【完結】ある日、前世で大好きだった人と運命の再会をしました───私の婚約者様が。

Rohdea

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24. 偽者のお姫様



「───なっ!  う、嘘だろう!?」

 ハインリヒ様が驚愕の表情を浮かべて震えた声で聞き返す。
 そんなハインリヒ様にリヒャルト様はとても冷静に返した。

「今、こんなことで嘘をついて何の意味がある?」
「……!」
「今から遡って遠い過去に滅んだ国の王女の元婚約者の名前なんて、普通はスラスラ出て来ないと思うが?」
「ぐっ……そ、れは」
「……お前が“テオバルト”のことが大嫌いなのは知っている」

 ハインリヒ様は言葉を詰まらせた。
 一方、ヴァネッサ嬢は驚愕の表情を浮かべて無言のままリヒャルト様を見つめていた。
 顔は真っ青でその身体はかなり震えているように見える。

(……ヘンリエッテ王女の、こ、婚約者!?)

 そして私も私で驚きが隠せない。
 リヒャルト様の前世がお姫様の婚約者!?
 え?  待って?  
 つまり、それってヴァネッサ嬢の……お相手ってこと?

「───っ」

 私の胸がドクンッと嫌な音を立てる。

(それは嫌だ……すごく嫌だ)

 ハインリヒ様なんかどうでもいい。
 だから“アルミン”となら、どれだけ親密な関係になろうとも好きにすればいい。
 そう思えたのにリヒャルト様は嫌だ。

「……」

 私はギュッとドレスを両拳で握りしめる。

(……嫌だけど、目を逸らしては駄目。私はしっかり見届けなきゃ)

 リヒャルト様はこれまで前世の記憶を持っている素振りなんて見せて来なかった。
 それなのに今、この場でそれを明かしているのは、私のため……
 だから、私はきちんと見届ける義務がある!

(それに、過去は過去!  私たちは今を生きている!)

 そう思って沈みそうだった気持ちに喝を入れた。
 そうして顔を上げて対峙しているリヒャルト様とハインリヒ様へと視線を戻した。

(──テオバルトって名乗っていたわ)

 どんなに歴史書を漁って読んでみても、お姫様……ヘンリエッテ王女の婚約者の名前はどこにも載っていなかった。

(どうしてこの名前をどこか懐かしく感じるのかしら……?)

 不思議な感覚にとらわれながらも私は考える。
 ハインリヒ様の様子からいっても“テオバルト”が婚約者の名前なのは間違いなさそう。
 同時代に生きた人間が三人───
 こんな珍しいことが有り得……

 ───ズキッ

(……っ)

 ほんの一瞬だけまた私の頭が痛んだ。
 やっぱり私のこの頭痛は前世───それも、パルフェット王国に関連している気がする。
 なぜ私が? 
 あの少しだけ流れて来た記憶……
 私の過去と思えるあれもパルフェット王国と関係している?

 そんなことを考えていると、ハインリヒ様がリヒャルト様に問いかけていた。

「本当に……テオバルトなのか……いや、なので、すか?」
「ハインリヒ。俺はお前と違って当時の面影なんて全く残っていないからな」
「はい……髪色も瞳の色も……殿下には“テオバルト”を彷彿させるものは……ありません」

 ハインリヒ様は震える声でそう言った。

「そうだな。強いて言うなら俺の前世との共通項はこれだな」

 そう言って、リヒャルト様は自分の服の腕部分の袖を捲る。
 そして左腕をハインリヒ様に見せつけた。

(んー?  私の位置からは見えないわ?) 

「この腕にある三つ並んだほくろ。これくらいだな」
「っ!  テオバルトの左腕……規則的に並んだほくろ、確かにあった……だが、そんなの分かるわけないじゃないか!」

 確かに、王子の服の下の腕のほくろなんて見る機会なんてそうそうないわね。
 でも、今の発言からもハインリヒ様はリヒャルト様の過去の人物にほくろがあることを知っていた。
 それってつまり前世の二人はかなり近しい関係だった……?

