【完結】私は、顔も名前も知らない人に恋をした。

Rohdea

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第7話

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  ……頷けなかった。

  ずっと淡い恋心を抱いてきたはずの権兵衛さんからの告白に。
  権兵衛さん……ラウル様にキスをされそうになって気付いてしまった。

  “違う。私が好きなのはこの人じゃない”

  あの時私の頭の中に浮かんだ顔は……

  私が求めたのは……

  たった一人……レオナールだったから。




****




「どういう……事」

  貼り出されたそのテスト結果の前で私は驚きと共にそう呟いた。

「何で…………レオナールが二位……なの」

  こんな事は前代未聞だ。
  この3年間で一度も起こらなかった。

  あのレオナール・トランドが首位陥落──
  首席卒業は誰の手に!?


  その日の学校はその話で持ち切りだった。






「……」

  空席となってる隣の席を見る。
  レオナールはこの騒ぎを見越してか、結果発表と共に姿を隠した。
  先生に聞いたら校内にはいるらしいけど、敢えて居場所は伏せているらしい。


  だから、私も会えてない。


  ──レオナールは大丈夫だろうか?


『兄は……ずっとそれがプレッシャーだったのです。あの二人の息子なのだから何でも出来て当然。優秀でなくてはならない。周囲にはいつもそんな目で見られていました』


『兄は決して要領のいいタイプでは無いのです。言うならば影の努力家。見えない所でいつも必死にもがいてるんですよ』

  エマーソン様に言われた言葉を思い出す。

  きっとあの話を聞かなければ、今回の結果にはもちろん驚いただろうけど、レオナールも成績落とす事があるのね、珍しい……そんな風に思って終わってたかもしれない。

  けど、違う。
  レオナールはずっとずっと努力して来た。
  有名な二人の息子だというプレッシャーと必死に戦って。
  そうしていつも必死に掴んでた成績首位という立場。
  そんなレオナールの思いを私は知ってしまった。

  それが崩れてしまったレオナールは今、どんな思いで……

「……!」

  ガタンッ

  私は勢い良く立ち上がった。

「アリアンさん?」
「……」

  先生が何事かと目を丸くしている。

「先生……胸が死にそうなほど痛いので医務室に行ってきます!!」
「え?」

  私はポカンとした顔の先生をそのままにして、教室の外に走り出した。




****



「……やっぱり、ここにいたんだね」

「……アリアン?」

  私は力が抜けたように床に座り込んでるレオナールの側にそっと近付く。

「どうして俺がここにいる、と分かったんだ……?」

  レオナールはどこか力の入ってない声で言った。

「うーん、勘……かな」
「何だよ、それ。すげーな」

  レオナールは、ハハハと笑うもやっぱり元気は無い。

「……」

  レオナールは、図書館にいた。
  そう。それも、あの名無しさんと権兵衛さんが、手紙のやり取りをしていた、『農業の基本』の本がある区画。
  そこの床にレオナールは力無く座り込んでいた。


  ──やっぱりここだった。


  レオナールの元に行きたい。
  そう思った時、頭の中に浮かんだ場所はココだった。
  ココしかないと思った。

  それが全ての答えだ。私が感じた事はきっと間違ってない。
  権兵衛さんの正体は──……

  だけど今、重要なのはそこじゃない。

  私はそっとレオナールの元に歩み寄り、彼の隣に腰を下ろした。

「……情けないだろ」
「え?」
「首位の座からたかだか一度落ちただけでこのザマだ……」
「レオナール……」

  レオナールの声は震えてた。
  そんな彼の様子を見て、
  一位である事は、ずっと彼の誇りで。
  そうあり続ける事でレオナールは、周囲からの重い重いプレッシャーを跳ね除けて来ていたという事を改めて実感させられた。

「情けなくなんかない」
「……?」
「レオナールは、私なんかが一生分からない重いプレッシャーを背負いながら、ずーっと努力して来たんでしょ?  そんなレオナールを情けないなんて私は思わない」
「アリアン……?」

  私はギュッとレオナールを抱き締めながら力強く言った。

「だから!  レオナールをバカにするヤツがいたら私に教えて?」
「……何でだ?」
「私が、ソイツをボッコボコにしてやるわ!!」

  私は本気で言ったのにレオナールは可笑しそうに吹き出した。

「ぷッ……なんだそりゃ……」
「もー、本気なのに!」

  私がむぅーと頬を膨らませて不貞腐れると、レオナールはますます可笑しそうに笑った。

「ハハッ……アリアンはカッコよくて最高の女だな……そんなお前だから俺は……」
「レオナール?」

  その言葉と同時にレオナールが私をギュッと抱き締め返した。

「……アリアン」
「……?」

  レオナールの顔がそっと近づいて来る……

  あ、これ、ラウル様の時と同じ……

  あの時は嫌だって思った。だから、押し退けて逃げた。



  ……でも今は。


  レオナールとなら嫌じゃない…………



  私はそっと瞳を閉じた。


  程なくして私の唇に柔らかい温もりが降って来た。

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