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エピローグ
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「───リヒャルト様? どこに行くんですか? そろそろ向かわないと」
「うん……でもこめん。これだけは今日どうしても……」
「?」
私は首を傾げる。
リヒャルト様はいったいこんな大事な日にどうしたのかしら、と。
不思議に思いながらリヒャルト様の後を着いていくと、そこはとても見覚えのある場所。
「……って、え? ここ……リヒャルト様?」
「……」
「!」
リヒャルト様は静かに手を合わせていた。
そして、その先に眠っているのは私のおばあ様────……
───あの前世の記憶を思い出す──という様々な騒動から一年半が経った。
私とリヒャルト様の婚約、結婚準備は急ピッチで、進められ……
本日、私たちは結婚式を迎えることになったのだけど。
なぜか式の前にリヒャルト様がどうしても行きたい所があると言うので来てみれば……
(まさかのお墓参り!)
「──ずっと挨拶に行きたかったんだ」
「……」
「最初に壊したのはハインリヒだけど、横から入って来てナターリエの夫となる身としては……さ」
おばあ様への挨拶を終えて馬車に乗り込むなり、リヒャルト様はそう言った。
そう語るリヒャルト様の横顔を隣から見つめて胸がキュンとなる。
気にしてくれていたんだ……
「……ありがとうございます」
「え?」
「おばあ様も喜んでいると思います」
「でも……」
私がそう言うとリヒャルト様は戸惑いの様子を見せた。
私は静かに首を振る。
「叶わなかった悲しい恋を知っているおばあ様は私が幸せな花嫁になれることの方を喜んでくれる……そう思います」
その相手は私が望む……私が大好きなリヒャルト様、あなた。
「……ナターリエ」
リヒャルト様が腕を伸ばして優しく私を抱きしめる。
「幸せな花嫁、か。ようやく今日がその日だ。ナターリエ」
「ええ」
私が微笑み返すとリヒャルト様がそっと顔を近づけて優しいキスをくれた。
「……あとで皆の前でも誓うけど……」
「……」
「俺は必ず生涯かけてナターリエを幸せにする……いや、一緒に幸せになろう?」
「……」
───前世の分も。
その先は言葉にしなくてもお互い分かっている。
「はい! リヒャルト様! 私もあなたを幸せにします!」
「……ナターリエ!」
私たちはもう一度、お互いの唇をそっと重ねた。
(───ヘンリエッテ。見ていてね? 私、今度は幸せに……なってみせるから)
私は自分の中のヘンリエッテにそっと声をかけた。
「……そういえば、あちらの二人の結婚生活は最悪のようですよ? 口も聞かないわで目も合わせないとか」
私の言葉を聞いたリヒャルト様が苦笑する。
「だろうなぁ」
「それならば、と互いに好みの人を見つけて浮気したくても、評判悪すぎて誰も近寄らないそうですよ?」
「ナターリエの報告書の中身が凄かったからな……公表した時、みんな引いていたからな。まともな奴なら絶対に近づかない」
二人でやれやれと肩を竦ませる。
「でも───最後の最後にヴァネッサ嬢までハインリヒ様との結婚を拒否するなんて思いませんでした」
一年半前、ようやくベルクマン侯爵家から婚約破棄に関する手紙が届いた。
それは全面的にこっちの訴えを受け入れるというものだった。
結果として彼らの財産はほぼ空っぽに。
全てを失ったハインリヒ様の父親のベルクマン侯爵は結局、爵位を返上することに決めた。
そして、ハインリヒ様は私たちが条件としていたヴァネッサ嬢との結婚のため、男爵家に婿入りとなったのだけど───
「男爵なんか冗談じゃないというハインリヒ様と、今になって侯爵家の子息じゃないハインリヒ様なんて魅力ないとか言い出したヴァネッサ嬢……上手くいくはずがないわよね?」
「結局、あの二人は顔とか肩書きとかしか見ていないじゃないか……」
これはそう遠くない未来、男爵家も没落する気がする……
私はそう思った。
「リヒャルト様……前世の二人がしたこと。罪には問えないけれど、思い知らせることは出来るわよね?」
「ん?」
「覚えているかしら? あの時……私、生まれ変わりのことを──」
───だからね、私は思ったの。前世で悲しい恋で終わってしまった私たちに今度は───
あの時、ハインリヒ様に遮られて続きを言えなかったけれど、今度は幸せになれ、そう思って巡り合わせてくれたのだと言いたかった。
そのことを告げるとリヒャルト様も笑顔になる。
「……俺もそう思っているよ」
「そんな私たちが幸せになっている所を見てもらうのが……二人にとっての最も重い罰……って思っているわ」
「ああ。たくさん見せつけてやろう?」
「ふふ」
そんな話をしていたら、馬車が王宮に到着した。
「うわ……急がないと。思っていたよりギリギリだ」
「新婚夫婦が揃って式に遅刻とか笑いごとじゃ済まなくなりそうですね?」
「シャレにならない……」
頭を抱えるリヒャルト様に私は笑顔で言う。
「でも、私はどんなことがあっても絶対にリヒャルト様と結婚しますけど!」
「ナターリエ……」
「だって、あなたの隣にいるのはいつだって、私……でしょう?」
(ずっとずっと昔から……)
私のその言葉にリヒャルト様は嬉しそうに笑った。
「そうだな! 行こう、ナターリエ!」
「はい! リヒャルト様」
私はリヒャルト様から差し出された手を取ってギュッと強く握る。
そして二人で駆け出した。
ずっとずっと夢に見た“幸せな花嫁”となるために────……
こうして……
ある日、前世で大好きだった人と運命の再会をしました─────私が!
~完~
✴✴✴✴✴✴✴✴
ありがとうございました。
これで、完結です。
長くなってしまったのに最後までお付き合い下さりありがとうございました!
本当の姫が誰なのか……
皆様が色々な予想して下さり面白かったです。
過去が悲しかった分、今世の二人にはたくさん幸せになってもらいたいと思います。
ちょっとイチャイチャが少なかったのが心残り……
最初はハインリヒの屑さをマイルドにして三角関係みたいにすることも考えたりもしていたのですが、昔と違って最近は三角関係はウケがよくない(ヒロインがフラフラするのはちょっと……)らしいのでやめました。
なにより、一途な恋が好きな私に書ける気がしない……むかないことはしないに限ります。
なんであれここまで本当にありがとうございました。
ちょっと夜勤のせいで寝ぼけて投稿ミスりましたが……
今後は気をつけます。
いつも多くの方に読んでもらえて感謝しかありません。
自分好みの話をひたすら書いているだけなので、
毎回、このパターンかよ……と飽きられてしまわないかドキドキしてますが、ネタ切れしつつも引き続きお話を届けられたらと思っています。
ということで次作……
『身代わり令嬢は役目を終えたはずですが? ~あなたが選ぶのは私ではありません~』
宜しければお付き合いくださいませ!
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