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第四話
しおりを挟むそもそものお姉様の私を貶めて楽しむという異様な悪癖の始まりは、
私が幼馴染の男の子に恋をしたのが始まりだった──
『ねぇ、リラジエ。まさかと思うけど、グレイルの事が好きなの?』
『……! お、お姉様何で……!』
『あらあら、やっぱりそうなのね!』
その日、お姉様は私にそう言った。
図星をさされた私は動揺し、その様子でお姉様は確信を得たようだった。
名前の出た彼、グレイル・オッフェンは、隣の領地の子爵家の次男でお姉様と同い年。
歳の近い私達3人は幼い頃からよく遊んでいて仲が良かった。
そんなグレイルはお父様や親戚、周りの人達がデレデレにお姉様を甘やかし優遇する中で唯一、私とお姉様を区別すること無く接してくれる珍しい人だった。
それが嬉しくて私は密かに彼に恋をしていた。
だけど、どうやらお姉様には私の気持ちを見抜かれていたらしい。
『……ふふふ、そっかぁ、そうなんだぁ』
『お、お姉様……でも、私ね……』
関係を壊すのが嫌で告白なんて出来ないの、と告げると、ますますお姉様は『あらあら、そうなのねぇ、うふふ』と、とても意味深に笑っていた。
何だか嫌な笑い方だわと思ったけれど、その時はあまり深く考えなかった。
───そして、それから数日後……
『リラジエ! 聞いてくれよ!』
『グレイル? どうしたの?』
その日、グレイルが興奮した様子で私の元へ駆け寄って来た。
『俺さ、レラニアと付き合う事になったんだ!!』
『…………え?』
『もう信じられなくてさぁ~夢みたいだ』
目の前がクラクラした。
どうして?
『えっと、グレイル……はお姉様の事が好きだったの……?』
いつも、私の事を可愛いと言ってくれていたのは……やっぱり妹としてだったんだ……
その事に大きなショックを受けた。
(やっぱり皆、お姉様を選ぶのね……)
『いや、好きは好きだけど、あのレラニアに「ずっとあなたの事が好きだったの」なんて言われたらさぁ……』
『!?』
お姉様がグレイルの事を好き!? そんなはず……
だって、お姉様はあれからグレイルの事を私にこう言っていたんだもの。
“ねぇ、リラジエ。アンタは何であんなパッとしない男の事が好きなの?”
──って!
嘘だった? 本当はグレイルの事をお姉様も好きだった? いえ、あの様子は違うわ。
……なら何故なの?
『そ、そうなのね? おめでとうグレイル。お姉様と幸せに……なってね?』
『うん、ありがとう!』
私は、泣きそうな気持ちを堪えて無理やり笑顔を作って祝福した。
だってグレイルが幸せそうに笑うから。
(辛い……でも、お姉様とグレイルが幸せならそれでいい……)
そう思ったのに。
胸が痛むのを隠しながら2人を祝福しようと思ったのに───
『グレイルには飽きちゃった、もう要らないからアンタにあげるわ』
『!?』
だけどほんの数日後、お姉様はあっさりと手のひらを返した。
『アンタが好きだって言うから、もしかして私の知らない魅力があるのかしら? と思ったけどやっぱりつまらない男だったわねぇ』
『……お、お姉様……??』
『私のお下がりになっちゃうようなつまらない男だけど、別にいいでしょ? アンタはグレイルの事が好きなんだもんね』
そう言ったお姉様の顔はとても酷く歪んでいて、ここでようやくあの時のお姉様が意味深に笑っていた意味を知った。
やっぱりお姉様はグレイルの事なんてこれっぽっちも好きじゃなかった!
(きっとグレイルに告白した事もわざとだったんだわ!)
理由は分からないけれど、お姉様はわざとこんな事をした。
(どうして? どうしてお姉様はこんな事をしたの……!?)
