誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea

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35. ジョルジュ、男を見せる

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 あのジョルジュが先触れを出すなんて───
 普通に当たり前のことなのに、ジョルジュが相手だと思うと途端に不安になる。

「いったい何事なの……いえ、違うわね。この場合……」

 ────何を企んでいるの?  だわ。

 そんな期待と不安の中、ジョルジュは時間通りに我が家にやって来た。

「ガーネット!」
「……」

 私は目の前に現れたジョルジュを見て何度も目をパチパチパチと瞬かせた。

「えっと?  あなたはこれからどこぞの家のパーティーにでも参加する気なの?」
「何の話だ?」

 ジョルジュが不思議そうに首を捻る。
 そう。  
 なぜなら、ジョルジュの格好は正装のタキシードだった。
 しかもご丁寧に髪まできちんとセットされていて前髪を上げている。

(スッキリして顔が良く見える……)

 思わず見惚れそうになる。
 そんな場合ではないと私は自分に喝を入れ、ジョルジュに訊ねた。

「あなた、この間のパーティーよりも気合いが入っているじゃないの。別人かと思ったわ。本当にジョルジュ?」
「そうか?  こういう時は気合を入れるべし!  本にはそう書いてあったぞ?」
「本……?」

 私は眉をひそめた。

「それより、中へどうぞ」
「あ、ああ」 

 色々と気になったけれど、いつまでも玄関で立ち話をするのもおかしな話なので、ジョルジュを招き入れる。
 私は廊下を歩きながらジョルジュに訊ねた。

「それで、ここ数日間のあなたは何をやっていたわけ?」

 顔を見たら文句のひとつでも……なんて思っていたくせに、いざ顔を見ると嬉しくなって文句は全部吹き飛んだ。

(なるほど……これが惚れた弱みというやつね?)

 恋心とはなんて厄介……改めて実感しているとジョルジュは答えた。

「準備だ」
「……」

 結局、返って来たのはこの間と同じ言葉だった。
 思わずじとっとした目で見てしまう。

「全く、本当にあなたって……」

 私がブツブツそう言いながらいつもの部屋の扉を開けようとした時だった。

「ガーネット。今日は違う部屋をお願いしたいんだが」
「違う部屋?  この部屋ではダメなの?」
「ああ。出来れば違う部屋で話がしたい」

 私は首を捻る。
 いつも変だけど、今日のジョルジュはさらに輪をかけて変だと思う。

「……広い部屋?  狭い部屋?  それとも……」
「ウェルズリー家で一番いい景色の見える部屋を頼む!」
「景色……?」

 聞き返すとジョルジュは強く首を縦に振る。

「景色だ!  これは絶対に絶対に絶対に譲ってはいけない!  と本には書いてあった」
「また本?」

 とりあえず、三回も連呼されたので余程のことのようね、と思い直して我が家で一番いい景色の見える部屋へと案内した。



「凄いな。この部屋からはウェルズリー家の庭が一望出来るんだな」

 部屋へと案内するとジョルジュが窓から外を見ながらそう言った。

「そうよ。景色を見るならこの部屋が一番!  そして我が家の庭は綺麗でしょう?」
「ああ」

 ジョルジュが頷いたと同時にメイドがお茶を持ってきてくれた。
 なので、窓に張り付いているジョルジュに声をかける。

「ジョルジュ。とりあえずお茶でもしましょう?」
「あ、ああ」

 ジョルジュは一瞬、チラッと時計に視線を向けながら頷いた。


────


 ゴクッ

「それで?  ジョルジュ。いい加減に話してくれるかしら?」
「……」

 ゴクッ!

「急にパッタリ顔も見せずに、それも準備っていったい何をしていたの?」
「……」

 ゴクゴク……

「ねぇ。ジョルジュ、聞いてる?」
「……」

 ゴクゴクゴク……

「ジョル……」
「……」

(えーーーー!?  これはどういうことーー?)

