【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!

Rohdea

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第18話

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  汚れてしまった手袋を手に私はトボトボと廊下を歩く。

  (この染みって落ちるのかな?)

  だけど染みを抜く方法がよく分からない……
  普段の手洗いとは違う方法をとらなくてはいけないのは分かるのだけど。

  (こんな時に頼れる人がいないのって悲しい)

  人と積極的に関わりたくなくて家族とも使用人とも距離を置いてきたツケがこんな形で回ってきたのかもしれない。
  そのせいで水場まで辿り着いたもののその場に立ち尽くすはめになった。

「悩んでいてもしょうがないわ。とにかく……まずは」

  それでもどうにかしようと手袋に水をかけて洗い落とそうとした時、突然後ろから声をかけられた。

「あぁぁ、お嬢様!  こすっては駄目です!!」

   その声に驚いて慌てて振り返ると、そこに居たのはこの間、手紙の束を落としていた使用人……確か名前はルナ……だった。

「紅茶をこぼしてしまったのですか?」
「え、えぇ」
「そうでしたか。ですがお嬢様、何故ご自分で処理しようとなさってるんですか?  こういう時のために私達がいるのに」

  そう言ってルナは、貸してくださいと言って私の手から手袋を取り、慣れた手つきで染み抜きを始めた。
  うわ、さすが生地が高級ですね~慎重にやらないと……などと言いながら。
  そんなルナの行動にちょっと驚いた。
  この屋敷の殆どの使用人は私には話しかけないのに。

「あ、あの……ありがとう」
「なぜお礼を?  ですからこれが私の仕事なんです」
「それはその通りだけど、ルナは私が気味悪くないの?」
「……?  お嬢様は何を言っているのでしょうか?」

  ルナは不思議そうに首を傾げた。
  私は私で何故そんな反応になるのかちょっと分からない。

「お嬢様は、使用人でしかない私が困っていた時、放っておいても構わないのに拾い集めるのを手伝ってくれましたよね?  そんな方をなぜ気味が悪いと思わなくてはいけないのでしょう?」
「……」
「確かにここに雇われる前もお嬢様の噂は耳にしましたけど噂は噂ですよね。お嬢様は噂されるような気味が悪い行動なんてとっていないと私は思っています」
「ルナ……」

  (あぁ……私、勝手に自分は周りの人みんなに気味が悪いと思われてるって思い込んで、自分から壁を作っていた)
 
  今更ながらそんな事に気付かされる。
  全ての人がそうだとは限らない。
  ちゃんと“私”を見てくれる人はいるのに!

  (そうよ、エリオス殿下だって……あの人は初めからそうだった)

  なんてバカな私……勝手に決めつけてしまっていた。


「……って、はっ!  しまった!  私、お嬢様を呼びにいこうと思い探していたのでした!」

  ルナが染み抜きをしながら突然、思い出したかのように言った。

「?  私を呼びに?」
「そうですよ!  殿下が……エリオス殿下がお見えなのです!」
「……え?」

  今、まさに頭の中に思い浮かべた人の来訪を告げられた。








  手袋をルナに預け私は急いで殿下が待っているという応接間に向かう。

  (どうして殿下が?)

  特に今日は訪問の予定は聞いていない。


  コンコン

「はい、どうぞ」

  扉をノックすると聞き覚えのある殿下の声がした。
  その声を聞くまでは殿下の訪問は何かの間違いなのでは?  と思ったけれどそんな事は無かったようだ。

「エリオス殿下……!」
「あぁ、セシリナ。急に訪ねてごめんね」
「……」

  殿下の顔を見るとなぜだかホッとした。
  と、同時に申し訳ない気持ちに襲われる。

  (そうよ、私はせっかく殿下が贈ってくれた手袋を……)

「セシリナ?」

  私は殿下の顔を直視出来ずその場で俯き固まる。
  そんな俯いてしまった私の顔を、近付いてきた殿下がそっと上を向かせた。

「どうかした?  何かあった?」

《セシリナの様子が変だ……》
《目が……少し赤い。まさか、泣いたのか?》
《まさか……マリアン嬢に何かされたのか!?》

  いつもの真っ直ぐな殿下の心の声が流れてくる。
  さっきまで、アンネマリー様の歪んだ心の声を聞いていたせいか殿下の心の声は本当に安心する。

  安心したら、ポロッと涙がこぼれた。

「……セシリナ!?」

《涙が!》
《どうしたんだ!?  え?  僕が泣かせた……!?》

「あ、違うんです……その、さっきまでちょっと嫌な事が……あって、それで殿下の顔を見たらホッとして、それで……勝手に」

  自分でも何を言っているのかと思うくらい意味不明な言葉が次から次へと口から出ていく。

「嫌な事?」

《僕が泣かせたわけじゃなかった……でも嫌な事って何だ?》
《やはりマリアン嬢か!》
《セシリナが泣くなんてよっぽどの事があったに違いない》
《泣かせたくなんか無かったのに》

「何があったの?  僕には話せない?」
「……」

《無理に聞き出したいわけではないけど》
《でも、こんな状態のセシリナをこのまま放っては置けない》

「セシリナ」
「……っ!?」

  殿下が私の涙をそっと拭いながら、涙の跡にそっとキスを落とす。

  (び、び、びっくりした!)

