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番外編~成長後~
5. ギルモア家の人々 ※再掲
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「ガーネット? 今夜も飲むのか?」
「ええ───私に付き合いなさい! ジョルジュ!」
グビッ
そうして、私は手に持っていたグラスのお酒を勢いよく飲み干す。
「…………大臣の件でジョシュアが有名になってしまったわ」
「らしいな」
グビッ、グビッ
「中身は、本当にやっべぇけれど見た目はあれでしょ? ますます愛でる会が大盛況なんですって」
ジョシュアを愛でる会とやらの話を聞いた時、
会員は年頃の男女が多いと聞いていたのに……
笑顔で大臣を追い詰めた男として有名になったジョシュアは幅広い年代から注目され……
「私たちのような祖父母の年代は、特にあのニパッ! って笑顔が堪らなく可愛いんですって」
「実際、可愛いだろう」
「……」
否定は出来ない。
未だにあの笑顔を見ていると脳裏に“あうあ! ”って幻聴が聞こえるし。
「とりあえず、ジョシュアは要注意ね……目が離せないわ」
グビッ、クビッ、グビッ
空になったグラスをテーブルに置いた私はじっとジョルジュを見つめる。
「ガーネット?」
「ところで、あなた……」
「?」
私はジョルジュの頬に向かって自分の手を伸ばす。
そして、むにぃと頬をつねってみた。
「!?」
突然、頬をつねられたジョルジュが目を丸くする。
「ハーヘッホ? ほ、ほへは、なんほほほーひは?」
「これはなんのご褒美? 違うわよ!」
「??」
「…………あなたも、あの子みたいに社交的でニパッ! って笑う人だったらモテモテだったのかしら? そう思ったのよ」
「ほへほへ……」
ジョルジュ、ジョエル、ジョシュアの三人は本当に外見はそっくりだから。
「……」
「ハーヘッホ?」
「それはそれで何だか、非常に面白くないのよ」
「?」
私はフッと笑ってからジョルジュの頬からパッと手を離す。
そして新たな酒を手にしてグビグビ飲み干した。
「ホーホッホッホッ! まあ、仮にそうだったとしても私のこの美貌を使って、貴方をこの私に夢中にさせるだけだったけどねっ! ホ~ホッホッホッ!」
「……よく分からないが、ガーネットが楽しそうで何よりだ」
そう言ってウンウンと頷くジョルジュを見て私はふと思い出した。
(そうだったわ。あの日、アイラから聞いた話、まだ問い詰めていなかったわ?)
あの夜は、ジョシュアの話が刺激的すぎて問いただせなかった……
グビッ!
「ホホホ! ところで、ジョルジュさん」
「……ジョルジュさん?」
ジョルジュの眉間に皺が寄る。
「アイラから聞いたの。酔って寝こけている私であなたが何かして遊んでいたことがある、と」
「……!?」
クワッとジョルジュの目が大きく見開かれる。
「それ、本当かしら?」
「遊ぶ!? 誤解だ! 俺はいつだって眠ってしまったガーネットをベッドに運んでは寝かせ……」
「へぇ、誤解……」
椅子に足を組んで座っていた私は、足を組み直しながらチラッとジョルジュに素足を見せる。
ここはチラ見せがポイントよ!
「!」
「……ふふふ」
思った通り、ジョルジュの目線がチラッチラッの私の足に向かう。
「くっ……」
(ホホホ! この足に踏まれたいんでしょ? その顔に書いてあるわよ!)
ピー歳になった私もまだまだ元気。
これも、あの暴走天使の孫たちに付き合い続けた結果よ。
「ホホホ! 素直に白状したら今日は気持ちよ~~く踏み踏みしてあげるわ?」
「なっ! 踏……!!」
クワッ! 更に目を大きく見開いたジョルジュ。
あっさり釣られた夫に私はフフフと怪しく笑う。
そして立ち上がってジョルジュに近付いて顎を指でクイッと持ち上げた。
「さあ、白状なさい?」
「くっ……」
「さあ! それとも踏み踏み大サービスは不要かしら?」
「くっ……大サービス……!」
観念したジョルジュは珍しく頬をほんのり赤く染めながら言った。
「…………ツンツン」
「つ?」
私が聞き返すとジョルジュの顔が更に赤くなる。
「………………ガーネットは、昔から」
「え? 昔から?」
「酔って眠っている時に……」
「に?」
「頬を……こうツンツンする、と」
ジョルジュがツンツンの仕草をする。
「…………と? なに?」
どうやら、ジョルジュは私の頬をツンツンしていたらしいことは分かった。
「……」
「……」
「……」
「……早く言いなさいよ!」
ハッとしたジョルジュは照れながら言った。
「────えへへへ、と幸せそうにふにゃって笑うんだ」
「ふっ!?!?!?」
(ふにゃ!?)
