13 / 31
第十三話 大根役者のヒロインと乗っ取り悪役令嬢
しおりを挟む入学してから約一ヶ月。
その日、私は掲示板の前で張り出された実力テストの結果を見て唖然としていた。
「……何で」
「さすが、僕の可愛いディアナ」
「フレデリック様……」
掲示板を見上げていたら、フレデリック様が私の横に並ぶ。
そこにはテストの結果順位が載っているのだけれど、一位の欄に何故か私の名前が書かれていた。ちなみに二位はフレデリック様。
「他者を寄せつけない程の独走っぷりだね。僕との差も凄いや。こうなる事は分かっていたけどやっぱり悔しいなぁ……」
「こ、これ……何かの間違いではないのでしょうか?」
(だって私の知っている物語の中では一位の欄に名前が載るのはライラックで……)
いくら私が特待生になってしまったとしても、ライラックだってそれに次ぐ成績保持者のはず……なのに。
何故か、ライラックの名前は上位どころかトップ30にも載っていない。
掲示板に張り出されるのは30位まで。果たしてライラックは何位なのか……
(やっぱり何かの間違いなのでは?)
私が焦って訊ねてみるけれど、フレデリック様は首を横に振る。
「ディアナは昔からちょっと基準が人とずれているよね?」
「え?」
「ディアナにとってのこれくらいは“普通”が、他の人にとっては“超人”レベルなんだよ」
「ちょ……!? 超人……」
(何それ!?)
私は心の底から驚いた。
「そんな気はしていたけど、やっぱり気付いていなかったんだね。しかもディアナが本当に凄い所は、誰が見ても本気で大真面目に勉強していた所だと僕は思う」
「え……? だって、テストってそういうものでしょう?」
私がそう答えるとフレデリック様が苦笑いをした。
「そういうところが本当にディアナらしいや」
「どういう意味ですか?」
そんなに変な事を言ったかしら?
だって、テスト前に遊び呆けてどうするの?
私はそんな目でフレデリック様を見た。
「うん……ディアナには、ずっとそのままでいて欲しいな」
「それ、答えになっていませんよね?」
私が不貞腐れるとフレデリック様は「ははは」と笑った。
「特待生で勉強しなくたってトップ確実だろうと言われていたディアナがめちゃくちゃ勉強しているんだよ? そんなディアナの姿を見ていた皆も触発されたみたいで、今回のテストは全体的に平均点が高いらしいよ」
(そんな相乗効果が……)
「昔っからディアナは何にでも一生懸命だからね」
「……そういう性格みたいです」
「本当に僕はまだまだだなぁ……情けなくてディアナに“こんなにも情けない王子は私に相応しくないわ、願い下げよ”って、捨てられてしまいそうだ……」
フレデリック様のその言葉にギョッとした。
「す、捨てません! なんて事を口にしているのですか! 私はずっとフレデリック様と……」
本来、捨てられる予定なのは私の方で……そうなる未来が嫌で呪いをかけちゃったくらいフレデリック様の事が好きなのに!
「ディアナ……」
「フレデリック様……」
掲示板の前で見つめ合う私達が二人の世界に入ろうとしたその時だった。
ドサッ、バサッ
「きゃあ!!?」
私達のすぐ近くで何かが落ちる音と小さな悲鳴がした。
誰かが何か落としてしまった?
そう思って振り返ったら……
(────ライラック!)
「や~ん、やっちゃったぁ」
そこにはライラックがいて、足元には落としたと思われる筆記具やノート、紙の束がたくさん散らばっていた。
「大変だわ~このままじゃ、風に飛ばされちゃうかも~」
(……ん?)
気の所為でなければ、ライラックはチラチラと私とフレデリック様を見ながら散らばった物を拾い集めようとしているように見えた。
「誰か私を助けてくれる人はいないかしらぁ~」
チラチラ……チラチラ……
(え? まさか、私達に助けを求めている?)
そんなはずは無いと思いつつも、先ほどからライラックがチラチラとこちらに視線を送って来ている事は間違いなさそうだった。
「私ったらうっかりしちゃったのぉ~手が滑っちゃったぁ」
「……」
「誰か助けてくれないかしらぁ~」
(な、何かしら……前世で言うところの大根役者みたいなセリフの数々は……!)
