27 / 30
27. 暴走、勘違い令嬢は追いつめられる
しおりを挟むイリーナ様の狙いは、明らかに私の顔を傷つける事だった。
同じ女性としてそういう考えに至る事が私は本当に許せない──……
「アリーチェ!」
「エド様!?」
エドワード様は、イリーナ様が向けて来た攻撃から咄嗟に私を庇った。
「……くっ!」
「!!」
そのせいでイリーナ様が私にめがけて振りかざしたグラスの破片は、ちょうど私を庇ったエドワード様の肩を傷付けた。
「エド様、エド様!!」
「……大丈夫。アリーチェは……怪我は無いか?」
「エド様が庇ってくれたから、私は何ともありません、でもエド様が! 血が!」
「大丈夫だって。アリーチェが何ともないなら、良かった」
エドワード様はそう言って笑うけど、笑っている場合では無い。
見た感じはそんなに深そうな傷には見えないけれど血だって出ている!
傷跡から変な菌が入り込む事だってあるかもしれない。
「誰か! ……エドワード様の手当を! お願いします、誰か!」
私の声でようやくこの事態を呆然と見ていた人達が動き出す。
慌ててエドワード様を手当に連れて行こうとし、駆け付けた衛兵はイリーナ様を拘束しようとする。しかし、イリーナ様は抵抗し暴れた。
「離しなさいよ! それよりどうして! どうしてそんな女を庇ったのですか? 何故! エドワード様!!」
エドワード様を傷付けた事に動揺しているのかイリーナ様は半狂乱になってそう叫んだ。
「アリーチェをそんな女と呼ぶな! お前なんかとは比べ物にならないくらいの素晴らしい人だ!」
エドワード様は支えられながら手当に向かう途中だった足を止めると、イリーナ様に向かって言った。
「素晴らしいですって!? 嘘よ! 嘘、嘘!! 私の方が……私の方が何もかも優れていますわ!」
「どこがだ! 今、自分のした事をよく振り返ってみろ!」
「!?」
イリーナ様が少しだけたじろぐ。
「謹慎中の身の上で、許可もなくこの場にやって来ては言いがかりをつけた挙句、令嬢を襲おうとしたお前のいったいどこの何が優れていると言うんだ!」
「わ、私は何も悪くないですわ……邪魔者を排除しようとしただけですもの……それに! そもそも今日ここに来たのは殿下に謹慎を解いて貰おうと直談判するためでしたのよ。なのにエドワード様がその女と親密になさるから……!」
「勝手な事を言うな! 大人しく謹慎してれば良かったんだ! 身勝手な事をして殿下のパーティーをめちゃくちゃにした罪は重い。その覚悟はあるのか?」
「え?」
本当にイリーナ様には周りが見えていなかったらしい。
自分が暴れたこの場が何の為に開かれた場だったのか。完全に飛んでいた。
もし、本当に謹慎を解いてもらいたかったのなら、別の方向からだって働きかける事は出来たはずなのに。
「殿下とリスティ様はこれから会場入りだった。当然、この騒ぎも聞こえている事だろう。今頃何を思っているだろうな」
「……え」
イリーナ様の目が大きく見開く。
「───そんなもの、当然怒っているに決まっているだろう」
エドワード様のその言葉を受けて、王太子殿下が登場した。隣にはリスティ様。
リスティ様の肩を抱いて現れた王太子殿下のその顔は……もちろん怒っている。誰がどう見ても怒っている……
(こ、怖い……)
「ルー……ルフェルウス様」
リスティ様が怒り顔の殿下に向けて心配そうに声をかける。そんなリスティ様の顔色も実は良くない。
殿下はリスティ様の頭を優しく撫でながら言った。
この時だけは優しい笑みを浮かべる。
「大丈夫だ、リスティ。しかし3年前を思い出すな。あの時は君が糾弾されていたな」
「えぇ……」
リスティ様が辛そうに目を伏せる。
男爵令嬢とやらがやらかした件を言っているのだと分かった。
殿下はリスティ様にだけ向けた優しい笑みを消すと一転して冷たい声で言い放つ。
「毎回毎回どこにでもいるものなのだな。愚かな奴と言うのは」
「っ! …………愚、か」
そう言ってイリーナ様を睨みつけた殿下の迫力にさすがのイリーナ様も震えた。
「まぁ、過去の事もあるしな。まさか……とは思ったとも。思ったが……なぜこのパーティーなんだろうな」
「……っ」
「わざわざ、謹慎にしておいて公にならない所で話をするつもりだったのにな……反省の一つもせず、自らそれを壊すとは」
「わ、私はただエドワード様を! あの女から救おうと……」
「エドワードのあの告白を聞いてなぜ分からない? エドワードは君を全く愛してなどいない! それどころか君から婚約者を庇って怪我まで負ったんだぞ!?」
殿下は会場の隅で手当を受けているエドワード様を見ながら怒鳴る。
「さっき、どうして婚約者を庇ったかエドワードに聞いていたな? そんなの簡単な事だ。エドワードが婚約者を愛してるからだ。愛する人がどんな形だろうと傷つく所を見たい奴がいるわけないだろう!」
「……なっ」
「ケルニウス侯爵令嬢。周りを見てみろ」
殿下はそう言ってイリーナ様に周りを見渡すように言う。
「今、この状態に置かれているお前を誰一人として庇う者はいないようだぞ──そう。家族でさえも」
「……え?」
「お前を愛してくれる奴はいないのだな」
「!?」
イリーナ様の顔が引き攣った。
そして、キョロキョロと辺りを見回す。自分に向けられているのは周囲からの軽蔑と白けた様な目。そこには憐れみも同情も一切無い。
「……お、お父様、お兄様! 私、」
そんな中で、ケルニウス侯爵家の顔触れを見つけたのか、イリーナ様は救いを求めるような声を出し手を伸ばしたけれど、侯爵様はその場から一歩も動かずに言った。
「イリーナ。先程、殿下に願い出させてもらったよ」
「……何を、です?」
「イリーナ・ケルニウスを我が家から勘当する事だ」
「………………え?」
「これまでもお前は目に余る行動が多く、散々困らされて来た。いつかは改心すると信じて庇ってもいた……だが、もう無理だ」
「!?」
侯爵様のその言葉にイリーナ様の伸ばした手は、行き場を失い空中を彷徨う。
「お、お父様? 嘘でしょう?」
「お父様と呼ぶな。お前はもう娘では無い」
「お兄様……」
「私に妹はいない」
ケルニウス侯爵家の二人は容赦なくイリーナ様を切り捨てた。
「嘘……」
味方だと思っていた二人の言葉にイリーナ様が力なくその場に崩れ、その隙を衛兵が取り押さえる。
イリーナ様はさすがに今度はもう抵抗する様子を見せなかった。
128
あなたにおすすめの小説
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います
木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。
サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。
記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
【短編】記憶を失くした令嬢が、二度目の恋に落ちるまで
夕凪ゆな
恋愛
ある雪の降る日の朝、ヴァロア伯爵家のリディアのもとに、信じられない報せが届いた。
それは、愛する婚約者、ジェイドが遠征先で負傷し、危篤であるという報せだった。
「戻ったら式を挙げよう。君の花嫁姿が、今から楽しみだ」
そう言って、結婚の誓いを残していったジェイドが、今、命を落とそうとしている。
その事実を受け入れることができないリディアは、ジェイドの命を救おうと、禁忌魔法に手を染めた。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜
恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」
18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から
情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。
しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。
彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、
彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。
「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」
伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。
衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、
彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。
「……あの、どちら様でしょうか?」
無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。
裏切った男と、略奪を企てた伯母。
二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる