30 / 70
番外編~成長後~
3. アイラ ※再掲
しおりを挟むどうやら、アイラには何か思い当たることがあった様子────!
「なに? 何をやらかしたの!? アイラ!」
「……」
グイグイ勢いよく迫るとアイラが黙り込んでしまい、じぃぃっと私を見つめてくる。
「……」
「……アイラ?」
「……」
「…………アイラ!」
「……」
私が少し声を荒らげるとジョシュアが横からシュバッて来た。
「───おばあ様! アイラの心はガラス細工のように繊細なのです! 名を呼ぶ時はもう少し柔らかめにお願いします」
「繊細? アイラが?」
「繊細です!」
「……」
そう言い切るジョシュアに私は絶句した。
いやいや、さっきアイラは、
オ~~ホッホッホッ! って高笑いしていたでしょうに。
「ジョシュア……あなたね、どこに目と耳を付けているのよ?」
「どこ? 目と耳ならもちろん顔です! おばあ様」
「……」
ニパッ!
ジョシュアは屈託のない笑みでそう言い切りやがった。
そして、肝心のアイラは無表情でじぃぃっと私たちのやり取りを見ている。
(もう!)
笑顔でよく喋るジョシュアと、基本は無口無表情で静かなアイラ。
一見、正反対な兄妹だけれど“圧”が強いところはベビーの頃から共通していてとてもよく似ている。
(全く! 誰に似たのかしら…………やっぱりジョエル?)
いや、ここはもっと遡ってジョルジュ?
なんて、私が自分のことはすっかり棚に上げてそんなことを考えていたら、ついにアイラが動いた。
「……ふふっ」
セアラさんに似てとても可愛らしい笑顔を見せたアイラ。
それなのに……
(放ってるオーラがドス黒いってどういうことよ!?)
「お兄様、ありがとうございます」
「アイラ……!」
お礼を言われたジョシュアはニパッとアイラに笑った。
「そして、失礼しましたわ。おばあ様」
アイラが私に顔を向ける。
「おばあ様になんて説明しようかしら、と考え込んでおりました」
「そ、そう……」
「────実は、そのパーティーには不届き者がいましたの」
「不届き者?」
私が聞き返すとアイラはコクリと頷いた。
「あれは……今、思い出しても不愉快ですわ」
アイラの放つオーラがますますドス黒くなった。
「えっと……アイラ? それで?」
「……あの日の会場には、まるでおばあ様のようにグビグビとお酒を浴びるように何杯も何杯も飲まれている殿方がおりましたの」
「へぇ、お酒を……」
(ん?)
「わ、私のように?」
「はい。おばあ様のように、ですわ」
「……」
私は目を瞑って額に手を当てて考える。
“まるでおばあ様のように”
間違いなくアイラは今、そう言った。
(なぜ……?)
なぜ、アイラはまるで私を酒豪かのように言ったわけ……?
私は普通よね?
「───おばあ様? どうかしまして?」
「……!」
不思議そうなアイラの声に慌てて目を開けて顔を上げる。
「ホホホ! なんでもないわ。続けて頂戴」
続きを促すとアイラはコクリと頷いた。
「そして、その方は会場内の令嬢たちに絡みだしたのです」
「!」
「……嫌がる令嬢たちにその方は次から次へとしつこく迫っておりましたの」
「なるほど……はた迷惑な男ね」
私はウンウンと頷く。
「ええ。ですから───私、背後からその男を蹴り飛ばしてやりましたのよ」
「へぇ、背後から蹴………………りぃぃい!? アイラァァ!?」
「?」
流れでウンウンと頷きかけたものの物騒な発言に気付き驚きの声を上げると、アイラは「何か?」と不思議そうに首を傾げる。
「け、けけけけけけ……」
「おばあ様……それは淑女の笑い方としてはどうかと思いますわ?」
「!」
アイラが眉間に皺を寄せて怪訝そうに私を見つめた。
その皺の深さはジョエルを彷彿とさせる。
「違うわよ! 笑ったわけじゃないわよ!?」
「え……?」
「け、蹴り飛ばした!?」
「はい……?」
アイラは「え? 何か?」とまたまた不思議そうに首を傾げる。
「そ、その男は!?」
「吹っ飛びましたわ?」
「……そ、それで?」
その先を聞くのが怖くて怖くてしょうがないけれど、聞かずにはいられない。
「それで……? ああ! その方、ベシャッとうつ伏せになって床に潰れたので───」
「…………で?」
「飲みすぎ注意と叱らせて頂きました」
「!」
「あと、ついでに背中を踏んでおきましたわ?」
(アイラァァァァーーーー!)
