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98. 新たな家族
しおりを挟むそれから───
セアラさんのお腹が大きくなるにつれて、ジョシュアは毎日お腹に話しかけるようになっていった。
「あうあ!」
臨月を迎えて出産予定日が迫っていたその日もジョシュアはニパッと笑ってセアラさんのお腹の中の赤ちゃんに向かって元気に話しかけていた。
「あうあ! あうあ!」
「ふふ、ジョシュアは今日も元気ね?」
「あうあ!」
セアラさんがクスクス笑っていると、本日も彼女をがっちり保護しているジョエルが言った。
「──赤ちゃんにはいっぱい話しかけるといいと聞いたです──だそうだ」
「それでなの? ふふ、ジョシュア。ありがとう」
「あうあ!」
(ホホホ! なんて微笑ましい光景なのかしら?)
そんな親子のほのぼのした光景に和んでいると、私の横にいたジョルジュがポツリと言った。
「懐かしいな。ジョシュアの時はガーネットがずっと話しかけては常に喧嘩を売っていたな」
「ジョルジュ! ……言い方!」
私はジョルジュをジロリと睨みつける。
「なんだったか……? たとえ、ジョエルに似てしまって表情筋が死んでいてもこの私の手にかかれば、たちまち表情筋は生き返って陽気な子になーる! ……だったか?」
「───ジョルジュ!!」
「あんなに威勢よく喧嘩を売ったのにな…………肝心のジョシュアは……」
ジョルジュの目線がジョシュアへと向かう。
「あうあ! あうあ! あうあ!」
ニパッ! ニパッ! ニパッ!
ジョシュアは身振り手振りをつけてキャッキャと笑っていた。
「くっ……」
私が何するでもなく、ジョルジュとジョエルの血を引いてるとは思えないほど表情筋がゆっるゆるで生まれてきたジョシュア。
私は闘う前に敗北したわけだけど。
果たして次の子はどうなるやら……
私はじっとセアラさんのお腹を見つめる。
その時だった。
キャッキャと笑ってセアラさんのお腹を撫でていたジョシュアの身体がピクッと反応した。
「あうあ!」
「どうかしたの? ジョシュア」
「あうあ! あうあ!」
「───なに!?」
キョトンとするセアラさんとは対照的にジョエルが勢いよくソファから立ち上がる。
「セアラ! ジョシュアが言うには……赤ちゃんが、そろそろこんにちはすると言っています───だ、そうだ!」
「え!? こんにちは?」
「あうあ!」
ニパッ!
「そうだ! 産まれるぞ!」
「あうあ!」
「え、え? ジョエル様? ジョシュア!?」
───ジョシュアの言う通り、
その後、本当に産気づいたセアラさんは、元気な元気な“女の子”の赤ちゃんを産んだ。
グビッ、グビッ……
「オ~ホッホッホ! ついについに二人目の孫の誕生よ~!」
「ガーネット! 追加の酒だ!」
「ホホホ。あら、ジョルジュ。気が利くじゃないの」
グビッ
私は渡されたお酒のグラスを手に取るとこれもグビッと一気に飲み干した。
「美味しいわね~」
二人目の孫が誕生した夜、私はとても気持ちよく酒を煽っていた。
「女の子よ、女の子! セアラさんに似た天使のような子!」
「……」
ジョルジュがじっと私の顔を見つめる。
「何かしら?」
「いや、案外……ガーネット似という可能性も……」
「まぁ! 私に? ホッホッホッ! それは最高の人生になるわよ!」
グビッ!
私はもう一杯グイッとお酒を飲み干してから、ジョルジュに笑いかけた。
「……さぁて、ジョルジュ。そろそろ寝ましょうか?」
「なに!?」
ジョルジュの目がクワッと大きく見開く。
私は首を傾げた。
「なによ?」
「い、いや……いつもより全然飲んでいない……ぞ?」
「ホホホ! これから新たなベビーちゃんとの闘いの日々が待っているのよ? 酔っ払って二日酔いなどしていられないわ!」
「……」
じっとジョルジュが私を見つめる。
「そしてこの美貌も保って、ベビーちゃんの自慢の美しいおばあさまになるのよ! そのためにも夜更かしは禁止なのよ!」
「…………ガーネット」
「?」
(あら? 珍しいわ……?)
ジョルジュはそっと私の手を取ると小さく笑った。
「本当に君は……俺の思う通りには転がってくれないな」
「転がる? 何の話かしら?」
「……いや? やっぱり君は最高だ」
「──っ!?」
そう言って、もう一度笑ったジョルジュがそっと手の甲に口付けを落とす。
理由はよく分からなかったけど、褒められて気分が良かったので高らかに笑っておいた。
────そんなギルモア家、待望の女の子ベビーは、“アイラ”と名付けられた。
「あうあ~!」
トタトタトタトタ……バキッ! ビタンッ!
「あうあ!」
「ひっ! 転んだ!? ちょ……ちょっと、ジョシュア!?」
アイラが誕生してからずっと誰よりもジョシュアが一番、浮かれている。
落ち着きなく部屋を走り回っては色んな物に激突を繰り返して転んでばかり。
「あうあ! あうあ!」
床に転がったままキョロキョロするジョシュア。
「あなた、少し、落ち着きなさいな。隣の部屋にいるアイラが起きちゃうわよ?」
「あうあ!」
「……」
ニパッ!
これは絶対に私の話を聞いていない顔。
「……ジョシュア。あなたはついに待望の“お兄ちゃん”となったわ。気分はどうかしら?」
「あうあ!」
ニパッと嬉しそうに笑うジョシュア。
「そう……ジョシュア。相変わらずあなたって子が何を言っているのか私にはさっぱり不明よ?」
「あうあ!」
「───おばあさま、大丈夫です。ボクは困ってません! だそうだ」
私の隣にいるジョルジュが通訳してくれる。
「なんでよ! このままじゃ、いつか困るでしょ」
「あうあ!」
「その時はその時です! ふむ、ジョシュアはやはり強者だな」
何故か感心するジョルジュ。
「強者、以前の問題よ……」
「あうあ!」
ニパッ!
「全く……もう! 腹立つくらい可愛い笑顔!」
「あうあ!」
ニパッ!
「ん? そんなことより、おばあさま。アイラは天使です───と言ってるぞ?」
「天使?」
「あうあ!」
気のせいかしら?
ジョシュアの目がキラキラしている。
「あうあ!」
「ふむ。おかあさまのように可愛くて、おばあさまのように気高く美しい天使です! だそうだ!
なるほど……いい所取りだな。つまり、アイラは最強じゃないか!」
「あうあ!」
「そうです、まさにボクの理想です───か。なるほど、ならば、ジョシュアは兄としてしっかりお世話してどんな時でもアイラのことを守るんだぞ?」
「あうあ!」
「特に悪い男には気をつけろ! 絶対に変な虫は寄せ付けてはいけない」
「あうあ!」
(何年後の心配をしているのよっ!)
しかし、ジョルジュは冗談などではなく大真面目な顔で言い聞かせている。
ニパッ!
そして、ジョシュアも最高の笑顔で頷き返していた。
(でも……)
ジョエル、ジョシュアと男の子ばかりだったギルモア家。
そこに誕生した初めての女の子。
果てしてどんな子に育つのかしら……とは思う。
ジョルジュ、私、ジョエル、セアラさん、ジョシュア……
外見はともかく、
性格はいったい誰に似るのかしら───……
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