【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第17話

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  (どうしてお姉様がスプラウクト侯爵家のアンネマリー様と手紙のやり取りをしているの?)

  二人は手紙のやり取りをするほどの仲だった?
  少なくとも私の知っている限りそんな事は無かったわ。

  ……これは偶然なの?

「お嬢様? どうかされましたか?」
「え、いいえ。何でもないわ。はい、これで全部かしら?」
「はい、本当にありがとうございました」
「気にしないで。今度からは気をつけてね」

  私もおっちょこちょいなので他人事とは思えず、拾い集めた手紙の束を渡した。
  
  それよりもあの手紙が気になってしょうがない。

  お姉様と、私がエリオス殿下の恋人になった事をよく思わない令嬢の組み合わせなんて……どう考えてもろくな事にならない。

「……単純に私の気にしすぎなら良いのだけど……」

  こういう時の嫌な予感って当たりやすいのよね……
  私はそんな事を考えながら部屋に戻った。



****



  それから更に数日後───


「初めまして、アンネマリー・スプラウクトと申します。今日はマリアン様にお招きいただきましたの」
「……セシリナ・バルトークと申します。こちらこそよろしくお願いいたします……」


  今、目の前にいる令嬢……アンネマリー様。
  エリオス殿下に気を付けるようにと忠告を受けていた令嬢。
  こんなに早く対面する事になるなんて。


  今朝、珍しくお姉様に声をかけられた。
  最近のお姉様は、私に対して嫌味を言うよりも無視をする事の方が多かったので声をかけられた時から嫌な予感しかしなかった。

「今日、をお茶に招待しているの。せっかくだからセシリナあなたも一緒にどうかしら?」
「……!」

  そう言ってお姉様は笑顔を浮かべたけれど、それは完全に何かを企んでいる笑顔としか言いようがなく……
  
  (間違いなく訪ねて来るのはアンネマリー様だわ)

   そして二人の目的はきっと私……

「ね?  会ってくれるわよね?」
「ですが私は……」
「さっき朝食の席で今日は予定が無いと言っていたわよね?  見たところ具合だって悪くなさそうだし、ね?  相手も妹さんもどうぞと言ってくれてるのよ」

  お姉様は獲物を絶対に逃さない!  という目をして言った。

「……分かり、ました」
「ふふ、くれぐれも失礼の無いようにして頂戴ね?」


  ──そうして、私の予想は外れること無く……やって来たのはアンネマリー様だった。


「会えて嬉しいわ、セシリナ様……あ、名前でお呼びしても?」
「……はい」
「ありがとう。私の事もぜひ、アンネマリーと呼んでくださいね?」

  そう言ってニコニコと笑顔を浮かべるアンネマリー様は、サラサラの銀の髪が美しい一見すると優しそうな令嬢だ。

  (だけど、エリオス殿下が忠告するくらいだもの。今、見せている姿が本当だとは限らない)

  私は警戒した。

「噂では顔が見えないくらい前髪が長いと聞いていたのだけれど、切られたのね?」
「え?  はい、切りました」
「お顔をしっかり見ればさすが姉妹。似ているのね!  美人姉妹で羨ましいわ!」
「ア……アンネマリー様ったら、そんなセシリナに気を使わなくても……」

  アンネマリー様の言葉にお姉様の顔が引き攣った。
  私と似ているという言葉はお姉様にとって一番聞きたくない言葉らしい。

「それで、もう一つの噂となっていたいつも肌身離さず着けている手袋と言うのが……それね?」

  アンネマリー様の視線が私の手へと移る。

「まぁ、可愛らしい手袋!  しかも随分と質の良い物をお持ちなのね?」
「ありがとうございます……」

  だってこれは、エリオス殿下に贈られた手袋モノだから……
  さすが、高位貴族の令嬢。見ただけで質の善し悪しが分かるらしい。

「もうちょっとよく見せてくださらない?  その刺繍が素敵だわ。もっと間近で見たいの」
「え?」

  いきなり何を言って……?  
  と、思う間もなく私の手袋をアンネマリー様はするりと脱がしてしまった。

《あら?  なぁんだ。手袋脱いでも普通の手だわ》

「……っ!」

  手袋を外した時にアンネマリー様の手が私に直接触れたようで、アンネマリー様の心の声が聞こえて来る。

《てっきり手袋の下の素手には傷があるか見るに堪えないボロボロの肌でもしているから隠しているのだと思っていたのに》
《噂は単なる噂に過ぎなかったのねぇ。つまらないわ》
《だったら何故、手袋なんてしているのかしら?》

  手袋の噂はそんな風に周囲に受け取られていたのだと初めて知った。

《やっぱり薄気味悪いわ……エリオス様も何でこんな子を?》

  ドキッ
  エリオス殿下の名前が聞こえたので大きく胸が跳ねた。

《それよりも、手袋コレ。明らかにエリオス様の好みだわ》
《大して裕福でも無い伯爵令嬢の分際でこんな不相応な物を持つなんて……まさかこれはエリオス様からの贈り物なのでは……?》

  あぁ、やっぱりアンネマリー様の心の中は……
  どんどん流れてくる心の声に私の気持ちも暗くなる。

「ねぇねぇ、セシリナ様。この手袋ってもしかしてエリオス様に贈られた物……だったりするのかしら?」

  アンネマリー様は心の声とうらはらに笑顔と弾んだ声で尋ねてくる。

「……そうですが」
「まぁ、やっぱり!  あの王家御用達のお店の物でしょう?  ふふ。以前、似ているわと思ったの」

《やっぱりそうなのね……生意気だわ。マリアン様に聞いていた通り調子に乗っているわね》

「あらあら。だけど、そうなるとエリオス様ったらちょっとデリカシーに欠けるわね?」

  アンネマリー様が目を伏せながら言った。

「……どういう意味ですか?」
「だって、セシリナ様はエリオス様の恋人なのでしょう?  恋人への贈り物なのに私にも贈った物と同じ店の物を贈っているんですもの」

《こんな子がエリオス様の特別なはずが無いわ》
《やっぱり彼には私の方が相応しい》

「あらあら、そうだったの?  セシリナったら可哀想ね」

  お姉様が哀れみの目を向けて来た。
  だけど心を読まなくても、内心では笑っているのが嫌でも分かる。

「セシリナったら、それで本当に殿下に愛されているの?  何だか私は心配だわ」
「まぁ、マリアン様ったらそんな心配をして……妹想いなのね!」

  お姉様とアンネマリー様はふふふと笑い合っている。

「……」

  ──いったい私は何の茶番を見せられているのかしら。

  二人で結託して私とエリオス殿下を引き離そうとしているのは分かったわ。
  特にアンネマリー様の殿下との親しげアピールが凄い。
 
「……すみません、そろそろ手袋をー……」

  返して下さいと、私が言いかけた時、

「……熱っ!  きゃっ!」
「!!」
  
  ガシャンッ

  突然、アンネマリー様が手を滑らせ飲んでいたカップを落として、紅茶をこぼしてしまった。

  ───私の手袋の上に。


「あぁ……紅茶が!  こぼしてしまったわ」
「まぁ!  アンネマリー様、大丈夫ですか?」

  お姉様が慌ててアンネマリー様の手の無事を確かめる。

「えぇ、私は大丈夫……けれど、セシリナ様の手袋が……」
「そんな物よりも、アンネマリー様の手の方が大事ですわ!  ねぇ、セシリナ?」
「……」

  私はあまりの出来事に呆然としていて口が開けない。
  お姉様は冷たく私を一瞥した後に言った。

「なぁに、その顔?  いいから使用人を呼んでさっさと拭くものとか冷やす物でも持ってきたらどうなの?  気の利かない子ね」
「マリアン様ったら、そんな事を言わないで頂戴?  セシリナ様、本当にごめんなさい……私の不注意であなたの大事な手袋をダメにしてしまったわ」

  アンネマリー様は私の手にそっと紅茶まみれになった手袋を返して来た。

「わざとでは無いの。本当にごめんなさい」
「……」

《ふふ、ざまぁみなさい》
《これでもう使えなくなったでしょう》
《エリオス様から贈り物を貰って調子に乗っている罰よ》

  アンネマリー様の心の声がわざとだと言っている。

  お姉様にもエリオス殿下を狙う他の令嬢達にも、内心で私の事をバカにされるのは構わないと思っていた。
  そんな事はもう慣れっこだからいくらだって耐えられる。
  そう思っていた。

  (だけど、これは……これは酷い……)

  あの日、一生懸命私に似合いそうな手袋を選んでくれたエリオス殿下の顔が浮かんだ。
  こんな事になってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

  私はギュッと手袋を握り締める。
  ダメ……油断すると涙がこぼれそう。

「アンネマリー様、お姉様……」
「何かしら?」
「何よ」

  二人の顔はしてやったりという顔。
  これは最初から計画されていた事なのだろう。

「せめて、少しでも汚れが落ちないか試したいので……今日はもうこれで退室させていただいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろんよ、本当にごめんなさい……あなたの大切な物だったのに」

  お姉様も好きにしろと言った。

「すみません、ありがとうございます。私はこれで失礼します。アンネマリー様……どうぞごゆっくりお過ごしください」
「えぇ、ごめんなさいね」

  アンネマリー様は申し訳なさそうに微笑んだ。

  ──心の声を聞いていなければ本当に申し訳ないと思っているような声と表情だった。

  (何も知らなければ騙されていたかも……)



  私はまた泣きそうになる気持ちをどうにか抑えて部屋を出た。


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