私は声にならない叫びを上げる。
セアラさんに至っては天使の笑顔のまま固まっている。
これは明らかに現実逃避──帰って来て!! と強く願う。
「ふ、ふふふふふふ……」
「おばあ様? 今の話のどこにお笑いになるような要素が? 不快な殿方の話ですわよ?」
またしても、アイラが眉間に皺を寄せて怪訝そうに私を見つめた。
「違うわよ! 笑ったわけじゃないわよ!?」
「え……?」
「ふ、踏み潰した!?」
「はい……?」
アイラはコクリと頷く。
私はアイラに詰め寄った。
「その男は! どうなったの!?」
「え? グェッ! って……」
「グ……」
(そうだけど、そうじゃなーーーーい!)
「どうしてそこで、その男を踏み潰そうだなんて思ったの!」
「……」
「アイラ!」
一瞬、黙り込むアイラ。
そして、うーんと首を捻りながら言った。
「……あ、踏まなくちゃ! って思ったから……ですわね?」
「────!!」
(踏 ま な く ちゃ !?)
「その殿方も、わたくしに背中を踏まれたら酔いが覚めたようでその後は謝っていましたし」
「……」
「不愉快な出来事ではありましたが、結果としては丸く収まりましたわ!」
「……」
確かに酔いは覚めたかもしれない。
けれど、そのグェ男が別の世界にも目覚めた……なんてなっていたら……?
そんな不安が頭を過ぎる。
「あの時だけは、わたくしも少々注目を集めてしまいましたが……それくらいでしてよ? おばあ様」
「少々……」
絶対に“少々”ではないことが窺える。
それだ……
変なのがわいたのは絶対にそれが原因だわ……!
私は確信する。
「ねぇ、アイラ……あなた、もしかして……そのグェ男を踏みつけた時、笑った?」
「え?」
しばし考え込んだアイラは、ポンッと手を叩いた。
「コホッ、お恥ずかしながら……少々気分が高揚しておりましたので──おばあ様のように……」
「私のように」
「ホ~~ホッホッホッ! なんて不愉快な方ですの! さっさとその目を覚ましなさい! ……というようなことを……」
「……」
(アイラァァァァ……)
どこが言いつけ通り大人しくしていた、よ!
「───へぇぇ? アイラ、そんなことしていたんだね?」
ジョシュアが呑気な声でニパッと笑いながらそう言った。
そこでハッと気付く。
(そうよ! このシスコンはその間、何してたわけ!?)
あと、ガラス細工のような心……発言の訂正を求めたい。
ガラス細工の心の持ち主は間違っても男の背中なんて踏みつけないわよ?
「ええ、お兄様が御手洗に行くと言って三十分ほど私の前から居なくなっていた時の出来事ですわ」
「ああ! あの時か~」
ニパッ!
ジョシュアが明るく笑う。
(ジョシュアーーーー! この方向音痴ーー!)
「あの時は、不思議と会場に戻れなくて大変だったんだ」
「……別に不思議じゃないでしょう」
私は呆れる。
どうやったら御手洗で三十分も居なくなれるのよ……
「いえ、おばあ様。本当に不思議だったんです。ここかな? って開ける扉がことごとく違っていて」
「……」
(相変わらず、フラフラ物置部屋でも開けて回っていたのかしら……)
そう思いながら私はカップに手を伸ばしお茶を飲む。
もう叫びすぎて喉がカラカラに渇いている。
「そうそう! ───そうしたら、まだパーティーの最中なのにベッドで寝てる人にまで遭遇しちゃったんだ!」
「!?」
ブフォッ!
私は飲んでいたお茶を思いっきり吹き出しそうになった。
208
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる