31 / 70
番外編~成長後~
4. 無敵の笑顔 ※再掲
しおりを挟むゲホッゴホッ
「おばあ様? 大丈夫ですか?」
「っっっ!」
とんでもない発言をしておいて、キョトンとした顔で私を見つめてくるジョシュア。
「……」
アイラに至っては、
“おばあ様、淑女がお茶を吹き出してよろしいんですの? ”
なんて目でじぃぃっと私を見てくる。
「……っっ」
(セアラさん────ここは親としてビシッとジョシュアに説明を……)
こんなの私だけじゃ手に負えない。
そう思ってセアラさんに助けを求めようとした。
しかし……
(セアラさーーーーん!!)
セアラさんは両手で顔を覆って天を仰いでいた。
「セアラさん!」
「……お、お義母……さ、ま…………わ、私……」
思わず呼びかけると震える声で返事があった。
私は必死にセアラさんを宥める。
「落ち着いて! これはもう……そうよ! ギルモア家の血筋! 血筋よ!」
「そう……ですね。全てはギルモア家……お義父様とお義母様が出会ったところから全てが始まったんです………」
「ん?」
私とジョルジュの出会いから?
「アイラの踏みつけ……も」
「……っ!」
「振り返れば……ジョエル様の初夜の知識もおかしかった、わ。だから、ジョシュアは……」
「……っっ!」
なるべくしてなったとしか言いようのない可愛い孫たち……
チラッと視線を向けるとジョシュアがニパッと笑った。
「ウロウロしていましたら、人の声が聞こえたのでこの部屋だ! と思って開けたのです」
「……そ、そう……開ける前に扉の大きさで気付いて欲しかったわ…………そうしたら人が寝ていた、のね?」
「でも、何故か部屋が暗かったんです」
「……」
(でしょうね……)
「あ、ここじゃなかったんだ……! そう思って引き返そうとしたら、誰だ!? って男の人の声がして女の人のきゃっ! って声もしました」
「……」
(遭遇してたーー! ばっちり遭遇していたわーー)
一縷の望みをかけて、本当に眠っていただけ……を期待してみたけれどダメだった……
女性の声の時点でもう決定的。
(全く! どこの若者よ! パーティーの最中に!)
ギリッと唇を噛む。
でも、部屋が暗かったことでお互いの顔は見えていなかったはず。
そして、ピュアなジョシュアが彼らが何をしていたか分かっていなかったことが幸い───……
「だから僕、ジョシュア・ギルモアです! と名乗りました」
ニパッ!
ジョシュアは満面の笑みでドンッと胸を張ってそう言った。
「…………んあ?」
今、この子……なんて言った?
私はおそるおそる聞き返す。
「名、名乗っ……た? ジョシュア。あなた名前を……名乗ったの?」
「はい! 誰だ!? と聞かれましたから答えるのは当然です!」
ニパッ!
(ニパッ! じゃないわよーー!?)
そうだった。
この子はニコニコしているけど、あのジョエルの子……
ドーンとぶつかって来なさい! と言えば、本当にドーンとぶつかって来たジョエルの息子!
「おばあ様?」
「ホホホ、名乗っ……名乗っちゃった……のね、ホホホホホホ……」
こんなのもう笑うしかない。
「パーティーの最中に? …………その方たちも酔ってらしたのかしら?」
「アイラ?」
そこで口を開いたのはこれまで静かに話を聞いていたアイラ。
私やセアラさんがこんなにアタフタしているのに無表情。
「ど、どういうこと?」
「え? わたくしには分からないのですが、お酒って飲んだら眠くなるのではなくて?」
アイラは不思議そうに首を傾げて私を見る。
「……ま、あ、そうね。でも、アイラ? それは誰から聞いたの?」
「おじい様ですわ?」
アイラは淡々と語る。
「いつだったかしら? 昔、おばあ様がグビグビと気持ちよさそうにお酒を飲みまくっている姿を見たわたくしはおじい様に訊ねたのです───お酒を飲むとどうなるの? と」
「訊ねたの……人選ミスじゃないかしら?」
なんでジョルジュなのよ。
絶対に聞くべき相手を間違えている。
「おじい様は……」
「……なんて言っていた?」
「お酒を飲んだ時のおばあ様が如何に気高く美しいかを延々と語ったあと……」
「は?」
(ジョルジューー!?)