 テーブルに着いてから、ジョルジュがずっと無言でお茶を飲みまくっているんだけど!?
 この勢いはまるで、ヤケ酒ならぬヤケ茶。

 こ、これはどういう状況なのかしら?

(やっぱり様子が変よ……)

 さっきからチラチラ妙に時間を気にしているし、なんならお茶を運んで来たメイドに何か言付けまでしていた。

(怪しい……いったい何を企んでいるの?)

 私はじとっとした目でジョルジュの飲みっぷりをしばらく見つめた。



「……ガーネット」
「何かしら?」

 見ているこっちがお腹タプタプになりそうなくらいのお茶を飲み干したジョルジュがようやく口を開いた。

「……リトルトン王国の王子」
「え?」
「そこの国のなんちゃら王子からの求婚……はどうなった?」

 私は、思わずジョルジュの顔を見つめる。
 まさかそんな質問がジョルジュの口から飛んでくるなんて。

「お断りの返事を書いて送ったところね。そこからまだ次の連絡は来ていないから……どうなるかしらね?」
「……」
「出来ることならあまり揉めたくないのだけど」

 私がそう口にした時、何だか玄関が騒がしくなった。

「ん?  誰かお客様かしら?」
「!」

 ジョルジュがハッとして勢いよく椅子から立ち上がる。

「ちょっとジョルジュ、大丈夫?  今日のあなた……かなり挙動不審よ?」
「ガーネット!」
「え?」

 ギュッ……
 立ち上がったジョルジュは私の前まで回り込んで来たと思ったら突然、私の両手を握る。

(ひ、ひぇ!?)

「な、なな何しているのよ!?」

 突然の行動に私の乙女心が顔を出す。
 そんなドキドキしている私に向かってジョルジュは真剣な顔で口を開く。

「……ガーネット。俺は……あれから考えた」
「考えた?」
「考えて考えて考えて考えて考えすぎたら熱が出た」
「え!」

 私は絶句する。

「一日寝込んで……また考えた」
「えっと……?  考えてばっかりね……?  それで、いったい何をそんなに寝込むほど考えたわけ?」
「ガーネットだ!」
「!?」

 ジョルジュがキッパリと言い切ったので、私の胸がドキッと跳ねた。

「……ガーネットは俺の初めての……友人だ!」
「え、ええ……そう、ね」

 私の胸がキュッとなる。

(今は───出来ることなら違う存在になりたいと思っているけれど)

「俺は、友人ならずっとガーネットと一緒にいられる……そう思っていた」
「ずっと?」
「……だが、ガーネットがリトルトン王国に行くかもしれないと聞いた時……」

 ジョルジュはそこで一旦言葉を切った。
 そして下を向くと息を吸って吸って吸ってから吐く。

(ジョルジュ……吸いすぎ!) 

 そのおかしな様子をハラハラしながら見つめていたらジョルジュは顔を上げて言った。

「“友人”では、ガーネットとずっと一緒にはいられないのだと分かった!」
「ジョルジュ……」
「だから────」

 ジョルジュがそこまで言った時、部屋の扉がノックされる。

(誰かしら?)

 先程来たと思われるお客様の件かしら?   
 そう思った私が立ち上がろうとしたら、ジョルジュが私から手を離して扉へと向かう。

「え?  ジョルジュ?」

 ジョルジュは扉を開けて外の人と何か話している。
 いったい何をしているの?
 そう思ってジョルジュを見つめていたら、話を終えたジョルジュがこっちに振り返る。

(……ん?)

 振り返ったジョルジュが何かを手に持っている。

「ねえ、ジョルジュ、それ───」
「ガーネット。友人のままではずっと一緒にはいられない。そんなの……俺は嫌だ」
「……」
「───だから、ガーネット!  これを受け取ってくれ!」
「!」

 バッと私の目の前にジョルジュが何かを差し出す。
 それは……

「え?  …………ば、薔薇の、花束……?」
「108本ある!」
「ひゃ……く!?」

 そう言って、ジョルジュはとっても重そうな花束を私の目の前に差し出した。

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