【完結】殿下! それは恋ではありません、悪役令嬢の呪いです。

Rohdea

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第二十一話 愛しい人の為に (フレデリック視点)

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  僕が自分に術を使った翌日、ディアナは熱を出して倒れたらしい。
  話を聞いた時はびっくりした。
  この間はあんなに元気そうだったのに……

  (……ディアナ!  心配だ……)
  
  今すぐディアナの元に駆けつけたかったけれど、突っ走ってはダメだと自分に言い聞かせる。
  具合が悪い時に無理やり押しかけるなんて最悪だ。しかも婚約者とはいえ好きでもなんでもないない僕……きっとディアナも迷惑に違いない。
  だけど、お見舞いの許可が降りたらすぐに会いに行く!
  そこで僕が自分にかけた術が成功したかも分かるはずだ!

  (幸い、僕の体調に変化は無いし……良かった)

  もし、成功しているならディアナに試したい術がある。
  僕はディアナのお見舞いの準備とその後、ディアナにかける為の術の準備をこっそり始めた。


  そして、お見舞いの許可が降りてディアナのお見舞いに無事に行く事が出来た僕は、今までの葛藤が嘘だったかのように素直な気持ちを吐き出せるようになっていた!
  
  (……さすが王家の秘術!  凄い……嘘ではなかったんだ!)

  ちょっとディアナをびっくりさせてしまったみたいだけれど、これからはたくさん大好きだって気持ちを伝えていこうと思う!
  そして、これならもう一つの術を使ってもきっと大丈夫だ!

  僕がディアナにかけようとしているのは、“好きな人に好意を抱いてもらう方法”だ。
  散々、ディアナに幻滅される事をして来た僕だから……まずは人として好きになって貰わないといけないと思ったのでコレを選んだ。

  (この術は他の術と違っていつでも行える。けれど長期戦なのが難点だーー……)

  自分にかけた素直になれる方法もそうだったけど、この本に載っている術の殆どの条件には必ず“満月の晩”が出てくる。
  そうなると術をかけられる日のタイミングが難しい。
  だけど、この好意を抱いてもらう術に満月は要らない!

『───必要なのは花のみ、か。そして、期間は……七年!  長いけど頑張るぞ!』

  一輪でも花束でもよいので期間中は、毎日欠かさず相手に花を贈ること。
  それが、この術の方法だった。


───
  

  素直になった僕と、好意を抱いてもらう術が効き始めているのか、僕とディアナの距離はどんどん近付いた。
  手紙のやり取りも始まった。
  ディアナから来た手紙がびっくりするくらい分厚くて、僕は感動しながらそれを読んだ。
  文字からも可愛いらしいディアナがチラチラと見え隠れしていたので、悶えながら読んだせいでかなり時間はかかってしまったけれど。

  (手紙でも可愛いとか……ディアナは女神か何かかな?)

  僕もディアナへの想いを綴るぞ!
  と意気込んだら、ディアナと負けないくらいの文量になっていた。

  (これがずっと憧れていた文通……)

  僕はとにかく嬉しくて、たくさん返事を書いたら大好きなディアナへの僕の想いはとどまる事を知らず、手紙はどんどん厚くなっていった。



  そうして六年が経ち、成長した僕達は学園に入学。
  思った通り、ディアナはすごく美人に成長し、相変わらずの明るい笑顔は日々の僕の癒しだ。
  しかし、ディアナは成長しても自分の事には無頓着で、向けられる矢印にはとんと気付かない。
  確実にライバルが増えていく日々だけど、それは仕方がない。

  (僕はいつになったらディアナの理想の男になれるだろうか)

『ディアナ、早く僕の事を好きになって?  それで僕の可愛いお嫁さんになって?』

  僕は絶対にいつか見た王家の家系図みたいな事にはしないから。
  君だけだ。ディアナだけを大切にする!  だから僕の手を取って欲しい。

  好きな人に好意を抱いてもらう方法……の術の完成時に、僕はそう言ってディアナにプロポーズするつもりだったのに───

  


◇◇◇◇◇◇




  王宮に着いた僕は、自分の部屋へと急いで駆けていく。
  
  (早く……早くディアナを……ディアナと侯爵家の者達を助けなくては!)

  眠っているだけといっても体力はどんどん奪われる。  
  栄養も取れなくては衰弱していくばかりだろう。
  そんな事はさせない!  早くどうにかしないと!

「しばらく、一人にしてくれ!  僕が許可を出すまで誰も部屋に入るな!」

  部屋に到着するなり、そう命令して人払いをした後、僕は真っ先に本棚の隠し棚を開ける。

「……ここを開くのは久しぶりだな」

  そう言いながら取り出したのは、一年前、行方不明になっている事が発覚して騒がれたあの本。
  そんなに重要なら何であんな所に保管していたんだと言いたい。
  ディアナへの術の完成まではとこっそり隠し持っていた。
  
「あの時、返却しないで良かったのかもしれないなぁ」

  そうでなければ、今頃、本は厳重に管理されてしまい簡単には読めなくなっていただろう。もしそうなっていたら今回の件を調べる事はすぐに出来なかったと思う。
  そんな事を考えながら僕はページをめくる。

「後半……後半にあったはず。確か……あ、あった!  人を眠りにつかせる方法!」

  この本は前半は微笑ましい内容なのに何故、後半のページからはおどろおどろしいまさに呪い!  な術ばかりになるのだろうか……
  前半部分は世の中の片思いしている人間を後押ししてくれるかような内容なのに……妙にチグハグだ。
  そんな疑問は残るが今はそれよりも、この眠りの呪いの解呪が先だ!

「そもそも、この眠りの術をかける方法は……」

  解呪の前に眠りにつかせる方法に目を通した、

  侯爵夫人が不思議そうに持って来たアレを思い出す。やはりディアナ達にはこの本に載っている方法が使われたと思って間違いなさそうだった。

  (犯人は誰なんだろう?  なぜこの本の内容を……)

  犯人もディアナ達の目が覚めれば分かるのだろうか?
  誰であれ絶対に犯人は許さない。僕の大事な大事なディアナに手を出した事を後悔させてやる!

「解呪方法は……あった!  ………………ん?」

  ざっと見たところ、解呪方法そのものはそんなに難しくは無い。必要なものが手に入れば大丈夫そうだ。
  だが、解呪の注意事項に記載されているとある一文が気になってしまった。
  そのせいで僕は一瞬だけ躊躇ってしまう。

「……ディアナ」

  ──フレデリック様!

  ディアナの可愛い笑顔が頭に浮かぶ。
  解呪したら……君はもうあんな風に笑って僕を呼ぶことは無くなるのかもしれない。

  (あと少しで君は僕の事を好きになってくれたかもしれないのに……)
 
「ははは……何を躊躇っているんだ……今、解呪しなかったらディアナ達は……二度と目が覚めないかもしれないんだ!」

  好きとか嫌いとか以前の問題じゃないか!

「それに、これはそもそもこんな卑怯な手を使って君の心を手に入れようとした僕への罰なのかもしれないな……」

  目が覚めて笑って……ディアナらしくこれからも真っ直ぐ生きて欲しい。
  やっぱり僕はディアナの笑顔が好きだから。

「──解呪するよ」


  ───そう。
  たとえ、これまで積み上げた全てが無かった事になるとしても。

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