30 / 39
第27話
しおりを挟む「……婚約? セシリナと……ですか!?」
「あぁ、そうだ。バルトーク伯爵、何か問題でもあるだろうか?」
翌日、改めて我が家を訪問したエリオス殿下は、お父様に私との婚約を願い出た。
「ほ、ほ、本当にエリオス殿下は……セシリナを……? マ、マリアンではなく……セシリナ……」
「……」
お姉様の名前がチラリと出てくるあたり、まだまだお父様はお姉様が可愛いのだろう。
エリオス殿下は大きく、はぁ……と、ため息をつきながら言った。
「……何故そこでマリアン嬢の名前が出てくるのか理解に苦しむが、僕が望んでいるのはセシリナただ一人だ」
「…………そう、ですか……」
お父様がうろたえている。
願ってもいなかった王家との縁!
本当なら手放しでそう喜びたい所のはず。
(結婚相手を見つけろとあの日のお茶会に送り出していたわけだし)
だけど、お父様の中で本当に私でいいのか? なんて思いがあるせいでこんなおかしな顔をしてためらっているのだと思う。
婚約を認めた後に私が何かやらかして、王家の不興を買わないか心配しているのでしょうけどそんなのもう遅い。
お父様は分かっていないみたいだけれど、我が家はとっくに不興を買っている。
(それでもエリオス殿下は私を選んでくれたのよ)
「へ、陛下達は……」
「父上達の許可は既に降りている。あとは貴方だけだ」
「……な!」
エリオス殿下は、だからさっさと認めろと圧をかけている。
(心を読まなくても殿下の考えている事が分かるようになって来た気がするわ)
昨日、私に告白と求婚をしたエリオス殿下は王宮に戻るなり陛下達に私との婚約の許可をもぎ取った上で、本日我が家にやって来た。
……不思議なのだけど、許可ってそんな早く降りるものなのかしら?
エリオス殿下は王子様なのに!
私は一応、エリオス殿下の婚約者探しと言われたお茶会に、ギリギリながらも呼ばれる身分ではあったけれど平凡な伯爵令嬢。
王家にとってのメリットは全く無い。
(お姉様のしてきた事を考えれば反対されてもおかしくないはずよ……)
私がチラリと横目でエリオス殿下を盗み見ると、何故か目が合った。
「!!」
甘く蕩けそうな顔で微笑まれたので心臓が飛び出しそうになる。
(その微笑みは、きょ、凶器だわ……!)
《セシリナとの婚約を変に時間を置く事で邪魔が入ったら困るからな》
《父上と母上には事前に根回ししておいたからスムーズだった》
《あの噂の恋人の子だろう? 何て言われたけどどこまで知っていたんだろう》
殿下が甘い笑顔のままそっと私を抱き寄せてきたので、心の声が流れ込んで来た。
《セシリナの事はダメだと言われても絶対に諦めるつもりは無かったけど安心した》
……根回しって聞こえたわ。いつのまにそんな事をしていたのかしら……
やっぱりエリオス殿下は侮れない。
(絶対に諦めるつもりは無かった……なんて)
そんな言葉が嬉しい。
私は本当にエリオス殿下に想われ大切にされているのだと実感した。
そんな事を考えたからか、私の顔はますます赤くなる。
《ん? セシリナの顔が赤い》
《赤くなって照れるセシリナは可愛い》
《いや。セシリナは何をしていても可愛いけど》
《でも一番好きなのは笑顔だな》
《初めて笑顔を見た時はあまりの可愛さに心臓が止まるかと思ったからな……》
「~~!」
赤裸々に流れてくる殿下の声に私の顔はさらに熱くなる。
「セシリナ? どうかした?」
《うーん? さっきより顔が赤くなった気がする。身体もプルプル震えてるし》
《何かあったのかな?》
「……な、何でもないです……!」
「そう?」
エリオス殿下は不思議そうに首を傾げていた。
この時私は思った。
この無自覚王子の心の声を早急にどうにかしないと、そのうち私は恥ずか死するのではないか、と。
「……無事に許可を貰えて良かったね」
「はい!」
部屋に戻る為に並んで廊下を歩いているとエリオス殿下が嬉しそうに言った。
お父様は何だか物凄く変な顔をしながらも婚約の許可をくれた。
一瞬、身体が触れた時に《目の前でイチャイチャしやがって》って聞こえた気がしたけどあれは一体……
(イチャイチャなんてしていたかしら? 殿下の心の声の愛情はすごいけれど口に出している言葉は普通よね??)
