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27. 返してもらってもいいわよね?
しおりを挟む「ジョルジュ!」
「どうした?」
私は歩きながらジョルジュに声をかける。
「大臣たちの所に顔を出す前に───まずは厨房に行くわよ? 迷わず着いて来なさい!」
「……厨房?」
「いいから、黙って着いてらっしゃい!」
眉をひそめ首を傾げるジョルジュをやや強引に引っ張って行った。
(───すごいジメジメしているわね)
厨房の前に到着した。
そっと外から中を除くと陰気オーラを放った料理人たちの姿が確認出来る。
どうやら騒ぎがもう耳に入ったか、もしくはお茶の淹れ直しで心が折れていたか……
(まあ、そんなことは関係なくってよ!)
「───はいはーい、注目。皆様、ご機嫌よう!」
私はいつもの調子で手を叩きながらズカズカと厨房に侵入する。
ガバッと顔を上げた料理人たちが涙目で一斉に私を見た。
「ガーネット様っっ!?」
「何故ここに!」
「もしや、話を聞いて……?」
「も、申し訳ございません……」
「……やはり我々だけでは……ダメでした」
彼らは、ますますどんよりと落ち込み半泣き状態に陥る。
相当心が折れてボロボロの様子。
私はジロリと彼らを見つめてから叱咤する。
「謝るのは私にではないでしょう!」
「!」
「それから、ウジウジジメジメデモデモダッテ……あなたたちは厨房にキノコでも生やすつもり?」
「うっ……」
私はパンパンと手を叩く。
「はいはい、それから! 私は別にあなたたちを怒りに来たわけではないわ」
「え?」
「ち、違う……のですか?」
「違うわ」
私はキッパリと言う。
そもそも、隣国の大臣たちを怒らせたのは味以前の問題なのだから。
「今日の私はね……」
そこまで言いかけてキョロキョロと視線を動かす。
(あそこね!)
目的の場所を見つけて私はそこに向かう。
「ガーネット様!? そちらはワインの倉庫ですよ!?」
「───いいのよ! 今の私の目的はワインなんだもの」
「え?」
「料理長、中に付き合いなさい」
「え? え?」
「ジョルジュはそのまま待っていて?」
「分かった」
私はオロオロしている料理長を強引に引っ張って中に入った。
(さぁて、どこにあるかしらね……)
私はワイン倉庫の中を目的の物を探して歩く。
「…………ガ、ガーネット様。いったい何をなさるおつもりなのですか」
「今、隣国ではワインが流行っているそうなのよね」
「え?」
「だから、手土産に彼らが大喜びしそうなワインを持っていこうと思って」
「な、なるほど……」
(まだ、置いてあるはずよ。どこだったかしら……?)
「あ、あったわ!」
「え!」
私が目的のワインを見つけると料理長はそれを見てギョッとした。
「ガ、ガーネット様! それは国王陛下が大事にしている秘蔵の幻のワインです……」
「ええ、そうね」
頷きながら私はそのワインを手に取りラベルを確認する。
(うん、間違いないわ)
この年は最高にいい状態の葡萄が実り収穫時期を迎えたのだけど、収穫が終わる前にに天災が起きてほとんどの葡萄がダメになってしまった。
ギリギリ収穫出来た葡萄を使ったこの年のワインは品薄で幻のワインと呼ばれている。
「きょ、許可は得ているのですか……?」
「許可? そんなものあるわけないでしょう?」
「では……もし、これを持ち出したことが知れたら──」
私はワインを抱えて笑う。
「ホーホッホッ───いいのよ、だって、これは元々我が家の物なんだから」
「は、い?」
「貧乏王家がこんな最高級のワインを買えるはずがないでしょう?」
「……」
料理長はグッと黙り込んだ。
黙り込んだだけで否定はしない。
「“これ”は、私とエルヴィス殿下の婚約が決まった時に、欲しい欲しいと煩いから仕方なく贈呈したものなのよ」
「え……さ、さすがウェルズリー侯爵家…………」
驚く料理長に私はにっこりと笑う。
「私とエルヴィス殿下の婚約は破談になっているわけだし……」
「……」
「これは、返してもらってもいいでしょう?」
「ガーネット……様」
「ホホホホ。グダグダ言うなら、請求中の慰謝料からワイン代くらいなら引いてあげようかしらね」
私はそれだけ言って料理長を押し切ってワインを手にして倉庫から出た。
「ガーネット! それは酒か?」
「ええ、そうよ。ジョルジュ、これを持って彼らのところに行くわよ」
大人しく待っていたジョルジュに私はワインを渡して持ってもらう。
ジョルジュは目を瞬かせた。
「なるほど。厨房に用事だったのは酒を盗むためだったのか」
「ぬ───言い方! 言い方に気をつけましょうね?」
私はジロリとジョルジュを睨む。
「違うのか?」
「違うわよ! どうして私が泥棒みたいになっているのよ!」
「ガーネットならやりかねん」
「……」
やりかねん?
私は頭を抱える。
(本当にジョルジュの中での私って何者なのかしら……)
色々思うことはあるけれど、とにかく今は目の前のことに集中よ!
「────では、失礼するわね! また来るわ!」
私は料理人たちに声をかけて厨房を出た。
「ガーネット……」
「何かしら?」
廊下を歩きながらジョルジュが私に訊ねてくる。
「このワインを彼らに振舞うのか?」
「そうよ、まずはご機嫌を取らないとね。私がお酒を飲める歳になっていて良かったわ」
「……ガーネットも飲むのか?」
そう訊ねてくるジョルジュの表情は何だかとても怪訝そう。
「一緒に乾杯するなら当然でしょう?」
「そう、か」
何だかジョルジュの言葉の歯切れが悪い。
「何か問題でもあるかしら?」
「いや……」
「なに? はっきり言いなさい!」
私が足を止めて詰め寄ると、ジョルジュはボツリと言った。
「…………踏むのは俺だけにしてくれ」
「!」
「あのパーティーでのガーネットは酒を飲んでいたんだろう? つまり……」
「酔っ払った私がところ構わず人を踏みつけて回るかもと言いたいの?」
コク……と頷くジョルジュ。
私は小さな声で呟く。
「…………あなた以外踏むわけないじゃない…………」
「ん? ガーネット? 何か言ったか?」
ジョルジュが私の顔を覗き込む。
距離の近さに胸がドキッと跳ねた。
「───何でもないわ! 行くわよ!」
(落ち着くのよ、私の胸!)
私は必死にバクバク鳴っている自分の胸に言い聞かせる。
ジョルジュを今後どうやって落とすかを考えるのは、全てが終わってから。
とりあえず恋愛初心者の私はまず、恋愛のいろはを学ぶところから始めないといけない。
(確か、お兄様の部屋の本棚に恋愛小説がたくさんあったはず───)
よくよく考えると、なぜたくさんあるのかは疑問。
だけど、きっと初心者の私にとって良い参考書になってくれるはずよ。
(……よし!)
恋する乙女の顔を封印して私は再び歩き出した。
────
『───失礼いたします』
隣国の大臣たちの部屋に着いた私は、深呼吸してから扉をノックする。
誰だ! と勢いよく振り返った彼らは私の顔を見て驚いた。
『ガーネット様じゃないか!』
『本当だ!』
『どうしてここに?』
口々に驚きの声を上げる彼らに私はにっこり微笑む。
『殿下に無理言って通してもらいましたの。その、皆様にご挨拶をしたくて』
私がそう口にすると彼らは嬉しそうに笑った。
もっと機嫌が悪いかと思ったけれだ、とりあえずいい感じ。
『婚約者が交代したと聞いて本当に驚いたよ』
『お騒がせして申し訳ございません。お詫びに本日はこちらを皆様に……』
『お詫び?』
『ワインですわ』
そう言ってジョルジュの持っているワインを見せると彼らの顔がパアッと輝く。
『おや?』
『ガーネット様! そ、それは……まさか!』
『幻の……!?』
『は、初めて見た』
(ホホホホ、とても分かりやすいわね……)
更にこれが幻のワインと知った彼らはますます嬉しそうに笑った。
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