「最後はぐっすり寝る! と仰っていましたわ?」
「待ちなさいよ。酒を飲まなくても人は寝るでしょ……」
「ですが、いつも酔っ払って眠ってしまったおばあ様をベッドに運ぶのはおじい様のお役目ですわよね?」
「え?」
そう言われれば……
夜、ジョルジュと飲んでいると、たいてい気づくと朝。
私はいつの間にかスヤスヤとベッドで眠っているわね……?
(あれは毎回、ジョルジュが運んでくれていた……?)
「こうなった時のガーネットは何をしても全然起きないんだぞ! と自慢気に語っていましたわ?」
「…………何をしても起きない?」
「ええ」
アイラはコクリと頷いた。
「……へぇ」
(これは、後でジョルジュさんとは膝を突き合わせてじっくり話す必要がありそうね?)
でも───今はそれよりも、ジョシュア!
ご丁寧に名を明かしちゃったこの子の運命の方が心配よ!
「ホホホ、それでジョシュア? あなた、その人に名乗ってからどうなったのかしら?」
私の質問にジョシュアはニパッと笑った。
「このことは絶対に口外するんじゃねぇ! 黙ってろ! と言われました!」
「脅しよね? それ…………笑顔で報告することかしら?」
脅されたはずなのにこの笑顔……
そんなジョシュアはニコニコ笑顔のまま続ける。
「それで僕は、おばあ様の……いきなり怒鳴りつけてくる人の言うことなんて聞く価値無し! という教えを思い出したので───」
「それ、あなたがベビーの時に言った話じゃない?」
(あうあ! って、笑ってたけど……)
「だから僕は、嫌です! と言いました!」
「え」
「そうしたら、男の人はびっくりしちゃって……」
(でしょうねぇ……)
ジョシュアのことだから、満面の笑顔で首を横に振ったに違いない。
「なるほど金か!? 小僧! 口止め料を寄越せとでも言うつもりだな! とも言われました!」
「……なんて答えたのよ」
「はい! もちろん……」
ニパッ!
もうこの笑顔が怖い。
「お金には困ってないので要りません! と断りました!」
「……確かに困っていないわねぇ」
その通り。
その通りなんだけど、どうしてこの子はどんどん燃料を投下していくのかしら?
それも笑顔で。
「で? どうなったの?」
「───どうもお邪魔しました。僕はこれで失礼します! ごゆっくりおやすみ下さい。と挨拶して部屋を出ました!」
「……そ、そう」
どこの誰の逢い引きかは知らないけど、唖然としたでしょうね。
「僕、本当にびっくりしたんです。“あんなに偉い人”がパーティーの最中に寝ていたんですから」
「……は?」
あんなに偉い人?
「え? ジョシュア。その辺の若者ではなかったの?」
「若者? 違いますよ、おばあ様。あの男の人は我が国の大臣の一人、侯爵です」
「は……!?」
私は耳を疑った。
でも、ジョシュアはニコニコ笑顔のまま。
「待ってよ。部屋は暗かったんでしょう? なんでそこまで分かったわけ?」
「え? 確かに顔は見えなかったです。でも、そんなの声で分かりますよね? おばあ様」
「……声」
「はい! 声です! ちなみに一緒にいた女の人は伯爵夫人です!」
「───!?」
ニパッ!
「どちらの方々も、ご挨拶したことがあるので間違いありません!」
ジョシュアはニコニコ顔のまま胸を張っている。
私の頭の理解が追いつかなかった。
「え? つまり不貞……」
そしてジョシュアは声だけで人を判別したわけ?
なにその特技……!
私が頭を悩ませているとジョシュアは更にとんでもないことを暴露する。
「それで、どうにか苦難の末に会場に戻ったら、ちょうど侯爵夫人が大臣を探しているところに遭遇しました」
「……は?」
嫌な予感がする。
私は震える声で訊ねた。
「ねぇ? ジョシュア……あなた、まさか」
「はい! 僕はきちんとご案内しました! 侯爵様はお疲れのご様子でお部屋で休んでいますよって!」
「……」
「それを聞いた侯爵夫人は鬼のような顔をして会場を出て、僕が来た方──奥へと走って行きました!」
ニパッ!
ジョシュアは満面の笑みでそう言い切った。
それから、数日後。
大臣を務める件の侯爵とどこぞの伯爵夫人の不貞の話が一気に社交界に広がり、
その大臣は追い詰められ、なんと他の悪事も行っていたことまで発覚し大騒ぎに。
また、そんな諸々の取り調べの最中に大臣は、
ジョシュアに不貞現場を目撃されたのが全ての始まりだった、
あの笑顔が恐ろしい……と語ったことで───
────微笑みの貴公子、ジョシュア・ギルモアの名は一気に社交界に広まった。
181
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる