺と親しい関係にならなかったから、今度は最初の人生のように王妃は望めないし、勝手な処刑命令も起こらない。そもそもフィオーラを排除する理由が無いはずだ……そう思ってた。でも違ったんだ」
「……?」

  その言い方は嫌な予感しかしない。
  まさか2度目の処刑も……
  そこまで頭の中で考えた時、レインヴァルト様が言った。
 
「2度目の処刑命令を出させたのは……ロイだ」
「ロイ様が!?」

  またしてもメイリン男爵令嬢とその周囲による仕業だったというの?
 
「正確にはロイの父親のフェンディ公爵が許可を出した。公爵は宰相だからな当然、様々な権力がある。また、王弟でもある事から処刑命令に関する権限を持っていた」
「で、でも、陛下がいますよね?」

  いくら公爵が王弟で、処刑命令を出せる権限を持っていたとしても、レインヴァルト様ならともかく陛下の許可無しに命令を出せて実行出来るものなの……?

  私の問い掛けにレインヴァルト様は、悔しそうに唇を噛みながら言った。

「……狡猾だったと言っただろ?  俺は最初の人生と違って、すぐにフィオーラを牢から出すつもりだった」
「……」

  だけど、私は牢から出されなかった。そして、そのまま……最期を迎えている。
  それが意味するのは……

「だが、その手続きを終える前に、最初の人生と同じく俺にはまたもや泊まり込みでの長期の視察が突然入ったんだ。。更に、過去と違ったのは……父上にも数日だったが俺と同じように城から離れての泊まり込みの視察が入ったんだよ」
「え?」

  意味が分からなかった。どういう事なの?

「あの日、2度目のフィオーラが処刑された日……あの時、城に残っていた最高権力者は、フェンディ公爵だったんだ。公爵が命令を出して実行させたんだよ。それもまたもや異例のスピードでな」
「……え?」

  ……それってまさか。
  私の心臓が嫌な音を立てる。

「後にその話を聞いた時、俺はようやく分かったんだ。最初の人生のフィオーラの処刑の裏にいたのは叔父上……フェンディ公爵だったんだと」
「……!」

  あまりの事の真相に私は呆然としてしまう。
  本当にそんな事が有り得るの?
  だけど、実際の私は処刑されたわけだから……有り得てしまったんだわ。

「メイリンとロイ達、そして公爵は、全て計算して俺や父上が同時期に城を開けるよう裏工作していたんだ。更に俺が視察先からフィオーラを助ける事の無いよう妨害までしていた。全てはフィオーラを処刑する為だけに」
「……っっ!!」

  私は驚いて声が出ない。どうして私はそうまでして殺されなければいけなかったの?

「全てが分かったのは、俺が城に戻って来てフィオーラが再び処刑されたと知らされた後だった。……おそらくだが、最初の人生の時のあの急な視察も全部仕組まれていたんだと思う。俺がフィオーラを助ける事を危惧してな……」
 
  そう語るレインヴァルト様の顔には悔しさが滲んでいる。

「レインヴァルト様……」
「これは、フェンディ公爵が、宰相という地位と権力のある立場で処刑に関する権限も持っていたっていう事の重大さを甘く見ていて、その危険を認識していなかった父上や俺のミスだった」
「……」

   確かに、これでは公爵の権限が強すぎるし、好き放題に出来てしまう。

「だから、前回の人生と今世ではフェンディ公爵から、処刑に関する権限を取り上げる措置を取らせてもらった。今世では更にその他の権力もだいぶ削がさせたよ。まぁ、どちらの人生でも相当ごねられたがな」
「……あ」

  言われてから思い出した。
  4度目の人生が始まってすぐに、王宮でフェンディ公爵に関する事で揉め事があって色々大変だったとお父様が愚痴をこぼしていたのを聞いた気がする。
  それはこの事だったの?

  だけど、何より気になるのが……

「フェンディ公爵は、何故……そんな事を?」

  いくらメイリン男爵令嬢に唆された愛息子の頼みだとしても、わざわざ裏工作してまで私を処刑した意味は何なのだろうか?  そこまで憎まれる様な事をしたのかしら?
 
