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15. 許されない
しおりを挟む「……酷いわ、お父様!! 私をここから出して!!」
私は懸命に部屋のドアをドンドンと叩く。
そんな必死な私に向かって返ってきた言葉はたった一つ。
「ならん」
「どうしてですか……!」
叫ぶ私に、ため息を吐いたお父様は言った。
「お前がディギュム侯爵家の息子と恋仲だと聞いたからだ!!」
「!」
「……恋仲だぞ? 恋仲!! 口を聞くだけでも許せないのに恋……」
「この件に関しては私はお父様の意見は聞かないと話したはずです!」
「うるさい!」
私が過去の宣言を持ち出してそう話すもお父様はまるで、聞く耳を持ってくれない。
どうやら、シュバルツ殿下と揉めた時の話がお父様の耳に入ったらしい。
あの日からもう数日は経っていたので、完全に油断していた。
今日、いつものように帰宅した私を、何故かお父様がいい笑顔で出迎えたと思ったら、そのままズルズルと違う部屋に連れていかれ鍵をかけられた。
そこから必死に訴えるも……
「お前が奴の息子と別れる……そう言わない限りその部屋からお前を出すことは無い! さぁ、今すぐ別れると言え!」
「何ですって!? 絶対に絶対に言わないわ!!」
「何だと?」
この様子だけで、お父様がどんな表情をしているか分かる。
「何度聞いても、ちゃんとした説明も無くはぐらかすだけ。それなのに頭ごなしに“駄目だ”ばかり。そんなの従えません!」
「……な!」
「何より! 私は彼を……ディギュム侯爵家のルーセント様の事が好きなのです!」
「フリージア!!」
「そこまで言うなら、まずはちゃんと説明してください!」
「……」
お父様が黙り込む。
(説明されたとしても私は離れる気は無いけれど!)
「とにかく! そこで頭を冷やすんだ!!」
そう言ってその晩、私はこの部屋に閉じ込められた。
一晩たてば、強情だったお父様の心も和らぐかと思いきや……
「──反省が感じられん!」
と言われて翌日も取り付く島も無かった。
(ルーセント様……)
部屋に入れられて出して貰えないので、学院は当然休む事になった。
(唯一、ルーセント様に会える貴重な場だったのに!)
それに、私が学院を休むなんて絶対にルーセント様は心配しているに違いない。
「それにしても、お父様がここまでするなんて……だけど、絶対に別れてなんかやらないんだから!」
と、改めてお父様と正面から戦う気満々な私の元に、食事を持った執事がやって来る。
「……お嬢様の食事です」
「そう、ありがとう。お父様は?」
「絶対に絶対に、ディギュムの息子と別れると口にするまで、部屋から出すな! そう我々に強く言って出かけております」
「……」
(徹底しているわね……)
「お父様は本気なのね……本気で私が彼と別れると言うまでこうするつもり……」
私がそう呟くと、執事は辛そうに言った。
「我々も何もそこまで……とは申し上げたのですが……すみません」
そう言って頭を下げる執事を見てふと思った。
彼は長く我が家に仕えている。もしかして、何か知っている事があるのでは?
と。
「ねぇ、お父様がディギュム侯爵家をあそこまで憎んでいる様子なのは何故なの?」
「!」
その質問に執事はビクッと肩を震わせた。
(この反応、何か知っているのかも……)
「何か知っているなら教えて! お父様はここまでしているのに話してくれないの!」
「……」
「私はディギュム侯爵家の息子……ルーセント様の事が好きなの! だから、この先を彼と生きていく為にも知りたい!」
「お嬢様……」
執事は暫く躊躇ったものの、やがてポツリと語り出す。
「……お嬢様は本当に奥様によく似ておいでですね?」
「奥様……お母様のこと?」
「そうです」
「奥様もよくそんな目をなさっておりました……」
(ここで、お母様が出てくるという事はやっぱり……)
「お嬢様、もともとキャルン侯爵家とディギュム侯爵家は、政治的立場からも対立気味ではございました」
「……」
「ですが、それはあくまでも政を行う上での事。そんな対立する家は一つや二つではありません」
それはその通りだと思う。
実際、今もそういう意味で相容れない家はあるけれど、お父様はそこの家の者とは口を聞くな! とは言わない。あくまでもディギュム侯爵家のみ。
「そんな侯爵家に歳の近い二人の嫡男が産まれました。当然彼らは事ある事に比べられて来ました」
(それは、ルーセント様とも話した通りだわ)
「とは言ってもその頃はそこまで仲が悪かったわけではありません。両家の関係が大きく変わったのは……奥様と出会ってからです」
「……」
「お嬢様、奥様……フローラ様はもともとはディギュム侯爵家の嫡男の婚約者だったのです」
「!!」
「事の始まりは、旦那様が学院で奥様……フローラ様に一目惚れした所から始まったのです」
(───あぁ……)
執事のその言葉を聞いて、やっぱり“色恋沙汰”が原因だったのだと分かった。
リリィの聞いた噂は本当だったという事に他ならない。
ディギュム侯爵様が口にしたという“裏切り者”という言葉を思い出す。
(裏切ったのはお母様?)
───いいか? フリージア。ディギュム侯爵家は、そうやって“良い人”のフリをして我らに近付いて来る卑怯な奴らなのだ!
───あぁ、恐ろしい。なんて事だ……もう絆されてしまったのか。だから、あの家の者達と顔を合わせるのは嫌だったんだ!
(でも、お父様はディギュム侯爵家の事をこう言ってもいた)
「……」
なんとなくだけど、噂通りのお母様を巡る話以外にも他にも理由があるような気がした。
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