最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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番外編~成長後~

9. 合言葉は

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 ヒュン、ヒュオン!   ヒュン!

「見てくださいませ、お兄様! わたくし、だいぶ上手く扱えるようになりましたわ!」
「うん。すごいよ、アイラ!」 

 ニパッ!
 購入した自分専用の鞭を手にして興奮するアイラといつものニパニパ笑顔のジョシュア。
 ヒュン、ヒュン、ヒュン……
 二人が居る部屋には鞭のしなる音が先程からずっと響いている。

(~~~っ!)

 廊下を歩いていた私は今、不審な音が気になってその様子を廊下からこっそり覗いているところ。

「鞭を自在に操る天使のアイラの姿───うん。まるで、おばあ様みたいだ!」

 キラキラ目を輝かせたジョシュアの発言に力頷くアイラ。
 私は耳を疑う。

(な  ん  で  よ  !?) 

 この子たちの昔からなんでもかんでも私に結びつけようする癖、どうにかした方がいいと思う。

「お兄様、これ……おばあ様を深く深く敬愛するわたくしには───もう手放せそうにありません」
「天使の君にとってもお似合いだよ、アイラ」
「ありがとうございます」

 フフフと笑うアイラ。
 その顔は確かに天使、天使だと私も思うけど!

(天使は鞭なんて持たないと思うわよ?)

 ジョシュアの天使の概念、どうなってんの?
 そんなジョシュアは、うっとりした目でヒュンヒュンしているアイラの鞭さばきを見つめている。

(あああ、やっぱりこれジョシュアの新たな扉が完全に開いてる!)

 私には分かる……
 ジョシュアの目は“あれに打たれてみたい”と言っている───……
 私は頭を抱えた。
 ベビーの頃から、人を踏みたいだの踏まれたいだの…… 
 幼馴染でもあるエドゥアルトの娘、ナターシャからどんなに罵られても殴られても蹴られても不快どころか常に嬉しそうな様子を見せてきたジョシュア。
 あれは、大人の対応で熱くなってるナターシャを躱しているわけじゃない。
 心の底から喜んでいるのよ……!

「お兄様はこれ使いませんの? お貸ししますわよ?」

 アイラが鞭を見せながらジョシュアに訪ねた。

「ううん、大丈夫。僕はおばあ様やアイラが振り回してるのを見る方が好きだから」

 ───そして、僕はそれに打たれてみたいんだ!

 ほらほらほら!
 続きがそう聞こえるのは私だけかしら? 

(全く……困った兄妹だわーー……)

「───ガーネット」
「ひっ!?」

 やれやれと呆れたその時だった。
 ポンッと私の肩が叩かれる。
 全く気配を感じなかったので驚いて小さな悲鳴をあげながら振り返ると、そこには最愛の夫、ジョルジュの姿。
 ジョルジュは不思議そうに首を捻った。

「さっきから、なぜ、そんな所から堂々と部屋の中を覗いているんだ?」 
「え? 私はこっそり覗いてるんだけど」
「こっそり?」

 さらに不思議そうな顔をするジョルジュ。
 そして、しばらくうーんと考えた後、ふはははと笑った。

「なんで笑うのよ?」
「駄目だ。ガーネット、君に“こっそり”なんて似合わない」
「は?」

 相変わらず意味不明な発言をされて私が顔をしかめると、ジョルジュは胸を張って言った。

「こっそりなんて生ぬるいじゃないか! 堂々と覗いてこそガーネットだ!」
「え?」
「さあ行くぞ、ガーネット!」
「は? ちょっと、行くってどこに!?」 
「そんなの決まってるだろう! 部屋の中だ!」
「んあ!?」

 ジョルジュは私の腕を掴むと、そのままノックもせずに堂々と二人のいる部屋の扉を思いっ切りバーンと開けた。

(えええ……!)

「あれぇ? おじい様とおばあ様? どうされたんですか?」

 振り向いたのはジョシュア。
 ノックも無しに扉が開けられたというのに、驚く様子も怒る様子もなくニパッと笑いかけてくる。
 アイラは訪問者に興味が無いのかこっちも見ずにひたすら鞭をビュンビュンふるっている。

(少しは気にしなさいよ……)

「どうっていうか……」
「安心しろ! お前たちの会話の盗み聞きだ! 気にせずそのまま鞭さばきも会話も続けてくれて構わないぞ!」
  
(ジョルジューー!?)

 私がなんて説明しようかしら? と口ごもった横で、堂々と盗み聞きしていた宣言をするジョルジュ。
 しかも、気にするなって。
 それは無茶じゃない? と思った時、ジョシュアがまたニパッと笑った。

「分かりました! じゃあ、アイラ。次はその鞭をもっと高い位置からふるってみようか?」
「はい、お兄様!」

(……あ?)

