【完結】私は、顔も名前も知らない人に恋をした。

Rohdea

文字の大きさ
5 / 11

第5話

しおりを挟む

「…………」

  私は、権兵衛さんからの返事の手紙と睨めっこしていた。

「今年、絶対に叶えて見せる……かぁ」

  ため息と共にそう呟く。

「レオナール……」

  やっぱり権兵衛さんはレオナールなんだろうか。
  そんな事って……

「うぅぅ……」

  私は顔も知らない、手紙をやり取りするだけの権兵衛さんに惹かれてた。
  だけど、正体は知らないままで良かった。
  決して叶わない恋だし、正体さえ知らなければどうなろうとも傷は浅くて済む。

  けれど、正体を知ってしまえば、一気にこの恋は現実味を帯びてしまい気持ちは抑えられなくなる。
  叶わない恋という点だけは何一つ変わらないのに。


  権兵衛さんの事が好き
  と、
  レオナールの事が好き

  では、私の気持ちの持ちようが全然違う……違いすぎる。

  そこでハタッと気付く。

  ──権兵衛さん……いや、もうレオナールでいいや。
  は、名無しさんである私の正体を知っているんだろうか?

  正体が分かるような話題は出していなかったつもりだけど……
  私は何度か自分がこの学校の落ちこぼれだと嘆いた。
  ずっと私の面倒を見てきたレオナールだ。

  ……気付いてもおかしくない。

「わぁぁぁぁ!!」

  無理、無理、無理ぃぃぃ!!!!

  もう、レオナールの顔がまともに見れる気がしない!
  明日からどんな顔すれば良い?
  私、今までレオナールにどんな顔して話してた??



  ──ぐるぐる悩み過ぎて、その日の私は一睡も出来なかった。




****




「お前……」
「…………何よ?」

  レオナールが唖然とした顔で私を見ている。
  私の顔が酷すぎて言葉を失っている様子だ。

「いくら何でも徹夜で勉強は無いだろ!?  少しは身体の事を考えろよ!」
「ちっがうわよ!!」
「は?  違うのか?」
「違うわよ……ちょっと……考え事してて眠れなかっただけ」
「考え事?」

  レオナールは不思議そうな顔をして首を傾げてる。

  レオナール!  あんたの事よ!!
  と言ってやりたい……!

  そんな気持ちに駆られていると、レオナールは私の頭にポンッと手を置き、優しく撫でながら言った。

「……ったく。何をそんなに悩んでるのか知らないが、せっかくの可愛い顔が台無しだろ……」
「…………え?」


  ──今、何て……?


「え?」

  レオナールも、あれ?  って顔をしている。
  これは自分で自分の発言に気付いてない感じだ。

「……」
「……」

  お互い少しの沈黙の後、ぶわぁぁぁと、レオナールの顔が赤く染まっていく。

「!?」
「う……あ、違っ……これは……」
「っっ!」

  レオナールの動揺が伝わって来たせいかつられて私も赤くなってしまう。

「何でもないっっ!!  ちょっと頭を冷やしてくる!!」
「あ、レオナール!?」

  私の制止の声も聞かず、レオナールは走って教室を出て行ってしまった。

「えー……」

  今のはいったい何だったの?
  ……聞き間違いじゃ無ければ……可愛いって聞こえた……

「……何て事を言うのよ」

  だって、レオナールが本当に本当に権兵衛さんの正体なら、
  彼には好きな人がいる。
  将来を添え遂げたいと思うほど好きな人が。

  ……チクンッ

  また、私の胸が痛み出す。

「そういう事は、私にじゃなくて好きな人に言うべきよ……」

  私は顔の火照りを抑えながら、誰にも聞かれないくらい小さな小さな声でそう呟いていた。



****



  何が楽しくて好きな人の恋愛相談を受けなきゃいけないんだろう。
  そんな事を考えていたその日、

『名無しさん
  いつも、私の相談に乗って下さりありがとうございます。
  名無しさんこそ、好きな方はいないのですか?』

  そんな内容の手紙を貰った。

  ──あなたです。

  そう返事を書きたい衝動を堪えて、私は「特にいません」と、嘘を付いて当たり障りの無い返事を書いた。

  レオナールとはあれからも特に変わらない。
  あの日の「可愛い」発言などまるで無かったかのように接してる。
  きっとあの時は私の頭を撫でながら“好きな人”の事でも考えてたんだわ。

「はぁ……」

  いっその事、権兵衛さんとレオナールが別の人だったらこんなに悩まなかったかもしれない。
  顔も知らないまま惹かれた人が、まさかのレオナールだったせいで私はきっとここまで動揺してるんだ。

  そんな事を考えながら、いつものように図書館に行き、返事を挟もうと思って例の本のある場所へと向かう。

「……?」

  珍しい事にそこには先客がいた。
  ……生徒なのは分かるけど知らない男性だ。

  だけど、その人の手にしている本を見て私は驚きで大きく目を見開く。

『農業の基本』

「……っ!!」

  声にもならない小さな私の叫び声と気配を察知したのか、その本をパラパラと読んでいたその人がこちらに気付いた。
  そして、私を見るとちょっとだけ驚いた顔をした後、すぐにニッコリ笑いながら言った。


「あぁ、ようやく会えました。初めまして、名無しさん」


  見ず知らずの男性は間違いなくそう口にした。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

声を聞かせて

はるきりょう
恋愛
動物の声が聞こえる彼女と冷たい第二王子の物語。完成しました。 「……反対されない、というのは、寂しいことだと思いますの。だから…私が反対してさしあげます」  サーシャは最上級の笑顔を浮かべた。そして、思い切り息を吸い込む。 「何でも思い通りいくと思うなよ、くそ王子!!」 「サ、サーシャ様!?」  なりゆきを見守っていたハリオが慌てたようにサーシャの名を呼んだ。一国の王子への暴言は不敬罪で捕まりかねない。けれど、言わずにはいられなかった。  そんなサーシャの言動にユリウスは一瞬目を丸くし、しかしすぐに楽しそうに笑った。  「お前面白いな。本当に気に入った」 小説家になろうサイト様にも掲載してします。

婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ

鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。 平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」 婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。 彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。 二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。 ……はずなのに。 邸内で起きる不可解な襲撃。 操られた侍女が放つ言葉。 浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。 「白の娘よ。いずれ迎えに行く」 影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。 守るために剣を握る公爵。 守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。 契約から始まったはずの二人の関係は、 いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。 「君を奪わせはしない」 「わたくしも……あなたを守りたいのです」 これは―― 白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、 覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。 ---

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。

処理中です...