王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
95 / 356

95. 悪人を退治していた妹

しおりを挟む


❈❈❈❈❈


(フルール!  その目……いったい何にワクワクしちゃっているんだよ……!)

 目を輝かせているフルールを見て俺はもうずっとハラハラしている。
 更には何か言いたそうにじっと俺の顔を見て、目が合うとニコッと無邪気に笑うフルール。
 ──可愛い、可愛いのだが!
 経験上、こういう時のフルールがどこに走っていくのか一番、分からないんだ。

「再起不能になった人たちっていったい何があってそうなってしまったの?」

 俺の腕の中でオリアンヌが訪ねてくる。
 可愛いな……
 このまま部屋から連れ出してしまいたい。
 だが、今はまだ駄目だと必死に自分に言い聞かせる。

「うーん……やっぱり気になるか?」
「とっても気になるわ」

 まあ、いつだって行動が予測不能のフルールだからな。気になるのは当然だろう。
 俺はチラッとフルールを見る。
 フルールはやる気満々の目で侯爵と向き合っている。

(そうだな。今なら話しても大丈夫……か)

 俺はオリアンヌにほんの一例だけ説明することにした。

「まだ、フルールが社交界デビューする前、社交界デビュー前の令息令嬢も参加出来るどこかの家が開催したパーティーに俺とフルールが参加していた時だった」
「……」
「俺が少し席を外している間に、フルールは令息に話しかけられていた」
「え?  それってもしかして……!」

 そこにロマンスの香りを感じたのか、オリアンヌの目が輝いた。

「俺には、その令息が頬を赤らめて必死にフルールに誘いをかけながら、自分をアピールしているように見えていた」
「口説いでいたというわけね?  一目惚れかしら?  必死ね……」

 一見、微笑ましいエピソードだが、実際は違う。

「……しかし、フルールはどこまでいってもフルールだったんだ」
「え……?」

 今でもあの光景を思い出す。
 見事な鈍感力で誘いをかわしたぞ?  と思ったら、あの無邪気な笑顔で……

「フルールは何をどう思ったのか、自分は告白の練習台なのだと思い込んでいたんだ」
「え!?  練習台?」
「そうなんだ───そんな調子では乙女の心は全く掴めませんわよ?  心が入っていませんわ! などと言って、自分に言い寄って来ていた令息たちに徹底的に告白のダメ出しをしていた」
「ええ!?  なんでーー?」

 そう叫びたくなるのすごく分かる。
 俺も心の中でそう叫んでいた……

「その時のフルールは……あの今のようなワクワクした目をしていた」
「フ、フルール様……」
「で、そうやって、フルールは声をかけて来た令息たちを次から次へと撃沈させていったんだ」
  
 その様子を間近で見ていた俺は自分の目と耳を疑った。
 うちの妹は何をしているんだ、と。

「だが、フルールが本当に凄いのはそこじゃない」
「どういうことですか?」

 俺は過去を思い出し遠い目をする。

「……実はフルールに声をかけていた奴らは、世間知らずの若いデビュー前の令嬢をターゲットにして声をかけ、口説きながら気のある振りをして騙して遊ぶという卑劣なことを裏でしているような奴らだったんだ」
「なっ……」

 オリアンヌの顔色が変わる。
 本当にろくでもないことをしていた男たちだったからな。

「しかし、フルールに見事に惨敗した彼らは、そうとう自信を失ってしまったようで、令嬢の口説き方をどうすべきか分からなくなりパニックに陥った」
「ええ……?」
「そのパニックとなった姿が、あまりにも挙動不審過ぎて捕まるきっかけとなったわけだが……」
「……」

 オリアンヌが言葉を失っている。
 その気持ち……とてもよく分かる。
 嘘みたいだが本当にあったことなんだ……

「もし、あの時のフルールが誰かの誘いに乗っていたらと思うと今でもぞっとする」
「で、でも!  撃沈させたということは、フルール様はその人たちが怪しいと気付いてわざとそうしたのでは……?」
「……」

 俺は静かに首を振る。

「そう思うだろう?  だから俺もフルールに聞いたんだよ。そうしたら───」

 ───違います!  本当に女性の口説き方が下手だと思ったから、思うがままにアドバイスをしていただけですわ!
 ───途中から楽しくなってしまって悪戯心は少し湧いてしまいましたけど……

「キラキラした目でそう言っていた……」
「フルール様……無意識に悪人を退治しているわ」
「そうなんだ……」

 ちなみにその男たちは、捕まったあと罪を償ったが、今は令嬢に声をかけれなくなったとか。

「こんな話がまだまだごろんとしているのが……俺の妹、フルールなんだ」
「……」

(だから、やっぱりフルールは最強なんだよ……)



❈❈❈❈❈



 ───お兄様とオリアンヌお姉様が、そんな過去の話をしているなんて思ってもいない私は……

 お兄様とお姉様の幸せのためにも、侯爵には大人しくお帰りいただくわ!
 そして、二度と父親面なんてさせない。
 そう決めて侯爵を睨みつけていた。

 すると、侯爵も再び私に向かって怒鳴り出す。

「いいか?  なんと主張しようとも、オリアンヌはまだセルペット侯爵家の娘であることに変わりはないのだ!」
「……」
「よって、結婚も父親である私の許可がなくては出来ん!  私は私の決めた縁談以外の相手では絶対に許可しないからな!」

 どうだとばかりに偉そうに主張する侯爵。
 その主張を聞きながら私は小さくため息を吐いた。

(最近はこうして怒鳴っている人にばかり出会っている気がするわ)

 私は皆の血圧が心配でしょうがない。
 中でもこれまでの一番は──……
 などと考えていたら侯爵は愉快そうに笑い出した。

「ははは!  それみたことか。小娘は反論なんて出来やしないじゃないか!」
「……」
「次期、公爵夫人になるのだからと調子に乗っているようだが所詮はただの小娘!  大人しくしているがいい!」

(元気だわ)

 この侯爵もこれまでの人たちの例に漏れずに元気いっぱいなので、先ほどからずっと抱いていた疑問を聞いてみることにした。

「……どうしてオリアンヌ様の相手として他の方が相手ではダメなのです?」
「なに?」
「───老い先短そうなどこぞの侯爵様はよくて他の人がダメな理由はなんですの?」
「な……」
「ああ、もしかしてお金かしら?  と、言うかお金ですわよね!?」
「くっ……黙れ!」

 侯爵は私を止めようとしたけれど、一度火がついた私の質問はその後もなかなか止まらなかった。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...