 盗み聞きされていたことに関しては全く触れず、あっさりと次はこういう動きを付けてみたらどうかなぁ? などとアイラへ動きの提案を呑気にし始めるジョシュア。

「もうっっ! マイペース過ぎるでしょ!!  少しは気にしなさいよーー!」
「え? 気にする? 何をですか?」

 耐え切れなかった私が思わず怒鳴るもキョトンとした顔を向けてくるジョシュア。
 こういう所は、ベビーの頃から本当に変わっていない。

「~~っ、だから……」
「おばあ様! 今、僕とアイラは、この鞭をどうすればおばあ様のように美しく操れるかの研究中なのです!」
「は? 私のように?」
「────ホーホッホッホ! わたくしにひれ伏しなさい!」

 その時、ペシペシとアイラが鞭を床に叩きつけながら高らかに笑った。

「アイラ! いいね、その笑い方はやっぱり女王様みたいだよ!」
「ええ、やはり高笑いは外せませんわ、お兄様」
「うん! おばあ様みたいだ」
「……いいえ、それはまだまだですわ」

 ジョシュアに褒められたアイラ。
 だけど、何故かそれを否定するように首を横に振った。

「え? どこがだい?」
「だって、おばあ様はもっともっと高音域で、まるで自然と歌っているかのように滑らかな高笑いをされるんですもの」

(───はぁあ!?)

「アイラ! その通りだ! よく分かっているじゃないか!」
「おじい様?」

 ここで興奮したジョルジュが前に進み出るとアイラの肩をガシッと掴んだ。
 私の夫は突然何に興奮してるわけ?

「ガーネットのあの美しい高笑いは唯一無二のもの! あの高音はガーネットにしか出せないと俺は思ってる!」
「は? いや、アイラでも出せるで……」
「いいや! まだまだだ。アイラとガーネットでは年季が違うからな!」
「ねぇ、聞いてる? ジョル……」
「俺には分かる……ガーネットは生まれた時からオギャーではなく、オーホッホッホと笑っていたに違いない!」
「ちょっ……」

 そんなわけないでしょ。
 愛する夫が私の言葉を遮りながら、いつものように頓珍漢なことを言い始めた。
 さらにそこに無敵の男、ジョシュアが加わる。

「あ! 分かったよ、おじい様。つまり、僕の“あうあ”みたいなものだね!」
「そうだ。もう身体の一部のように馴染んでいるんだ!」
「はぁ!?  あうあとですって!?  それとこれとは全然違うでしょ!」

 私はニパッと笑いながら適当かつ呑気な発言をするジョシュアと、これまた深く考えずに適当に肯定するジョルジュのことを睨みつけた。
 しかし、そんなことをしても、一切気にしないのがギルモア家の人間たち。
 それからも和やかに会話は続く。

「そっかー。アイラはベビーの頃から繊細で静かな子だったし、まだ馴染めていないってことか」
「そうなのです、お兄様……」

 アイラは俯きながらギュッと鞭を握りしめた。
 いやいやいや、アイラは声は小さいながらもベビーの頃から私の真似をして高笑いもしていたと思うんだけど?
 そして、あの無口無表情っぷりを“繊細で静かな子”で片付けるジョシュア……

「分かった! アイラ、それならこれから僕といっぱい特訓しよう!」
「特訓?」
「そう、いっぱい笑うんだ。僕も手伝うよ!」
「お兄様……!」

 パッと顔を上げたアイラの目が輝いた。

「アイラ、いいかい? 合言葉は“目指せ、おばーさま! ”だよ?」
「はい! 目指せ、おばーさま! ですわね?」
「そうだよ! せーの……」

 ジョシュアとアイラが目配せして息を合わせて声を揃えた。

「「目指せ、おばーさま!」」

 ヒュン、ヒュォン、ヒュンヒュン……
 アイラは、ホッホッホと小さく笑いながら元気に鞭をふるう。
 そんな妹の姿をジョシュアが嬉しそうに笑って見守っている。

(さっきから、私は何を見せられ、聞かされているの……)

 私が頭を抱えていると、ジョルジュまでキラキラ目を輝かせながら声を弾ませた。

「ガーネット! これはアイラの将来がますます楽しみだな!」
「……」

 ジョルジュのこの言葉、もう何度聞いたかしら?
 アイラが成長する度に聞いている気がする……

「私は楽しみより不安よ……」
「なんでだ? ガーネットみたいになれば無敵だろう?」
「む……」

(無敵!)

 愛する夫は不思議そうに首を傾げていた。



 ───そして、その夜。
 夫婦の寝室。

「さあ、ガーネット! 今夜も頼む」
「……」

 ジョルジュがキラッキラの目で(私専用の)鞭を手渡してくる。
 私は頬を引き攣らせ深いため息を吐いてからそっとそれを手に取った。

「ねぇ……毎晩毎晩、飽きないの?」
「全く。鞭をふるうガーネットは特段に美しいからな!」
「……くっ!」

(なんてチョロいの、私……)

 ヒュンッ
 愛する夫、ジョルジュに嬉しそうな顔でそんなことを言われた私は、今夜もジョルジュの前で夜通し鞭さばきを披露することになった。 
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