最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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番外編~成長後~

10. ナターシャ

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 最近、“ギルモア侯爵令息ジョシュア様を愛でる会”とやらが活発な動きを見せているらしい。
 そう。
 微笑みの天使と悪魔という両方の名を持つ私の可愛い孫、ジョシュアのファンクラブ。
 大臣の不倫スキャンダル発覚から、会員数はどんどんどんどん増え……

「でーすーかーら! どうしてわたくしが会長なんですの!」

(……ん? この声はナターシャ?)

 そして、その被害は、コックス公爵家の令嬢ナターシャにまで被害が及んでいた───



 今日は王宮でパーティーが開かれている。
 そんなパーティー会場の片隅でナターシャが声を荒げていた。

「誰が相応しいか皆でたくさん考えました───が、やはり、ナターシャ様しかおりません!」
「そうです!」
「なんでですの!」

 毎回毎回邸の中でも外でもフラフラフラフラヘラヘラヘラヘラして突然行方不明になるジョシュアを探し回っては無事に見つけて首根っこを掴んで引きずり捕獲してくれているナターシャ。
 もちろん、王族の血が流れる公爵家のご令嬢がすることではない。
 だけど、ナターシャの性格上、目の前で消えられると放ってはおけないらしい。

(頭が上がらないうえに、いい子すぎて泣けてくるわ……!)

 さすがエドゥアルトの子。
 ベビーの頃から、ジョシュアを憎いと言い続けて、かれこれ十五年以上は経つというのに……
 ナターシャの性格と面倒見の良さが完全に滲み出ちゃっている。

「ジョシュア様とは幼馴染……」
「ただの腐れ縁ですわ!」

 プイッと顔を逸らすナターシャ。

「ジョシュア様とは仲が良く親友……」
「向こうが勝手に言ってるだけですわ!」

 フンッと鼻息荒くするナターシャ。

「ジョシュア様を最も理解し……」
「した覚えはありませんわ!」 

 ジロッと睨みつけるナターシャ。

「あなたたち! いい加減にしてくださるかしら!?」
「ひぃっ!」
「も、申し訳ございませーーん」

 レティーシャさん譲りの強い目を受け継いでいるナターシャに睨まれた令嬢たちが怯えながら小さな悲鳴を上げた。

(そりゃ、睨みつけたくもなるわよねぇ……)

 今の会話からも分かるように、なんとナターシャは“ギルモア侯爵令息ジョシュア様を愛でる会”の会長職を打診されているという。
 打倒ジョシュアを幼少期……いえ、ベビーの頃から掲げているナターシャにそんなことを頼み込むなんて……

(そもそも、ナターシャは愛でる会の会員ですらないでしょうに……)

 毎度毎度、ギルモア家のことに巻き込まれてしまっているナターシャに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「───賑やかだな」
「あら、ジョルジュ」

 背後からヒョイっと顔を出したのは私の夫、ジョルジュ。
 そして私の目線の先、ナターシャたちを見て目を細めた。

「エドゥアルトの娘はあそこで何をしているんだ? 他の令嬢がひれ伏してるじゃないか」
「令嬢の世界もね───色々あるのよ」

 私は手に持っていたグラスのワインをグビっと飲んだ。

「色々? …………分かったぞ! あれは女王様ごっこか!」
「じょ……」

 ジョルジュの口から飛び出した頓珍漢な発言に思わずワインを吹き出しそうになる。

(あ、危な……)

 危うく大惨事になるところだったじゃないの。
 本当にジョルジュは油断ならない。

「ガーネット?」
「……」

 私は軽くコホンッと咳払いをしてからジョルジュに訊ねる。

「……ねぇ、あなた? そろそろ眼鏡でも作る?」
「なぜだ? 俺の視力は昔から変わってないぞ?」
「ホホホ、そうかしら?」
「任せろ! ガーネットの顔の皺の数だって詳細に分か……」
「───お黙り!」

 私は手に持っていたグラスを素早く近くのテーブルに置くと、並んでいたパンを手に取ってジョルジュの口の中に突っ込んだ。

「ングッ」

 パンを加えたジョルジュは大人しくなってモグモグし、やがて飲み込んだ。

「美味いな」
「ホホホ、それは良かったわ」

 王宮で出されたカッチカチのパンに衝撃を受けたのはもう何十年前になるかしらね……

(貧乏王家もだいぶまともになってくれて良かったわ)

