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第5話
しおりを挟む「…………」
私は、権兵衛さんからの返事の手紙と睨めっこしていた。
「今年、絶対に叶えて見せる……かぁ」
ため息と共にそう呟く。
「レオナール……」
やっぱり権兵衛さんはレオナールなんだろうか。
そんな事って……
「うぅぅ……」
私は顔も知らない、手紙をやり取りするだけの権兵衛さんに惹かれてた。
だけど、正体は知らないままで良かった。
決して叶わない恋だし、正体さえ知らなければどうなろうとも傷は浅くて済む。
けれど、正体を知ってしまえば、一気にこの恋は現実味を帯びてしまい気持ちは抑えられなくなる。
叶わない恋という点だけは何一つ変わらないのに。
権兵衛さんの事が好き
と、
レオナールの事が好き
では、私の気持ちの持ちようが全然違う……違いすぎる。
そこでハタッと気付く。
──権兵衛さん……いや、もうレオナールでいいや。
は、名無しさんである私の正体を知っているんだろうか?
正体が分かるような話題は出していなかったつもりだけど……
私は何度か自分がこの学校の落ちこぼれだと嘆いた。
ずっと私の面倒を見てきたレオナールだ。
……気付いてもおかしくない。
「わぁぁぁぁ!!」
無理、無理、無理ぃぃぃ!!!!
もう、レオナールの顔がまともに見れる気がしない!
明日からどんな顔すれば良い?
私、今までレオナールにどんな顔して話してた??
──ぐるぐる悩み過ぎて、その日の私は一睡も出来なかった。
****
「お前……」
「…………何よ?」
レオナールが唖然とした顔で私を見ている。
私の顔が酷すぎて言葉を失っている様子だ。
「いくら何でも徹夜で勉強は無いだろ!? 少しは身体の事を考えろよ!」
「ちっがうわよ!!」
「は? 違うのか?」
「違うわよ……ちょっと……考え事してて眠れなかっただけ」
「考え事?」
レオナールは不思議そうな顔をして首を傾げてる。
レオナール! あんたの事よ!!
と言ってやりたい……!
そんな気持ちに駆られていると、レオナールは私の頭にポンッと手を置き、優しく撫でながら言った。
「……ったく。何をそんなに悩んでるのか知らないが、せっかくの可愛い顔が台無しだろ……」
「…………え?」
──今、何て……?
「え?」
レオナールも、あれ? って顔をしている。
これは自分で自分の発言に気付いてない感じだ。
「……」
「……」
お互い少しの沈黙の後、ぶわぁぁぁと、レオナールの顔が赤く染まっていく。
「!?」
「う……あ、違っ……これは……」
「っっ!」
レオナールの動揺が伝わって来たせいかつられて私も赤くなってしまう。
「何でもないっっ!! ちょっと頭を冷やしてくる!!」
「あ、レオナール!?」
私の制止の声も聞かず、レオナールは走って教室を出て行ってしまった。
「えー……」
今のはいったい何だったの?
……聞き間違いじゃ無ければ……可愛いって聞こえた……
「……何て事を言うのよ」
だって、レオナールが本当に本当に権兵衛さんの正体なら、
彼には好きな人がいる。
将来を添え遂げたいと思うほど好きな人が。
……チクンッ
また、私の胸が痛み出す。
「そういう事は、私にじゃなくて好きな人に言うべきよ……」
私は顔の火照りを抑えながら、誰にも聞かれないくらい小さな小さな声でそう呟いていた。
****
何が楽しくて好きな人の恋愛相談を受けなきゃいけないんだろう。
そんな事を考えていたその日、
『名無しさん
いつも、私の相談に乗って下さりありがとうございます。
名無しさんこそ、好きな方はいないのですか?』
そんな内容の手紙を貰った。
──あなたです。
そう返事を書きたい衝動を堪えて、私は「特にいません」と、嘘を付いて当たり障りの無い返事を書いた。
レオナールとはあれからも特に変わらない。
あの日の「可愛い」発言などまるで無かったかのように接してる。
きっとあの時は私の頭を撫でながら“好きな人”の事でも考えてたんだわ。
「はぁ……」
いっその事、権兵衛さんとレオナールが別の人だったらこんなに悩まなかったかもしれない。
顔も知らないまま惹かれた人が、まさかのレオナールだったせいで私はきっとここまで動揺してるんだ。
そんな事を考えながら、いつものように図書館に行き、返事を挟もうと思って例の本のある場所へと向かう。
「……?」
珍しい事にそこには先客がいた。
……生徒なのは分かるけど知らない男性だ。
だけど、その人の手にしている本を見て私は驚きで大きく目を見開く。
『農業の基本』
「……っ!!」
声にもならない小さな私の叫び声と気配を察知したのか、その本をパラパラと読んでいたその人がこちらに気付いた。
そして、私を見るとちょっとだけ驚いた顔をした後、すぐにニッコリ笑いながら言った。
「あぁ、ようやく会えました。初めまして、名無しさん」
見ず知らずの男性は間違いなくそう口にした。
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