「……そういうものなんだよ」
「え?」
「前世は前世。どんな過去の記憶が自分の中にあろうとなかろうと、それは“今”じゃない」
「…………今、じゃない?」

 ハインリヒ様が青い顔のまま首を傾げる。

「俺たちはもう今の人生を生きているんだから当然だろう?  むしろ、過去の姿を色濃く受け継いでいる方が異常なんだよ」
「異常……」

 そう言ってハインリヒ様がおそるおそるヴァネッサ嬢に視線を向ける。

「……え?  なに?」

 ハインリヒ様と目が合ったヴァネッサ嬢が怯えだした。
 確かにハインリヒ様はヴァネッサ嬢は前世の姫と……と豪語していた。

「……ハインリヒも珍しく“アルミン”の面影をかなり引き継いでいるが……そこの男爵令嬢は異常だ」

 リヒャルト様もそう言ってヴァネッサ嬢に視線を向ける。

「異常ですって?  どうして、そんな目で見るの……ですか?  わたしが前世の自分にかなり似ているのってそんなに変なこと?」

(───あ)

 ヴァネッサ嬢が真っ青に震えながら反論する。
 それを見て私は、色々と悟った。
 だって疚しいことがなければ、たとえ疑われてもここでこんな言い方はしない。
 それに先程のヴァネッサ嬢はハインリヒ様の思い出話にきちんと答えられていなかった。
 そのことは、多分この場にいる誰もが感じている。

(リヒャルト様、あなたは……)

 ハインリヒ様と同じ時代の記憶を持ったリヒャルト様はずっとおかしいと思っていたんだわ。
 ……彼女は違うって。
 見た目はそっくりだけど“違う”のだと。

「──ハインリヒ。もし、本当に彼女がヘンリエッテ……本当に王女の記憶があるのならお前をそばに置こうとなんて絶対に思わない」
「え……?」

 ハインリヒ様が何故だって顔をした。
 それにはやはりリヒャルト様が言った“裏切り者”という言葉が大きく関わってくる気がする。

「……その表情。そうかお前は今でも自分のしたことは正しかった、そう思っているのか」

 そう口にするリヒャルト様は悲しそうな表情だった。
 そして小さなため息を吐くと言った。

「ハインリヒ。その話は後だ。今はそこの男爵令嬢の正体をはっきりさせる方が先だ」
「正体……ひ、姫……いや、ヴァネッサ。まさか、本当に君は姫、じゃなかった、のか?」

 リヒャルト様に促されたハインリヒ様が青白い顔と震える声でヴァネッサ嬢に訊ねた。
 だけど、ヴァネッサ嬢はもちろん大きく否定する。

「何を言っているの、アルミン!  わたしはわたしよ、あなたのお姫様のヘンリエッテ!  護衛だったあなたも、わたしと会ってそう感じてくれていたのでしょう?」
「……」

 ハインリヒ様は何も言えずにヴァネッサ嬢から顔を背ける。
 ここに来て彼女こそが自分の姫だという自信が大きく揺らいだのだと思う。

「ど、どう……して?」
「……」
「ねぇ、ハインリヒ様……いえ、アルミン!  わたし、わたしよ?  ほら、わたしを見て?」

 ヴァネッサ嬢は必死にハインリヒ様に縋りつく。
 そんな彼女に冷たい声が降りかかる。

「ヴァネッサ・シュトール。初めて君の姿を見た時から、俺はと思っていた」
「え……?」

 リヒャルト様が冷たい表情、冷たい声でヴァネッサ嬢に問いかける。

「そう。ヘンリエッテ王女の名を騙る偽者──不届き者は誰なのか、と」
「ふ、不届き者ですって!?」
「そうだろう?  なぜ君がそんなにも“ヘンリエッテ王女”を彷彿とさせる容姿なのかもずっと考えていた───中身はまるで違うのに」
「──……っ!」

 ヴァネッサ嬢が悔しそうに黙り込む。

「まぁ、誰なのかは仮説を立てていたが。ハインリヒ……アルミンへの執着を考えれば思い当たる人物は一人だからな」
「……なっんですって!?  わたしは!」
「───それだ」

 リヒャルト様がヴァネッサ嬢の言葉を遮る。

「それ……?」
「それに加えて、俺が仮説を立てたその者もそういう少し変わったイントネーションでいつも自分のことを“わたし”と言っていた」
「え……?」
「あ!  ま、さか」

 ポカンとするヴァネッサ嬢。
 そしてリヒャルト様のその指摘でようやく何かに気づいた様子のハインリヒ様。

「こういうことは案外、自分では気付かないものなのだろうな」
「……え?  どういう、こと?  わた……し?  え?  わたし……」

 ヴァネッサ嬢はまだよく分かっておらず、わたし、わたしと繰り返していた。

「はぁ、いい加減に諦めろ。本当に往生際が悪いな───ヘンリエッテ王女の従姉妹であり侍女でもあった公爵令嬢、コルネリア!」
「──!」

 リヒャルト様がため息混じりで叫んだその名前にヴァネッサ嬢は分かりやすく動揺した。

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