その事にショックを受けてしばらく呆然としていた事を今でも覚えている。
それから数日後、グレイルが我が家にやって来た。
あの時の彼はもしかしたらお姉様が別れを考え直したのだと期待したのだと思う。
現れた時のグレイルはそんな顔をしていたから。
なのに、そんな彼に告げられた言葉は……
そう。その後も何度も続く事になる……今回も言っていたあの言葉。
『ごめんなさいね? グレイル。リラジエがどうしてもって聞かなくて……私はやめなさいって言ったのだけど』
私は耳を疑った。
その言葉を聞いたグレイルが “どういう事だ?” という顔で私を見る。その目は「俺が振られたのはお前のせいか!」そう言っていた。
そして、お姉様に捨てられ、次の相手に私なんかを薦められ傷ついたグレイルは──……
このグレイルとの出来事から、お姉様は色んな方とお付き合いを始めては浮き名を流していくようになり、捨てた男性達を私に紹介するという迷惑な行為を始めたのだった。
─────……
「お嬢様、朝ですよ」
「……はっ!」
起こされて飛び起きた。
慌ててしまったのは、久しぶりにグレイルの……お姉様の嫌がらせの始まりの日を夢に見ていたから。
「何か悪い夢でも?」
「…………いえ、大丈夫よ」
悪い夢どころか悪夢よ。
だけど、きっとこんな夢を見たのは───
今日がジークフリート様との、デ、デ、デート! の日だから。
(だけど、お姉様はどうするのかしら?)
お昼過ぎに迎えに来ます、との事だったけれど、ジークフリート様が我が家にやって来てお姉様が黙っているとは思えないのよね……
「不安だわ」
そんな事を呟きながら朝の支度に取りかかった。
──だけど、私のその心配は朝食の時間のお姉様の発言であっさり解決してしまった。
「え?」
「だから、うふふ、今日はね私、公爵家のマディーナ様のお茶会に参加するのよ」
「お茶会……」
お姉様は、ご機嫌だった。
それもそのはず。
──リンデン公爵家のお嬢様、マディーナ様のお茶会に呼ばれる。
これは貴族女性にとってとても栄誉な事。
「社交的デビュー前の令嬢も呼んでるらしいのにアンタの名前は招待状に無いみたい。残念ね、リラジエ」
「そ、そうですか」
「やっぱり選ばれる人間とそうでない人間っているものなのねぇ……ごめんなさいね? リラジエ。きっといつかアンタも呼ばれる時が来るわよ……えぇ、いつか!」
社交界デビュー前だし、あまり外に出たいとも思わないので悔しくは無いのだけれど、お姉様はそうは思わないらしい。
「そうか、リンデン公爵家のお茶会に……さすがレラニアだな! 楽しんで来るといい」
お父様もお父様で嬉しそうに頷いている。
そして私の事はどうでもよさそうだ。
朝食の席ではそれからも、お姉様の“私は選ばれた人間なのよ”話が延々と続いていた。
◇◇◇
「天気がよくて良かったね」
「そうですね」
約束の通り、ジークフリート様はお昼過ぎに私を迎えにやって来た。
天気も良く、絶好のお出かけ日和!
半ば強引に決められたデートだったけど、心のどこかですっぽかされるのでは? なんて思った日もあった。
けれど、ジークフリート様は本当にやって来た。
(やっぱりこの人は今までの人達とは違うわ)
私の心はそんな気持ちでいっぱいになった。
そんな今日のジークフリート様はご機嫌だ。
(もしかして、この日を楽しみにしてくれていた……? なら、嬉しい……)
そう思いたくなるくらいジークフリート様が嬉しそうだったので、何だか私も嬉しい気持ちになる。
「どこか行きたい所はある?」
「行きたい所……ですか」
そう訊ねられても、思い浮かぶ所が無いわ。
私はほとんど外に出ないもの。
「ジークフリート様は?」
「え?」
「……ジークフリート様は普段どういった所に行かれるのですか?」
──お姉様とはいつも何処でデートを?
思わずそんな言葉が出そうになって慌てて言葉を変えた。
何だか聞きたくない。
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「え?」
意外な発言だった。
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「い、いえ、そういうわけでは……」
ジークフリート様もさっきの発言に関してそれ以上何も言わないので空耳だったと思う事にした。
(か、可愛いなんて……どうせお世辞だろうし!!)
「とりあえず、馬車を降りて街中を歩いてみようか?」
「は、はい」
具体的な事は決めずに、とりあえず街をブラブラする事になり、こうして私とジークフリート様の……デ、デ、デート! が開始した。
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