さっきから、ライラックの放つ言葉が不自然すぎて逆に私は固まってしまう。
しかも、これ私とフレデリック様に向けて言っているの? 違うわよね? 何かの罠?
(人を助けるってそういう事じゃないはずよ……困ってる人に自然と手を差し伸べるものであって……)
元々これっぽっちも近付きたくないライラックだけど、今は絶対に近付きたくなかった。
「……ディアナ?」
「っ! ち、近いですわ! フレデリック様!」
突然、黙り込んで固まった私を不思議に思ったフレデリック様が顔を覗き込んで来る。
フレデリック様の顔のアップ。目の保養にはなるけれど心臓には悪すぎる!
「え、でもこれくらい近付かないと可愛いディアナの顔がよく見えない……」
「!?」
「ディアナ……」
フレデリック様の手がそっと私の頬に触れる。
「フレデリック……様?」
私を見つめてくるフレデリック様の目が、甘くて蕩けそうでもはや私に対する愛しか感じない。
(おかしい……もう呪いたくなくて今年はあの儀式を行わなかったから、私に対する熱量は下がっていくはずだと思っていたのに……)
昨年よりもパワーアップしている気がする。どうしてこうなった……?
───ゲフンゲフンッ……あぁ、大変~誰かぁ私をーー……
フレデリック様の事で頭がいっぱいになってしまった私は、まだ何かを呟きながら視界の端でチョコチョコと動いていたライラックの事は一瞬で頭から吹き飛んでしまっていた。
◆◇◆◇◆
(そうよ、おかしいと言えば……)
すでに知らない展開がてんこ盛りとなっているこの現実だけど、他にもおかしな事はあって……
物語の中では一切説明が無かったので知らなかったのだけれど、この学園のクラス編成はどうやら成績順だったらしい。
なので、本来の特待生であり、トップ成績で入学するヒロインのライラックは、本来なら二位のフレデリック様と同じクラスになるはずだった。
一方の悪役令嬢……ディアナは下から数えた方が早い成績。だから当然、二人とはクラスが違う。
その事もディアナの嫉妬と憎しみに繋がるはずなのに───
(ライラック……違うクラスなのよねぇ……)
クラス編成を見た時も変ね、とは思ったし、テストの結果を見た時もまさか……とは思ったけれど。
(ライラックがおかしいわ!)
平民出身なのに頭脳明晰、そしてあの可愛らしい見た目! いつだって明るくて真っ直ぐで、そしてそれを鼻にかけない性格もあってか入学してからあっという間に学園中の人気者へとなっていくはずなのに。
(だって、誰もライラックの事を話題にしない……)
───本物だ、……妖精みたい、……噂以上でため息しか出ない……美しい、可憐だ……目の保養……
入学式の時に聞いたライラックへのあの数々の賛辞は何だったの?
「────ディアナ。君こそ何を言っているの?」
「はい?」
「妖精みたい、噂以上、美しい、可憐、目の保養……それ全部、最初からディアナに向けられた言葉だよね?」
「…………?」
お昼休み、入学式でフレデリック様とイチャイチャ……していたと大きな注目を集めてしまった私は、入学後、どこに行っても人からよく見られる。
それは仕方がない事だと思っていたし、何となく受け流していた……のだけど!
聞こえて来る言葉の中に、明らかに私ではなくライラックに向けられるべきはずの言葉があった為、不思議に思いフレデリック様に聞いてみた。
───妖精とか可憐とか……そういった言葉を向けられるべき相手って本当は私じゃないですよね? 皆さんどうしてしまったのでしょう?
私がそう口にした時に見せたフレデリック様のあんなに崩れた顔は、初めて見たかもしれない。
「え? 間違いでもなんでもなく、私に向けられていた……言葉?」
「そうだよ? 僕の心配が少しは分かってくれたかい?」
「…………」
───では、ヒロインは?
(え? これってまるで、悪役令嬢がヒロイン乗っ取りしたみたいじゃない?)
───そして呪い……関係ないわよね?
「…………」
ヒーローを奪われまいとしていただけのはずなのに、何故か全ての物事の話が全然違う方向に向かっている事にようやく気付いた。
78
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる