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しおりを挟む「うるさいわね、だからあんたはへっぽこなのよ!!」
「俺をへっぽこ呼ばわりするな! 本当にその口の利き方は何なんだ!」
ポンコツマッフィーの野郎に未だに大変失礼な口を叩いている(一応)ヒロインの元へと私はそっと近付く。
その気配に気付いたのか、ヒロインが私の方に視線を向けた。
そして、可愛らしかった顔を酷く歪めて私に向かって言った。
「……来たわね、この泥棒猫!」
(泥棒猫って……)
気持ちは分からなくもないけれど酷い言い草だわ。
「泥棒猫、とは?」
「泥棒猫は、泥棒猫でしょう!? 私の未来の夫を奪おうとしているだから!!」
(未来の夫……)
私もずっとそうなるべきだって思ってた。
目の前のこの人は“ヒロイン”で、私は物語開始早々に退場する“脇役”だから。
でも、もうそうは思わない。
「さっさとロディオ様との婚約を解消して私に返しなさいよ! それでソフィア・イッフェンバルドは私の為にさっさとそこのへっぽこ男に殺されてよ!」
「……どうして私が死ななくてはいけないの?」
「そう決まってるのよ! この世界の決まりなんだから」
(本当に不思議だわ)
本当にそう思うのなら、どうして大人しく物語の開始の時を待っていなかったの?
確かに私は自分が死にたくなくて物語を変えようとはした。
でも、私が前世の記憶を取り戻して、この世界の事を思い出す前からヒロインは違う行動を取ってしまっていた。
(そりゃ、物語もめちゃくちゃになるわよね)
私は物語がめちゃくちゃになったのは、自分のせいかもと思っていたけれど狂いだした始まりは、ヒロインだ。
(でも、きっとその事に気付いていないし、認めないのでしょうね)
「例え今、私が死んでも、あなたの思い描く未来なんて絶対にやって来ませんよ? ちゃんと現実を見て下さい」
「は?」
「だって、あなたも見たでしょう? ロディオ様ってちょっと好みが変わっているんですよ。知ってました?」
「え?」
──知らないでしょう? あなたの見ているロディオ様は、頬をふにふになんてしなかったはずだもの。
「あなたじゃ無理です!」
「は? 何でよ!?」
「だって、ロディオ様って、私の(頬の)事が大好きみたいなんです」
「なっ!?」
いーやーぁぁぁぁーー
そんなハッキリ言わないでぇぇぇーー
私たちの夢がぁぁぁぁーー
(──ん? どうして令嬢達がそんなに騒いでいるの?)
更に泣き崩れる令嬢達が視界の端に映り不思議に思う。
やっぱり、ほっぺた大好きはショックが大きかったのかな……と、納得する。
ついでにロディオ様の方をチラッと横目で見ると、彼は顔を真っ赤にして私を見つめていた。
(真っ赤!? まさか頬をふにふにするのが大好き! なんてへんた……ゲフンゲフンな性癖をバラしてしまったから怒ってる……? いえ、違うわ……人前でも平気でふにふにする人なんだから今更よね?)
なら、何であんなに顔が赤いのかと思いながらも私は続ける。今は打倒ヒロイン!
「ロディオ様は、すごくすごく(頬を)愛してくれているの」
だってヒロインに、あのふにふに攻撃が耐えられるかしら?
ふにふによ、ふにふに! 隙あらば頬をふにふにされるのよ!?
気付くと頭の中がふにふにでいっぱいになるのよ!?
「好き? 愛されてる? 嘘ばっかり言うんじゃないわよ!! 泥棒猫のくせに!」
「……でも、先程までのロディオ様の様子をあなたも見たでしょう? たくさん私の(頬の)事を愛してる様子を。だから、ロディオ様は私が(この頬で)幸せにするわ! あなたは要らない!」
「っっっ! うるさいわよ! ふざけないで脇役女!! どうせ全部あんたが卑怯な手を使ったに違いないんだからーー」
「!」
そう言ってヒロインは思いっ切り手を振りあげ、そして───……
バッチーーー~ん
と、ポンコツマッフィーの野郎の頬を叩いた。
「……いっ痛てぇ!」
「なっ!? え? 何でへっぽこ!?」
「……」
(あ、危なかったぁ……)
頬なんて叩かれたら、ロディオ様がふにふに出来なくなっちゃう!
……こんな事が真っ先に頭に浮かぶあたり、私はふにふにに毒されている証拠。
(でも、何が何でもこの頬っぺただけは死守しないと!)
後で私がロディオ様に告白する時の大事なアピールポイントなんだから!
頬っぺたを武器に迫るって決めてるのよ。
「おいっ! 何するんだよっ!?」
「違っ……! 私はあの泥棒猫を叩こうとして! あんたこそ何で目の前に飛び出して来たのよ!?」
「はぁ? 俺の意思じゃない! 引っ張られたんだ!! それよりお前、相当力を込めただろ!?」
突然、叩かれたポンコツマッフィーの野郎は頬を抑えて痛がり、叩いたヒロインは狼狽えていた。
「……」
ヒロインが手を振り上げたので、まずいと思った私は咄嗟にマッフィーの野郎の腕を引っ張り私の前に立たせて代わりに叩かれてもらった。
私とヒロインの攻防を間抜けな顔で見ていたポンコツは油断していたのか簡単に引っ張る事が出来たので、とても助かった。
(無理やりだけど本当に盾になってもらえたわ! この人でも役に立つ事もあるのね)
「ソフィア!」
そんな私が安堵していたらロディオ様が私に駆け寄って来る。
そしてギュッと優しく私を抱きしめた。
「手をあげてたぞ? やっぱり近付いたら危険だったじゃないか!」
「でも、マッフィー……様を盾に出来ましたよ?」
「あれはたまたまアイツがボケっと間抜けな顔をしていたからに過ぎない!」
「……」
まぁ、否定はしない。
フニフニ……
そして、ロディオ様は安定の頬へのふにふにを開始する。
「ロディオ様……」
「ポンコツマッフィーだろうとそこの気持ち悪い女であろうと、ソフィアのここには誰も触らせない」
フニフニ……
「知っています」
「ソフィアは可愛い可愛い俺の嫁だ……でもまさか、こんなにちゃんと俺の愛が伝わっているとは思わなかった……嬉しいよ、ソフィア。もう、離さないよ、俺の嫁」
フニフニフニ……
(……ん?)
俺の愛?
フニフニフニフニ……
(あ! 頬への愛の事かしら……ごめんね、ロディオ様。私はそれだけでは足りないの)
「ロディオ様……」
「ん?」
フニフニフニフニフニフニ……フニッ
私はロディオ様がふにふにしてくる手を止めさせた。
「……ソフィア?」
ロディオ様が悲しそうでもあり、どこか困惑した表情を見せる。
(そんな顔しないで?)
「ロディオ様……お願いです。もっと私を(頬以外も)愛して下さい!」
「……え?」
……フニッ
私はそう言って勢いよく背伸びをして、ロディオ様の頬に自分の唇を押し付けた。
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