  あまりの衝撃に私の涙も引っ込む。

《セシリナ……こんな事しか出来なくてごめん》
《と言うか慰める方法が分からない……》

  エリオス殿下は私を優しく抱き締めながら、顔中にたくさんのキスの雨を降らせた。

  (殿下の泣いている人を慰める方法って、キスをする事なの!?)

  どんな教育方針なの!?  と驚いた事で私は悲しい気持ちなんてどこへやら……逆に恥ずかしさでいっぱいになってしまう。

  (でも……嬉しい)

  そして、同時にエリオス殿下の温もりが私にとってとても心地良いのだと気付いてしまった。

「エリオス殿下……もっとギュッてしてください……」
「えっ!?」

《セ、セ、セシリナ!?  何を!?》

「……殿下の温もりが……嫌な気持ちを吹き飛ばしてくれるんです……だから、お願い出来ませんか……?」
「セシリナ……!」

《ちょっ…………ずるいぞ!》
《何だ……その殺し文句は!》
《その潤んだ目!  僕の理性を試しているのか!?》

  エリオス殿下は心の声では文句を言いながらもさっきよりも強い力で私を抱き締めてくれた。

  ──あぁ、この温もりだわ。安心する。

  (不思議ね……人に触れる事も触れられる事もずっと嫌だと思っていたはずなのに)

  なのにエリオス殿下は私にとって特別なのか嫌だと思った事が無い。


  ──特別……あぁ、そっか。私……エリオス殿下の事が好きなんだ。



  ストンとそんな感情が胸の中に落ちてくる。
  気付かなくていい事に気付いてしまった。

  (でも、ダメ。私はあくまでも恋人のフリをしているだけ……私達はいつか終わりを迎える関係)

  ……この気持ちは私だけの胸にしまってお役目を全うしなくちゃ。
  初めて好きになった人の役に立てるのならそれだけで嬉しい。そう思おう。

《セシリナ……柔らかくて気持ちいいな》
《あぁ、このままずっと抱き締めていたいなぁ……》

「っっ!」

  なのに、恋心を自覚したばかりの私には刺激の強い殿下の欲望が流れ込んで来て大いに戸惑った。








「え!  アンネマリー嬢が、今ここに来ているの?」
「はい。お姉様と親しくなったようなのです」

  私の気持ちが落ち着いた頃、ようやく私はさっきあった出来事を殿下に告げた。

「動くのが早いな……アンネマリー嬢とマリアン嬢どちらかが既に接触をはかっていたのか……」
「……それで、私……せっかく殿下から頂いた手袋を……駄目にしてしまって」
「それで泣いてたの?」

《あぁ、本当だ。セシリナの手には片方しか手袋がない》
《しかし、やり方が陰険だな》
《自分の過失を装う事で決して嫌がらせではない偶然だ……こっちがこの件を問い詰めようとしてもそう主張するつもりなんだろう》

  殿下の考えている通りだと思う。
  だから、アンネマリー様は心の中はともかく、ずっと口にする言葉は悪意など感じないように装って喋っていた。手袋も汚すだけに留めて。
  それも全て計算の上なのだろう。
  
  ふと、殿下が私の頭を優しく撫でた。

「僕の事は気にしなくても良かったのに」
「ですが……」

《優しいな》
《汚れてもう使えなくなったんだから新しいのが欲しいわ、なんて要求してもいいくらいなのに》
《大事に大事に使おうと思ってくれていたんだな》

「もしかして、気に入ってくれてた?」
「はい……とっても」
  
  私ははにかみながら答える。
  だって、エリオス殿下あなたに贈られたものだから……
 
《うわぁ……何だそれ……嬉しいな》
《代わりに新しいのを贈りたいと思ったけど一つじゃなく、もっともっと贈りたいな》
《いっそ毎日、日替わり制にしたらどうだろう?》

「!?」

  冗談だとは思うけれど、さすがにそれは多すぎる!

「あの手袋は今、染み抜きしてもらっているんだよね?」
「はい」
「……綺麗になるといいな」

  殿下のその小さな呟きに私も頷く。

「セシリナ、そんな顔しないで?  そしてよければまた僕に手袋を贈らせてくれないかな?」
「エリオス殿下……」

《さすがに今、365個の手袋を贈りたいと言ったら引かれるだろう》
《最初に贈る時も遠慮していたし》
《そうだ!  何かそれっぽい理由をつけては度々贈ってさり気なく徐々に増やしていこう!》

「……!?」

  ……殿下は本気で日替わり制を目指しそうな勢いだった。




「……コホンッ……そ、それでエリオス殿下は今日は何故、急な訪問を?」

  殿下の心の中の手袋送り付け計画にうっかり気を取られたそうになったけれど、今日の訪問には何か目的があったはずと思い直し尋ねてみる。

「あ、しまった……そうだった、そうだった」

  エリオス殿下もすっかり本来の訪問の目的を忘れかけていたのか、思い出したかのように笑って言った。

「実はセシリナに会いたいって言ってる人がいてね?  それで会って貰えないかなと思って来たんだけど」
「私に……?  どなたでしょうか?  私も知っている方ですか?」

  首を傾げる。
  私に会いたいなんて物珍しい……

「兄上」
「……はい?」

  私はもう一度聞き返す。

「うん、だから兄上だよ。兄上がセシリナに会いたいと言ってるんだ」
「エリオス殿下の兄上……それは、つまり……王太子殿下……?」



  ──王太子殿下からの呼び出しだった。


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