不思議だなと思った。
「セシリナ」
「はい?」
「これで君はもう僕の婚約者だ」
《嫌だと言ってももう僕はセシリナを手放す気は無い》
《逃がしてはあげられない》
エリオス殿下が私の頬に手を添えて私の目を見つめながら言った。
「そうですね」
(私だって逃げる気なんて無いわ!)
「僕が正式に婚約した事は耳に入るだろう。いや、もう入ってるかもしれない」
「……」
《また、セシリナを傷付けようとしてくる可能性は高い》
《婚約にも文句をつけてくるだろうな》
誰が、とは言わない。
お姉様と並んで、しかもそのお姉様と手を組んで面倒な人……アンネマリー様。
あの日、手袋を汚された時は大きなショックを受けて泣いてしまったけれど……もう、泣かない。
あの時の手袋は本当に綺麗になっていて、今日の私の手に装着されている。
(本当にルナに感謝だわ)
「……私、負けません」
だって、もう仮の恋人のお仕事では無い。
私はエリオス殿下の“本当の恋人”で婚約者となったのだから。
「……セシリナ、ありがとう」
《そんな君が好きだよ》
エリオス殿下が優しく抱き締めてくれた。
それだけで頑張れる気がするので恋心とは恐ろしい。
「だって、大好きな殿下と私の未来の為ですから」
私が微笑んでそう口にすると殿下の顔が赤くなった。
《あぁぁ、もう!》
《その笑顔とそのセリフは反則だろ?》
《我慢出来ない!》
──何が? と思う間もなくエリオス殿下の唇が私の唇に重なる。
(っ!? ここ、屋敷の中! しかも廊下よ!?)
いつ誰が通るか分からないのに……!
《あぁ……こんな所で何するの! とか思われていそうだ》
《分かっているけど、セシリナのあんな笑顔を見たら……止まれない》
「……セシリナ?」
「……」
そっと唇を離した殿下の声が不安そう。
私が怒っているのかを気にしているみたいだ。
「こんな所では……恥ずかしいです」
「ゔっ……だよね、ごめん」
《やっぱりか……》
「で、ですが! ふ、二人きりの時なら……いくらしても構いませんから……!」
私が顔を赤くして小さな声で叫ぶ。
「う、うん。分かった……二人きりの時……うん」
《……それはそれで、別の意味で危険だ》
《だけど……》
「エリオス殿下?」
「セシリナが可愛い……可愛すぎて本当に困るよ」
「な、何を言っているんですか?」
「本当の事だよ。さぁ、急いで部屋に戻ろう! セシリナ」
「へ? ちょっ……エリオス殿下!?」
そう言った殿下の足が少し早足になった気がする。
(こ、これはまさか……早く二人きりになりたいという意味では……? えぇ!?)
──思った通り部屋に戻ってから、たくさん愛でられた。
****
それから、しばらくは穏やかな日々が続いていた。
そんなある日、王宮でエリオス殿下とお茶を飲んでいたら「今度パーティーがあるんだ」と切り出された。
「パーティーですか?」
「そう。王家主催の兄上の婚約を祝うパーティーなんだけど」
「王太子殿下の?」
「そうなんだ。兄上の婚約は発表は行われたものの、パーティーは開いてなかったからね」
言われてみれば発表のみだったわね。
「それで……そこで僕の婚約も正式に発表する事になりそうなんだ」
「!」
「セシリナには負担かけてしまう事もあるけど、当日は僕の隣で笑っていてくれたら嬉しい」
「は、はい!」
私が少し緊張したのが分かったのかエリオス殿下がクスリと笑いながら私の頭を撫でる。
「すでにセシリナは僕の恋人として知れ渡っていたから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「それはそうかもしれませんが……」
《むしろ、僕はセシリナに群がる虫共をどうするか》
《抹殺リストと除外リストを駆使して絶対にセシリナには近付けないようにしないと》
「……?」
抹殺リストと除外リストって何かしら?