「何年経っても、それが珍しくて珍しくて珍しくてそれが可愛くて止められなかった……」
「~~~~っっ」
────照れながらそう白状された私はそのまま撃沈した。
「~~えいッ!」
「…………んグッ」
どうにか立ち直り、気を取り直した私は約束通りジョルジュの背中をムギュっと踏みつける。
「ああ、これぞ、ガーネットの刺激…………やはりこれだ」
「やはり?」
「……ぅグッ」
喜びいっぱいな様子のジョルジュを更に踏みつけながら聞き返す。
「実は先日、偶然アイラに踏まれてしまったんだが…………どこか物足りなかったんだ」
「……は?」
「やはり、俺はガーネットじゃないとダメなのだと実感した……」
「!?」
今、絶対に聞き流してはいけない言葉が聞こえた。
「待って。アイラ?」
「ああ。ちょっと邸内の廊下で行き倒れていたら、たまたま迷子中のアイラが通りかかってな」
「……行き倒れの祖父と迷子の孫の遭遇?」
あなた、何年この家に住んでる?
それから、アイラも迷子中って。
あの子も何をやってるの?
この時点ですでに色々聞きたくなっていたけれど我慢して続きを聞く。
「そして、行き倒れた俺を発見したアイラはなんの一切の躊躇いもなく俺の背中を踏んだんだ……」
(アイラーーーー!)
「なんでよーー!」
また、
あ! 踏まなくちゃ……と思ったとでも言うつもりかしら!?
「邪魔だったからだろうな───御機嫌よう、おじい様。そんなところで遊んでいたらわたくしの通り道の邪魔ですわ? 表情一つ変えずにアイラはそう言った」
「……遊ぶ……」
「残念ながらまだまだ刺激は足りなかった……が、俺は感動した。ジョエルにアイラ……邪魔者は常に踏みつけていくガーネットの潔いスタイルはきちんと引き継がれているのだな、と」
「何に感動してるのよ……おかしいわよ!?」
邪魔者は踏みつけていくスタイルですって?
確かにこれまで私が潰してきた人間は数知れず。
でも、物理的に踏み潰したのは後にも先にもジョルジュだけなのに。
「そして、俺は確信する。アイラはやはりガーネット似だ」
「いや、見た目はめちゃくちゃセアラさんでしょ……」
「ガーネット……俺には分かる…………あの子は将来、もっと大物になる!」
「───聞きなさいよ! それからそんな大物になんてならなくていいわよ……!」
(既に一部界隈では女王様って人気らしいし───……)
ただでさえ今はジョシュアが注目を集めているのに。
手紙の山はどんどん増えるばかり。
これ以上アイラまで──なんてなったらもう手に負えない。
(お願いよ……このまま、このまま平穏に……)
なんて願ったけれど、それをぶち壊して突き進むのがアイラ。
なぜなら……
「おはようございます、お義母様」
「おはよう、セアラさん」
翌朝、朝支度を終えた私が食堂に向かうとそこにはセアラさんの姿。
そして───
「ホホホ! 今朝もすっかり馴染んだ光景ね!」
「はい」
いつものように朝日を浴びたギルモア家の置物たち。
「一、二、三……」
ジョルジュ、ジョエル、ジョシュア……
「…………そして、四!」
「まさか、アイラまでこうなるなんて思いませんでした」
「そうねぇ……」
セアラさんがため息を吐いた。
私も一緒に息を吐いた。
───そう。
ギルモア家の朝の名物、置物───今、そこは三体ではなく、“四体”
ジョシュアの後を追うようにある日、アイラも置物化した。
ジョルジュ、ジョエル、ジョシュア、そしてアイラ。
アイラは紛うことなき、ギルモア家の血をとても色濃く継いだ我が家の最強お姫様だった。
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