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第一話 指輪を拾いました
しおりを挟むその指輪を拾ったのは本当に偶然だった。
その日。
伯爵令嬢の私、アイリーンが参加していたパーティーは、アディルティス侯爵家主催のパーティー。
そしてこのパーティーは、別名アディルティス侯爵家嫡男であるヴィンセント様の花嫁探しのパーティーと言われていた。
ただし、その花嫁は特殊な方法で選ばれると言う──
そんな何やら特殊な方法で花嫁が選ばれるらしい、アディルティス侯爵家の嫡男のヴィンセント様は美しい銀の髪と神秘的なアメジスト色の瞳を持つ美青年。
実は憧れている令嬢も多い。
この日まで婚約者のいなかった彼なので、年頃の令嬢達が我こそが花嫁に!
と、こぞって目の色を変えてこのパーティーに集まっていた。
──そして、まさか自分がその“花嫁”に選ばれてしまうなんて。
あの“指輪”を拾うまでは想像もしていなかった。
*****
カドュエンヌ伯爵家の令嬢である私、アイリーンはもうすぐ18歳になるというのに恋人はおろか婚約者もいない。
昔、ほんの一時だけ婚約者がいた事もあったけれど、あっさり浮気をされて捨てられてしまった。
その後も、縁談は何件か申し込みがあったけれど、ことごとく全て流れてしまっていた。男運が無さすぎる。
そして、とうとうそんな私に痺れを切らしたお父様は言った。
「もう、男なら誰でも構わん! とにかく社交界に顔を出しまくってどうにか結婚出来そうな……いや、してくれそうな相手を自力で見つけて来い!」
そうしてお父様に夜会やらパーティーやらに連れ回される日々。
だけど、いつだって上手くいかなかった。
そもそも……男なら誰でも構わん、なんて酷すぎる。
結婚するのは私なのに。
そして今日も……
「いいか! アイリーン。お前の18歳の誕生日は来月だ! それまでに婚約者を見つけてくるんだ! いいな!?」
「はぁ……」
あまりにもやる気のない返事をしたせいでお父様に睨まれた。
「何だその返事は! 今日はアディルティス侯爵家のパーティーだぞ! 嫡男であるヴィンセント殿の花嫁探しのパーティーとなるだろうと言われているパーティーだ!」
「アディルティス侯爵家……」
「とうとう嫡男であるヴィンセント殿が成人を迎えたからな。本日、花嫁選びをするのだろう。あの家の結婚は特殊だ」
噂で聞いた事がある。
アディルティス侯爵家の花嫁選びは嫡男が成人を迎えると行われる。
その相手を見つける方法が特殊らしい、と。
「まさかお父様……私に侯爵令息様の花嫁に選ばれろ、と?」
「そこまでは言っておらん! あの家の花嫁が選ばれる方法はよく分からんからな。だがヴィンセント殿とお前は年齢も近い。彼の為のパーティーなら彼の友人も多く招かれているはずだ! そこを狙え!」
「えぇー……」
皆さん、お年頃だし既に婚約者がいると思うのよ。
と、反論したかったけれどガミガミ言われるだけなので諦めた。
とにかくお父様に押し切られる形で私はそのアディルティス侯爵家のパーティーに放り込まれた。
しかし。
確かに歳の近い男性は多くいたけれど、思った通り皆さん既にパートナーがいる様子。
今回も思うような成果は得られず、私はもう今夜も無理! と早々に見切りをつけ夜風にでもあたろうとパーティー会場を抜け出す事にした。
そうして廊下を歩き始めた所で、指輪──を拾った。
「あら、何かしら? 落し物……これは指輪、よね?」
庭へと向かう廊下の床に落ちていたのはどこからどう見ても指輪だった。
「誰かの落とし物? きっと今日ここに来ている人のものよね。装飾はシンプル。使われている石は……アメジストかしら?」
私はその指輪を手に乗せながらまじまじと分析する。
何だかその指輪に使われている石は、本日の主役であるアディルティス侯爵令息の瞳の色を彷彿とさせた。
もしかしたら彼を狙う令嬢の物かもしれない。
(……いや、それ以前にこの指輪を私はどこかで見た事がある気がする……どこでだったかしら?)
何だか胸が騒いだけれど分析を続ける事にした。
「サイズはー……女性用? でも、私にはどの指にもちょっと大きいわね」
サイズはどうかしらと自分の指のサイズと比べていた時だった。
ちょうど左手の薬指と合わせた時、まるで吸い込まれるかのようにその指輪が私の指にスポッとはまった。
「……は?」
何これ。今、何が起きたの?
「何で? さっきまでブカブカだったのに! やだ、何これ! どういう事!?」
慌てて指から外そうとするも、その指輪は私の指にぴったりとはまっていて何故か抜けてくれない。
「や、どうしたらいいの? このままでは、ど、泥棒になってしまう……!」
サイズを確かめようとはしたけれど指にはめるつもりは無く、さらに言えばサイズも合っていなかったはずなのに!
どうして、勝手にはまって抜けなくなっているのか意味が分からない!
そしてこんな事になってしまって指輪の持ち主が現れたら、なんて説明したらいいの……!
そんな一人パニック状態に陥っていた私に突然後ろから声がかかる。
「──そ、そこの君、ちょっといいかな?」
「!!」
その声に思わずビクリと肩が震える。
(こ、この声は……)
私はそろっと振り替える。すると思った通りの人物がそこに居た。
──本日のパーティーの主役であるアディルティス侯爵令息、ヴィンセント様。
目の前に現れた彼は相当動き回っていたのかハァハァと息を切らしていた。
これはよっぽどの事があったに違いない。
何を言われるのだろう? と、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、息を整えた彼は言った。
「ちょっと聞きたい事があるんだが、この辺で指輪の落し物をー……」
「ひっ!」
「……?」
ヴィンセント様の口から出たまさかの“指輪”という言葉に思わず過剰に反応してしまった。
そんな私の反応に彼は怪訝そうに眉をひそめる。
「あ……」
私はそっと指輪がはまってしまった左手を隠そうとするも遅く、ヴィンセント様にばっちり見られていた。
「──その指輪だ!」
「っっっ!!」
どうやらこの指輪の持ち主は本日の主役のヴィンセント様だったらしい!
(よ、よりにもよってこの方……!)
「見つけた!!」
「え、えっと……あ、あの……こ、これは私、決して盗もうとしたわけではなく……」
どこからどう見ても苦しい言い訳にしか聞こえないけれど、とりあえず弁解しようとする私の言葉を遮るようにヴィンセント様は叫んだ。
「見つけた! 僕の花嫁!」
「!?」
そう叫ぶなり彼は指輪がはまってしまった私の左手を手に取りながら言った。
「僕の運命の人はあなただ!」
「!?!?」
突然のその言葉に私はその場で卒倒しそうになった。
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