  レインヴァルト様は口を開くのを躊躇っていた。
  だけど、ようやくその重い口を開いてくれた。

「………………俺はこんな事になるまで気付かなかったんだが、公爵は、宰相という立場に甘んじてはいたが……本当は父上と俺を蹴落として王位を狙っていたようだ……」
「……!」
「実はそんな野望を抱いていた所に、ロイからの頼みだ。公爵としたら渡りに船だったんだろうな……」

  まさかとは思うけど……王位継承争いの話が絡んでいるの?
   冷たい汗が私の背中を流れていく。 

  そして、レインヴァルト様の話は続く。

「……2度目の人生のフィオーラは冤罪だ。そんな何の罪も無いフィオーラに婚約破棄を突き付け牢屋に入れた挙句、処刑まで行った……そんな事をした王太子の行く末はどうなると思う?」

  私はその言葉に息を呑んだ。そんなの決まってる……私は思わず叫んでいた。

「でも、処刑の命令を出したも実行したのもレインヴァルト様では無いのに!!」

  私のその言葉にレインヴァルト様は静かにそして悲しそうに首を横に振る。

「無実の罪でフィオーラが処刑された……世間にはそれが全てなんだよ。本当は誰が処刑命令を出して実行したかなんて真実を知る人間はほんの一握りだからな。公にしなけりゃ世間に知られる事は無い」
「それって……」
「公爵の狙い通り、誰もが俺の命令なんだと思い込んだよ。当然、俺は責めを負う事になった……公爵は俺を引きずり落とせる理由さえ出来れば何でも良かったんだろうな」
「!!」

  そう語るレインヴァルト様はどこか遠い目をしていた。その時の事を思い出しているのかもしれない。

  レインヴァルト様を王太子の地位から引きずり落としたかったフェンディ公爵と、メイリン男爵令嬢に唆されて私をこの世から排除したかったロイ様。
  はからずとも思惑が一致してしまった……?

   つまり、私は……

「私は……いいように利用された……?」

  私の言葉にレインヴァルト様がピクリと肩を揺らした。
  そして、苦しそうな顔をして言った。

「この世の理を破ってでもフィオーラを助けたくて時を戻したはずなのに、俺はまた見殺しにしたんだ……しかも、俺の……王家の争いに巻き込む最悪の形で!!」
「……」

  私は言葉が発せなかった。
  もちろんショックはショックだ。メイリン男爵令嬢もロイ様も……そしてフェンディ公爵も人の命を何だと思ってるの。
  まさか2度目の処刑の裏にそんな大きな事が絡んでいるなんてあの時の私は思いもしなかった。
  ただただ、レインヴァルト様にとってやっぱり私は邪魔な存在なんだ。
  そんな事しか思っていなかった。

「俺はフィオーラを救いたかっただけなのに……!  何の為に時を戻したのだと、ひたすら自分を責めた。2度目の俺は救うどころか、もっと酷く……再びフィオーラを苦しめ追い詰めて殺しただけだったんだよ……。全部、全部俺のせいなんだ……」

  そう自分を責めるレインヴァルト様の目には涙が見えた。
  後悔だけが伝わって来た。
  そして、おそらく私に前回の記憶があったからこそ余計に苦しんでいる。
  一度ならず二度までも私に死ぬという経験をさせてしまったから。
  それも2度目は陰謀に巻き込む形で。

  だから彼はここまで悔いている。
  メイリン男爵令嬢や、ロイ様、公爵様の思惑に気付いていれば。
  そもそも噂を食い止め冤罪を着せる事にさえならなければ。
  牢屋から早く救い出せていれば。

  私が死ぬ事は無かったのかもしれない。

  全身がそう言っていた。

「俺はこのまま自分は罰を受けるべきだと思った。もはや自分がこの先どうなろうと構わなかったからな…………だけど、どうしても!  ……フィオーラが……フィオーラの事だけが……俺は……!」
「…………それで、もう一度時を戻す事にしたのですか?」
「……」

  私の言葉にレインヴァルト様は静かに頷いた。
  そして、小さく呟いた。

「どうしても……どうしても諦められなかったんだ……」
「……何をですか?」

  私は首を傾げた。
  レインヴァルト様は顔を上げてそんな私の目を見つめながら言った。
  やっぱりレインヴァルト様は泣いていた。


「フィオーラが…………生きてる未来を」

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