私は心の中で首を傾げた。
「それでも、恋人と婚約者は受け取られ方が違いますから……私は多くの人に認めて貰えるよう頑張りたいです」
「セシリナ……」
《セシリナは本当に熱心だな》
《……そんな所も大好きだ》
エリオス殿下との婚約が正式に結ばれた日から私は、王子妃に相応しくなりたいと私からお願いして王宮で勉強を受けるようになった。
王太子妃教育ほどでは無いにせよ、やっぱり彼の隣に立つには必要な事だと思う。
「私には足りない事ばっかりですから」
「うーん、“奔放な王子”の婚約者には勿体ないくらいのお嫁さんだ」
《無理はしなくていい》
《そう言ったところで結局セシリナは頑張っちゃうんだろうな》
《なら僕はとことんセシリナを支えよう》
「私はエリオス殿下の隣に立つのに相応しい人になりたいのです」
「セシリナ……ありがとう」
《あぁ、もう! そういう所が可愛いんだって!》
《何でそんなに可愛いんだ!》
「あぅ……」
「セシリナ?」
「い、いえ。何でもありません……」
今日のエリオス殿下の心の声も愛に溢れていた。
……お姉様が謹慎中なので、あれからアンネマリー様と私は顔を合わせていない。
けれどパーティーでは確実に顔を合わせる事になる。
少しでも付け入る隙を与えたくない。
それにお姉様だって何を考えているのか……
(とにかく私の存在を認めさせ、エリオス殿下を諦めてもらわなくちゃ!)
私は改めてそう強く決心した。
89
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたがそうおっしゃったのに。
友坂 悠
恋愛
どうして今更溺愛してくるんですか!?
メイドのエーリカは笑顔が魅力的な天真爛漫な少女だった。ある日奉公先の伯爵家で勧められた縁談、フォンブラウン侯爵家の嫡男ジークハルトとの婚姻を迫られる。
しかし、
「これは契約婚だ。私が君を愛することはない」
そう云い放つジークハルト。
断れば仕事もクビになり路頭に迷う。
実家に払われた支度金も返さなければならなくなる。
泣く泣く頷いて婚姻を結んだものの、元々不本意であったのにこんな事を言われるなんて。
このままじゃダメ。
なんとかして契約婚を解消したいと画策するエーリカ。
しかしなかなかうまくいかず、
それよりも、最近ジークハルトさまの態度も変わってきて?
え? 君を愛することはないだなんて仰ったのに、なんでわたくし溺愛されちゃってるんですか?
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!
鈴宮(すずみや)
恋愛
ロゼッタはお金がなにより大好きな伯爵令嬢。男性の価値はお金で決まると豪語する彼女は、金持ちとの出会いを求めて夜会通いをし、城で侍女として働いている。そんな彼女の周りには、超大金持ちの実業家に第三王子、騎士団長と、リッチでハイスペックな男性が勢揃い。それでも、貪欲な彼女はよりよい男性を求めて日夜邁進し続ける。
「世の中にはお金よりも大切なものがあるでしょう?」
とある夜会で出会った美貌の文官ライノアにそう尋ねられたロゼッタは、彼の主張を一笑。お金より大切なものなんてない、とこたえたロゼッタだったが――?
これは己の欲望に素直すぎる令嬢が、自分と本当の意味で向き合うまでの物語。
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
亡国の公女の恋
小ろく
恋愛
「俺は姫様ただひとりに忠誠を誓った僕です。どんなことがあっても命にかえてもお守りします」
戦争によって国を失った公女スヴェトラーナは、兵士のルカと共に隣国へ亡命の旅に出る。
たった数日間の旅で芽生えた愛にすべてを捧げようとするスヴェトラーナ。
愛を信じて貫こうとする公女と孤独で自尊心の低い兵士の恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる