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第6話
しおりを挟む──そんな! 権兵衛さんは、レオナールじゃ無かったの!?
私の頭の中は混乱に陥っていた。
この人は……誰? 誰なの?
「……ご、権兵衛さん……?」
私の質問に対して彼はニッコリ笑って言った。
「初めまして、名無しさん。僕は君達の隣のクラスのラウル・ゴンザーガ」
「……あ、アリアン……です」
……ラウル・ゴンザーガ様。
あぁ、顔は初めて見たけれど名前だけは知ってるわ。
レオナールに次いでいつも2番手の成績を修めている人……
「いつも楽しい手紙をありがとう」
「い、いえ……」
本当に? 本当にこの人が権兵衛さんだったの?
私の心臓は今にも口から飛び出すのでは? ってくらいバクバクしている。
「あ、あの……私の事、ご存知……だったのですか……?」
だって、そう聞かずにはいられない。
彼……ラウル様は私を見てすぐに“名無しさん”と言った。
たまたまこの区画に踏み入れただけの図書館利用者かもしれない私に。
「あぁ、そうだね。僕はずっと名無しさんは君だと知ってたよ」
「!!」
なんて事、バレバレだったの……
羞恥と居た堪れなさでどうしたらいいのか分からない。
「ずっと君と直接、話してみたかったんだ」
ラウル様はニコニコした笑顔でそう言った。
「そう、ですか……私も……です」
「あ、それが今回の返事? 読ませて貰ってもいいかな?」
ラウル様は私が手に持っていた今回の返事の手紙を見つけて私の手からそっとそれを引き抜き目の前で読み始めた。
……目の前で読まれるって、何の羞恥プレイなの……!!
もう恥ずかしさが限界を迎えそうだ。
「あれ……名無しさんは好きな人いなかったんだ……? そっかぁ……」
「え、あ……はい」
私がそう答えると、ラウル様はまたニコリと笑いながら私の手を取ってその甲にキスを落としながら言った。
「!?」
「なら、名無しさん。僕の恋人になってくれませんか? 僕はずっと君の事が好きだったんだ」
「…………え」
私の思考はそこで停止した。
****
「……ン」
「……アリアン!」
「ひゃぁ!!」
バサバサバサ……
突然、呼ばれたその声にビックリして私は、手に持っていた教科書やらノートやらを全てぶちまけてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「レ、レオナール……」
レオナールが心配そうに「何をボーッとしてんだ」とブツブツ言いながら、ぶちまけてしまった教科書やノートをかき集めてくれる。
「ん、ほら」
「あ、ありがとう……」
レオナールの顔が上手く見れない。
私は俯きながらお礼を言った。
「今日は朝から様子が変だな? 熱でもあるのか?」
「そ、そんなんじゃ……ない、けど」
「そうか? 顔も赤いし。今日の午後は試験があるぞ。大丈夫か?」
そう言いながらレオナールが私の顔をマジマジと覗き込もうとした時──
「アリアンさん!」
教室の入口の方から私の名前を呼ぶ声が聞こえて、ビクッと肩が跳ねた。
「ラ、ラウル様……」
私はおそるおそる、声のした方を振り向く。
「ラウル……? ラウル・ゴンザーガか? 何でアリアンを……?」
レオナールが驚いた顔でそう呟いた。
「あぁ、レオナール様。どうも」
ラウル様は爽やかな笑顔を浮かべてこちらにやって来た。
「アリアンさん。この後の今日のお昼、一緒にどうですか?」
「え?」
「僕はあなたと出来る限り一緒にいたいんだ」
「!!」
ラウル様のその言葉で、教室中が一気に色めき立つ。
「……何故、ラウル殿がアリアンを誘うんだ?」
レオナールが険しい顔をしてラウル様を睨みつけながら言った。
一方のラウル様は涼しい顔をして答える。
「それは、僕がアリアンさんに交際を申し込んでるからですよ」
「!!」
「なっ!?」
な、何で、ラウル様は皆の……レオナールの前でそんな事を言うの……
私は泣きそうな気分になった。
「ご理解頂けましたか? さぁ、アリアンさん。行きましょう」
「え、ちょっ……」
ラウル様はそう言って私の腕を掴んで強引に連れ出す。
教室から出る寸前に見えたレオナールは呆然とした顔のままその場に立ち尽くしていた。
「……何で皆の前であんな事を言ったんですか?」
「え?」
ラウル様は私を中庭のベンチまで連れて来た。二人並んでそこに腰を下ろす。
「そりゃ、僕は君に交際を申し込んでるんだよ? 余計な虫は少ない方がいいからね」
「……」
ラウル様は悪びれること無くそんな事を言った。
「ねぇ、アリアンさん」
「……何ですか?」
「どうして頷いてくれないの?」
「頷く?」
私は何の話だと思いながら聞き返す。
「交際の申し込みだよ。僕は名無しさんは権兵衛さんの事を好きだと思ってたんだけど」
「!!」
「やっぱり身分差を気にしてる? これでも一応僕も貴族だし……」
ラウル様は男爵家の令息だ。
権兵衛さんは、思った通り貴族男性だった。
そして、私は手紙のやり取りを通して権兵衛さんに恋心を抱いてた。
その人が今、目の前にいる。
そして、彼も私を好きだと言ってくれている。
なのに……なのに、どうして私は頷かないの?
身分差? 交際出来てもそれは一時の関係だから??
「アリアンさん……」
ラウル様が私の肩を掴んで顔を近づけて来る。
これは……
「嫌!!」
唇が触れる寸前で、私はラウル様の顔を押し退けてそう叫んでた。
「アリアンさん……?」
ラウル様の戸惑う声が聞こえる。
「ラウル様……ごめんなさいっ! 私、あなたとは交際出来ません!!」
「え、アリアンさん!?」
私はそれだけ言ってその場から駆け出して逃げた。
走って逃げながら、
その時の私の頭の中にはたった一人の顔しか浮かんでいなかった。
───その日の午後に行われた試験。
後日、その結果に学校中が騒然となった。
この3年間で初めて一位と二位が逆転した。しかも、卒業試験目前のこの時期に。
そう。
入学時から一度も首位を落とした事の無かったレオナールが……初めて負けた。
レオナールの代わりに首位に躍り出たのは、
もちろん、万年二位のラウル・ゴンザーガだった───
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