 あの時、王子を廃嫡させたことは無駄じゃなかった。

「それで? 女王様ごっこでないならあれはなんなんだ?」
「そもそも……どこをどう見たら女王様ごっこに見えるのよ?」

 私が訊ねるとジョルジュはすぐに答えた。
  
「エドゥアルトの娘はガーネットを崇拝して憧れているだろう?」
「だから?」
「だからだ!」 
「……」

 力強く答えたジョルジュの顔を見て私は思った。

(ジョルジュ……未だに私が国を欲してるとか思ってるんじゃ?)  

「違うわよ───ナターシャは巻き込まれてしまっているのよ」
「何にだ?」
「そんなの……決まってるでしょ? アレによ」

 私はちょうど会場の入口の扉からヒョコッと顔を出した一人の男性を指さした。

「アレ」
「そう、アレ」

 ジョルジュがコシコシと目を擦る。

「ガーネット。俺にはアレがジョシュアに見える」
「ええ。パーティー開始してすぐに手を洗って来ます! と言ったきり行方不明になってた私たちのお孫さんね」 
「では、アレは本物のジョシュアか。しかし、パーティーはもう中盤に差し掛かってるぞ?」
「ホーホッホッホッ」

 また、変に大物の不倫現場に遭遇してないといいけどね!

「とりあえず、ナターシャを回収してジョシュアの元に行くわよ!」
「お、おう?」

 私はグラスのワインをグビッと飲み干してから颯爽と歩き出した。





「───ナターシャ」

 私が声をかけるとナターシャがハッと顔を上げた。

「ガーネットおば……あ、いえ、ギルモア侯爵夫人」

 私はにっこり笑って告げる。

「あの子、戻って来たわよ。愛でる会の件───文句は直接あの子に言いなさい」
「あ……」

 会場の入口に視線を向けたナターシャはコクリと頷いた。

「そうしますわ─────ジョシュアァァァア!」
「「!?」」

 突然、ジョシュアの名を叫び、駆け出したナターシャに向かって会長職の打診していた令嬢たちが呆気に取られる。

「え、あ、ナターシャ様!?」
「お待ち下さ……」
「ジョシュア! 今から一歩でもそこから動いたらはっ倒しますわよーー!」

 ナターシャのそんな叫びがちゃんと聞こえたのか、ジョシュアはこっちに視線を向けるとニパッと笑って手をフリフリする。

(ジョシュア……その呑気な笑顔と態度は間違いなく火に油を注ぐ行為よ……)

 私が苦笑していると、思った通りジョシュアの元に向かって走っているナターシャはグンッと加速した。

「そのヘラヘラ顔、わたくしに喧嘩を売ってますのーー!?」

(ほらね……)

「……すごいな、エドゥアルトの娘。今、加速したぞ。ヒールの靴を履いているんだろう?」
「ホーホッホッホッ、執念と鍛えてる証拠ね! 若いっていいわねぇ」

 かつてパーティーとなると私とベビーのジョシュアの追いかけっこがお決まりだった。
 それが今は……

(追いかける役目はナターシャに変わったわ)

「ほっほっほ────ジョシュア! ようやく戻って来ましたわね!?」
「ナターシャ?」

 無事にジョシュアの元に辿り着いたナターシャはジロッと睨み付ける。
 しかし、ジョシュアはきょとんとした顔で首を傾げた。

「ほっほっほ! ナターシャ? ではなくってよ!」
「え? でも、君はナターシャだよね?」
「……お黙りなさい!」 
「あ、」

 ナターシャはガシッとジョシュアの胸ぐらを掴んだ。
 そして、ジョシュアをガクガクと前後に揺さぶる。

「うあ……」
「知ってます? あなたのせいで、わたくしには連日、会長への打診が止まりませんのよーー!」
「えええ?」

 ───あうあ~~

 揺さぶられているのにそんな幻聴が聞こえてきそうなニッパニパの顔で笑うジョシュア。

「ガーネット! 見てみろ、あのジョシュアの嬉しそうな顔! ────あの子……動きがガーネットに似てきたな」
「ホホホホホ」

 コックス公爵家のお姫様は今日も元気にジョシュアを喜ばせていた。

 
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