【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

Rohdea

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第十二話 やっぱりこんな展開は知らない

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  フレデリック様がヒロインの元へと行ってしまった。

  (あぁ……)

  ────フレデリック様が、こんな風に婚約者の私よりもヒロインを優先する場面を私は知っている。
  確か、物語の中では悪役令嬢わたしの目の前でヒロインライラックをわざとらしく抱き上げていたシーンがあったわ……
  あれはもう終盤で、ヒロインに憎しみを募らせ過ぎたディアナがライラックを階段から突き落とそうとして──……


────

──


「な!  何で私が、きゃぁぁぁぁぁぁーーーー!」

  ディアナはライラックを階段の上から突き飛ばそうとした。しかし、すんでのところで避けられてしまう。
  突き飛ばすつもり満々でいたディアナは意表を突かれてそのまま自身が階段を転げ落ちて行った。

「ディアナ様……どうしてこんな事を」

  ライラックは悲鳴をあげながら転げ落ちていくディアナに向かって悲しそうに呟いた。

「く……き、決まってるでしょう!  平民のくせに殿下を誘惑しておいて!  今更、素知らぬ顔をするんじゃないわよ!」

  ディアナは落下した階段の下で蹲りながらそう喚いた。
  それだけ喚く元気があるならとりあえず大丈夫そうだとライラックは安心した。

「私は誘惑なんかしていません!  ディアナ様の方こそ……」
「うるさいわよ!」

  そんな二人の言い合いがヒートアップし始めた時だった。

「───なんの騒ぎだ!」
「フレデリック様!」
「あ、で、殿下……」

  その場に現れたのはフレデリック。
  
「二人が揉めていると聞いて急いで来てみれば……ディアナ、君は何をしている!」
「殿下……?  なんで私……」

  そもそもの原因が自分にあるとはいえ、明らかに階段から落下して怪我までしている自分を真っ先に責めるフレデリックにディアナは大きなショックを受けた。

「ライラック?  大丈夫か」
「大丈夫です、フレデリック様……」
「怪我をしている!  医務室に行くぞ!」

  ライラックが大丈夫ですと微笑んだのに、何故かフレデリックは即座にライラックの事を抱き上げた。
  そんな王子の突然の行動にライラックは大きく動揺した。

「え!?  フレデリック様?  私、怪我なんてしていませんよ?」
「いや、手を擦りむいているじゃないか」
「手、ですか?  それなら尚更……抱き上げる必要は……」
「いや、君が心配だからな。さぁ、行くよ、ライラック」
   
  そう言ってフレデリックはディアナの目の前で愛しそうに大事そうにライラックを抱き上げ去っていく。

「……殿下……」

  顔やら身体やらのあちこちに傷を作っていたディアナは、その光景をただ呆然とした様子で見ている事しか出来なかった────


─────

───


  急いで駆け付けてライラックの元に辿り着いたフレデリック様は、その場に集まっている人に何やら指示を出していた。
  医務室……運ぶ……
  そんな声が断片的に聞こえて来る。
   
  (……運ぶって?  まさか……抱っこ?)

「───……やっ!  フレデリック……様」

  私はとても小さな声でフレデリック様の名前を呟いた。

  どうしてフレデリック様がライラックの元に向かったのか、その理由は分からないけれど、このままライラックの事を抱き上げる姿なんて絶対に見たくなかった。

  (嫌……他の人に……ライラックにだけは触れないで!)

  そんな事を思いながらも私はどうしても怖くてその光景を見たくなくて顔を上げられず、その場で下を向いて蹲っていた。
  しばらくすると、会場がザワっと騒がしくなる。
  道を開けて……なんて声も聞こえるから、きっとフレデリック様がライラックを抱き上げて運ぼうとしてい……

「……ディアナ?  どうして蹲っているんだ?  大丈夫か?」
「……」

  頭の上からフレデリック様の声が聞こえた。

    (ああ……私は重症だわ……フレデリック様の声の幻聴まで聞こえてしまうなんて……!)

「もしかしてどこか痛いの?  あぁ、ほんの少しの時間だったとしてもディアナから離れるべきでは無かった……ごめん、ディアナ」
「……」

  随分と声のハッキリ聞こえる幻聴だと思った。

「……」

  ───え?  幻聴?  本当に?
  私はまさかと思いそっと顔を上げる。すると目の前には心配したフレデリック様の顔があった。

「え?  何で?」

  思わずそんな言葉が口から出てしまった。
  フレデリック様はライラックの元に駆けつけて倒れた彼女を抱き上げて……あれ?
  私が唖然としているとフレデリック様は言った。

「何でって、ディアナは僕を呼んだだろう?  だから急いで戻って来たんだけど……?」
「……え?」
「すごく小さな声だったけど呼んだよね?  あれ?  違った?」

  (確かに呼んだけれど……)

  でも、あの距離で届くはずがないくらいの小さな声だったはず。

「あ、倒れた……方は?」
「ん?   さっきの人の事?  駆け付けた先生方が、今頃、医務室に運んでいるよ?」
「先生……が?」
「うん」
「フレデリック様が運ぶ……じゃない?」
「何で僕がディアナでもない見ず知らずの人を運ぶ必要があるの?」
「……!」

  そう聞き返してくるフレデリック様の様子は不思議そうだった。

「な、なら……ど、して」
「うん?」
「どうして、突然、彼女……倒れた方の元に駆け付けた……のですか?」

  結果としてフレデリック様が、ライラックを抱き上げなかったとしても聞かずにはいられなかった。
  何か運命的なものを感じてしまった?  本能?
  もし、そんな気持ちがあっての行動だったら……私は……

「あぁ、それは……上から見ていたから分かったんだけど、あの倒れた人さ、ちょっと変?  不自然な倒れ方をしていたんだよ」
「…………不自然、ですか?」
「うん。そのせいかちょっと変な形で頭を打っていたみたいだったから──」

  フレデリック様曰く、彼女……ライラックは変な状態で頭を打っているので動かさない方が良かった。なのに、ライラックの元に集まった人達が彼女の身体を揺さぶろうとしていたから急いで駆け付けて止めたのだという。

「ガヤガヤしていて騒がしかったし、壇上から声をかけて止めるよりは駆け付けた方が早そうだったんだよね」
「……」

  私は言葉が出なかった。
  つまり、ライラックだからとか関係なく単なる人命救助、だった?
  私が勝手に勘違いして……

「……それで、僕の可愛いお姫様には何があったの?」
「えっと……」
「ディアナが蚊の鳴くような弱々しい声で、僕の名前を呼んだ?  と思って振り返ったら何故か下を向いて蹲って苦しそうにしていて……僕の心臓が止まるかと思ったよ」
「フレデリック様……」

  フレデリック様の手がそっと私の目元に触れる。

「目元も潤んでる。もしかして泣きそうなくらい苦しかった?  あ、いや……それとも僕がそばを離れた隙に誰かに何かされた?  もしそうなら今すぐソイツを……」
「……!  ち、違います!  誰かに何かされたわけじゃない……です!」

  フレデリック様の目つきが危ない方向に向かおうとしていたので、私は慌てて止めた。

「そう?  それならいいのだけど……」
「本当に大丈夫ですから。し、心配かけてごめんなさい」

  それと勝手に誤解して───……

「……それなら、いいけど。よし!  それじゃあディアナ、僕に捕まって?」
「え?」

  何がよしで、何がじゃあ……なのか分からず目を丸くしていたら、フレデリック様はひょいっと私の身体を抱き上げた。

「!?」
「こら、ディアナ!  暴れちゃダメだよ」
「え、だ、だって、どうして……!」

  (どうして私が抱き上げられているのーー!?)

「どうしてって、何だかディアナは力が抜けてしまっているみたいだし……?」
「そ、それは……」
「ほらほら、暴れたら危ないからね、首にしっかり腕を回して大人しくしてくれると嬉しいな」
「~~~っ!」

  恥ずかしかったけれど、落ちるのは嫌だったのでフレデリック様の言う通りにする。
  フレデリック様の首に腕を回したら、距離がますます近付いてしまい更にドキドキする。
 
  (胸のドキドキが伝わってしまいそう……!)

「ディアナ……本当に君は……」
「な、何ですか?」

  フレデリック様が私の目をじっと見つめてきた、と思ったらすぐに照れくさそうに逸らしてしまう。

「…………何でもないよ」
「?」

  こうして私は大勢の前でフレデリック様に抱っこされながら壇上から降りる事になった。
  
  (こんな展開はやっぱり知らない!)


  ───この事により、学園では王子とその婚約者が終始イチャイチャしていた、とこれから先も学園内で大きな話題となっていくのだけれど……
  入学式の最中に倒れたピンク色の髪を持った平民の彼女の事はすぐに皆、忘れてしまったという───……

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